トヨタはEVに慎重すぎる? エアコン使用で航続距離が2割減る狙いとは【週刊クルマのミライ】

■電気自動車は空調を使うと航続距離が減る?

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カタログスペックでの電費性能はわずかにソルテラが優勢だがリアルワールドでは電費性能の差は感じられませんでした

先日、トヨタスバルが共同開催した「bZ4X SOLTERRA 公道試乗会」に参加することができました。

ご存知のようにトヨタbZ4Xとスバル・ソルテラは両社が共同開発した電気自動車(BEV)です。今回の試乗会は、東京から静岡・名古屋・金沢・軽井沢と中継しながら、ふたたび東京に戻るというルート設定で、そのルートを5区間にわけてモータージャーナリストやメディアのスタッフが試乗するというものでした。

BEVといえば長距離ドライブに様々な課題があるというのは、多くのドライバーが持っている印象でしょうが、そうした課題についての現状とトヨタ・スバルの対策を感じることができるルート設定になっていたともいえます。このあたり、あえてBEVの普及には自動車メーカーだけでは限界があるということをアピールする狙いがあったのかもしれません。

そうした姿勢は、これまでのトヨタのBEVに対する慎重な態度からも見て取れるのですが、車両の設計レベルでもそうした意思は端々に感じられるものでした。

たとえば「BEVはエンジンという熱源を持たないために暖房を使うと航続距離が減ってしまう」というのは、電動化時代の新常識として喧伝されるものですが、冷房のほうは暖房ほど影響を受けないはずです。

しかし、bZ4Xについては冷房を入れたときにも必要以上に航続距離が減ってしまう印象がありました。電欠で止まってしまうことを避けるために、必要以上に短めに航続可能距離を表示している印象を受けたのです。

●総電力量71.4kWhの8割充電346kmは控えめな印象

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バッテリー充電率が8割程度での航続可能距離は346kmと表示されていました(エアコンオフ時)
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エアコンを入れると航続可能距離の表示は2割減の274kmとなりました

こちらの写真は、おおよそ8割程度の充電率での航続可能距離を表示したものですが、エアコンオフでは346kmだった航続可能距離が、エアコンを入れただけで274kmに減っていることが確認できます。計算すると、エアコン使用によって2割減となっています。

これが、ものすごく暑い日であったり、はたまた氷点下に近い寒い日であったりしたならば納得できるかもしれませんが、メーターの外気温度計は23~24℃を表示するような環境で、なおかつエアコンの設定温度は25℃という状況。エアコンがフル稼働するようなシチュエーションではなく、ここまで電力を消費してしまうというのは非現実的な計算という印象を受けます。

もちろん、エアコンの消費電力という点においても、各自動車メーカーの技術力に差はありますから、bZ4Xは消費電力の大きな冷房を使っているという可能性も否定できませんが……。

今回の試乗会では「目的地到着時に、エアコンオン(エコモード)で航続可能距離200km以上」をキープしていることが求められていました。ここで確認したようにエアコンオンでの航続可能距離の減り方が実際の感覚より厳しい印象ですから、その条件を満たすには途中充電が必要かもしれません。そのあたりを確認しながら走るように、基本的にはエアコンを入れた状態で走行して、どのくらいの電力消費量なのかを確認することにしたのです。

ところで、8割充電・エアコンオフでの航続可能距離が346kmというのも、bZ4Xのスペック(バッテリー総電力量:71.4kWh、試乗した仕様での一充電航続距離:487km)からすると、ちょっと控えめな印象もあります。メーター表示からもわかるように直前が下り坂で平均電費が20km/kWhを超えていることを考えると、この時点での航続可能距離は400kmを超えていてもおかしくないからです。

●実際には68km走って、航続距離は58km減だった

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まだまだ貧弱な急速充電インフラなど、トヨタとスバルが共同開催したメディア向け試乗会はBEVの課題をアピールするという狙いもあるかのようなルート設定でした

BEVを購入するユーザー層は、これまでイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる、いわゆる「新しいもの好き」の層といわれていました。そのためBEV特有の乗り方や運用などが求められても、それに合わせることにストレスを感じない傾向にあったといえます。むしろ新しい乗り物を乗りこなすことに喜びを覚える層だったともいえるでしょう。

しかし、トヨタとスバルがターゲットとしているユーザー層は異なるようです。両社のエンジニアとコミュニケーションしてみると、「ハイブリッドを含めたエンジン車から乗り換えたユーザーが違和感を覚えないこと」を重視しているように感じました。実際、スバル・ソルテラの乗り味は電動パワートレインで、フォレスターの感覚を再現したともいえるもので、電動だからといってドライバー側が乗り方を変える必要がないというスタンスで開発されてきたといえます。

それが、航続可能距離においても少々控えめな表示をするという結論に至ったのかもしれません。

ちなみに、オドメーターが3009km時点に、エコモードでエアコンを入れたときの航続可能距離表示は280kmでした。そこから充電せずに目的地に到着したときのオドメーターは3077kmで、航続可能距離表示は222kmでした。オドメーター通りに航続可能距離表示が減るのであれば、本来は212kmまで減っているはずですが、少し余裕を持たせていることがわかります。

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目的地到着時の電費と航続可能距離表示

たった10kmの違いと思うかもしれませんが、今回のケースから割合をみると15%くらいサバを読んでいる風に捉えることもできます。BEVに慣れたユーザーからすると「もっと精度を上げてくれたほうが適切なタイミングで充電できるのでうれしい」かもしれませんが、エンジン車から乗り換えたユーザー心理としては「余裕を持った表示のほうが安心感がある」ということなのでしょうか。

マーケティング界隈では古典的ともいえる『イノベーター理論』では、新しいもの好きなアーリーアダプターまで普及した商品が、もっと多くの人に選ばれるためにはキャズム(深い谷)を超えることがポイントとされています。その意味では、bZ4Xとソルテラはキャズムを超える商品となることを意識したBEVといえるのかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也

山本晋也 近影
日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。