カローラ初のSUV「カローラクロス」の実力を登場から8ヶ月のいま試してみた【新車リアル試乗トヨタ・カローラクロス1-1車両概要/内外装と走り編】

■プロローグ:シリーズ史上初のクロスオーバー型、カローラクロス現る

登場から年数が経っているC-HRは除外。RAV4も外しましょう。ここ2~3年だけ見ても、ハリアー、ヤリスクロス、そしてダイハツロッキーのOEM版ライズと、トヨタのFFベースSUV攻勢が続いており、もうこれ以上はあるまいと思っていたところに、トヨタの看板機種・カローラにもSUV版が加わりました。

「カローラ」といえばクルマを知らない人でもそのキャラクターが思い浮かぶ、トヨタになくてはならないクルマで、21世紀初頭、ホンダフィットにその座を奪われるまで、長い間年間販売台数日本一に君臨し続けたモデルです。いつの世もセダンが中心であることが変わらなかったいっぽう、シリーズの装いは時代によって変化していました。

corolla lift back
カローラ・リフトバック(1976(昭和51)年)

1966(昭和41)年の誕生から6~7代目あたりまで、セダンの背後にクーペやライトバンを擁することを基本スタンスとしながら、70年代半ば、3代目カローラの時代に週末レジャーが流行れば、当時の佐々木紫郎主査が「楽しんで造った」というリフトバックモデルを追加。

corolla spacio
カローラスパシオ(1997(平成9)年)
corolla wagon
7代目カローラシリーズのひとつ、カローラワゴン(1991(平成3)年)

90年代初頭、初代のレガシィ・ツーリングワゴンに感化されてステーションワゴンブームが訪れれば、それまで影が薄かったワゴンを仕切り直し、初代オデッセイに端を発した3列シートのミニバンがブームとなればカローラ・スパシオを援軍に加える…そういえば、身内のカリーナEDにあやかったハードトップのカローラ・セレスもあったっけ。常にセダンを中心に据え、その派生型を時代に応じて送り出してきたのもカローラ史の特徴です。

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シリーズ初のSUV・カローラクロス。試乗車はハイブリッドZで、カローラクロスの中でも最上級のクルマ

さて、いまはSUV時代。考えてみれば、肝心のトヨタラインナップの核であるカローラにこそSUVがないとは何事だ…という声がトヨタ社内に挙がったのかどうかは知りませんが、とにかく「カローラ」を冠するSUV型が発進しました。

その名も「カローラ・クロス」!

●カローラクロスの基本機種構成は3つ。パワートレーンと駆動方式による区分けでトータル10種に

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2代目スプリンターカリブ(1988(昭和63)年)
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3代目スプリンターカリブ(1995(平成7)年)

トヨタは「カローラ初のSUV」と謳っていますが、カローラ史を兄弟車スプリンターも含めて俯瞰してみれば、かつての「スプリンター・カリブ」がこのカローラクロスに置き換わったといえなくはありません。そのカローラクロスが発表・発売されたのは、昨年2021年9月13日のことでした。

現行カローラのセダンとそのワゴン型・カローラツーリングが送り出されたのは2019年9月17日のことだったので、本家発表からほぼきっかり3年で派生モデルが加わったことになります。もっともセダンとツーリングよりも1年先行してカローラ・スポーツが発売されていますが…


カローラクロスの基本機種構成は、安い方から「G」「S」「Z」の3つ。それぞれにFWD 1.8Lのガソリン車と、1.8Lエンジン+モーターのハイブリッドのFWD、4WD(E-Four)を用意。ガソリン車に限り、いちばん安いZの装備の一部を簡略化してさらに低価格にした「G”X”」があり、全体では10機種から選ぶことになります。

装備表を見てみると、2種のパワートレーンそれぞれ特有装備の有無を除き、「G」「S」「Z」間にそれほど大きな装備差はありません。3車3様で与えられるのはタイヤ&ホイールくらいで、いちばん安い「G」とて、安全デバイスToyota Safety Senseにパーキングサポートブレーキ、バックガイドモニター、ヒーター付きドアミラーなど、ひととおりのものは揃っています。メーターが安いタイプに変わり、ワイパーの時間調整機能、ルーフレールが省かれることが気にならないひとであれば、あっちを選んどきゃよかったと後悔することはないでしょう。車両本体価格は224万~279万9000円。

「いちばん安い『G』」と書きましたが、あくまでも「基本」機種構成上での話であって、正確にはGの装備を簡略化した「G“X”」こそが最廉価モデルです。車両価格は199万円。パーキングサポートブレーキやバックガイドモニターがなくなり、ブラインドスポットモニターのオプションがなくなり、さらにはスマートエントリーがなくなることに注意してください(ドアやバックドアロックの施錠解錠は従来のリモコン操作となる。エンジン始動はリモコン携帯でのボタンスタート式。)。

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シリーズの中核、カローラクロス S

中間「S」はGにいくらか見映え向上、便利デバイスを追加しましたというクルマで、外観ではタイヤがGと同じ215/60R17のままホイールが鉄からアルミに変わり、ルーフレールを追加。各部樹脂パーツに金属調塗装、窓枠にめっきが加わったり…内装ではワイパーコントロールに時間調整が備わり、空調の温度調整が左右独立型になります。こちらのお値段、240万~295万9000円。

corolla cross z
最上級のカローラクロス Z

最上級「Z」は機能も飾りもてんこ盛りの機種で、ヘッドランプがフルLED化。フロントのウインカーが内側から外にLED光が伸びるシーケンシャル式になり、デイタイムランニング兼用のスモール(車幅灯)もLEDになります。内装ではルームミラーの防眩機能が自動式になり、シートが本革+ファブリックの装いに。運転席シートが電動のランバーサポート付きパワー式になり、助手席も含めてヒーター付きになるのがZの特権なら、バックドアがパワー式になるのもZを買った人だけが得られる楽ちん機能です。車両価格は264万~319万円。このZのハイブリッド・FF仕様が今回の試乗車。その内容はいかに?

●中国仕様カローラもクラウンも超える、車幅1825mm!

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サイドビュー。全長はカローラセダンやワゴンと5mmしか違わない

車両サイズ、全長×全幅×全高:4490×1825×1620mm。現行カローラのサイズが、中国仕様と日本仕様とで異なるのは知られていますが、カローラクロスの車幅ときたら、中国カローラの1780mmばかりか、現行クラウンの1800mmをもスキップする1825mm! セダンと異なり、カローラクロスのほうは海外版と国内版とでサイズに大差ないようですが、一部フロントフェイスを違えているようです。

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リヤビュー。全高はアンテナ部がいちばん高い
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フロントビュー。幅はクラウンの1800mmを超える1825mm! もはや「カローラ」ではない

外形が類似するワゴン型・カローラツーリング(4495×1745×1460mm)と比べてみると…全高が160mm高いため、全長は5mm短いだけでほとんど同じなのに、車幅がわからないボディサイドから見てもかなり大きく見えます。全高のアップ分が見た目の迫力を大きく変えているのです。ここで幅も見える位置に立つともはやカローラじゃなし! 厳密に測定したわけではありませんが、どうやらいちばん広いのはブリスター(語源は英語の「水ぶくれ」)となるリヤドア後半からリヤフェンダーにかけてのようで、斜め前方から見てもドアミラー内に見ても力こぶのように見え、もしこの膨らみで力感を与えようとしたのなら、その狙いは成功していると見ていいでしょう。

ただ、本音をいえば、国内版カローラを1745mmに収めたその手腕で、こちらカローラクロスももうちょいほどほどサイズにまで狭めてほしかったところです。1765mmの車幅を持つ、ヤリスクロスとの序列を考えたのかも知れません。

●車幅に関係なく、室内幅は国内カローラ同等

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インストルメントパネルはほぼカローラと同じ
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センターコンソールトレイ上部のスイッチ群

乗り込んで目に入るのは、在来カローラと同じ横基調の計器盤(以下インパネ)。ただし助手席側空調吹出口からセンターの空調コントロールに至るパッド部に与えられていた斜めのステッチが水平となり、隣接するドアトリムのデザインも併せて変えられています。同時に、カローラではシフト前方の収容部がただのトレイ状になっているのに対し、カローラクロスでは両サイドに壁を立てたオーソドックスなものに。一見、全体が同じでも部品としてはまるで別ものであることがわかります。見た目に落ち着かないので、クルマの内外にヘンな斜めの線があるのをよしとしない筆者はカローラクロスの造形に軍配を挙げますが、このへんは好みの問題です。

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シフトレバー前方のスイッチ群
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シフトレバー手前のスイッチ群

センター上部にはトレンドの大型ディスプレイを設置(ディスプレイオーディオ。)。といっても試乗車のそれは工場オプションの9インチ版で、全車標準装備されるのは7インチとなります。その下には空調吹出口とそのコントロールパネルが並び、その下の、さきに述べたもの入れ上部には通信用のUSB端子とシートヒータースイッチが並びます。

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運転席右ひざ部のスイッチ群

この時期のクルマらしく、シフトレバーの前後にはドライブモード選択やEVモード、電動パーキングブレーキなど、スイッチ点数は少なくないのですが、「機能多彩なクルマの割にスイッチが少ないな」と錯覚させるほどうまく収められており、スッキリしています。

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オプティトロンメーター。中央は7インチの四角い液晶になっていて、速度計をアナログタイプとデジタルタイプのふたとおりに表示できるようになっている

メーターは、7インチのカラー液晶を中央に、左には0rpmの前にOFFがあるのがおもしろいタコメーター、右側には燃料計と水温計が上下にまとめられています。エンジン車であろうとハイブリッド車であろうと、水冷エンジンを載せているならやっぱり水温計がなきゃあ! この7インチ液晶は速度計表示の切り替えができ、車速を上部に数字で示す「デジタルモード」、通常の指針式速度計をアニメーションで示す「アナログモード」のふたとおりで示すことができます。デジタルモードでの車速表示がやや小さめで線が細かったため、筆者はほとんどアナログモードで使っていました。こちらも好みに応じて使うといいでしょう。

インパネの基本形状が同じことから想像できるとおり、車室幅もカローラやカローラツーリングとほとんど同じ1505mm(カローラと同ツーリングの車室幅は1510mm。)。つまりカローラクロスの車幅1825mmはドアを厚くして得たものであり、車高&着座位置が高いことを除けば、前を向いている限り、1745mm幅のカローラと同じです。とはいってもどのみち3ナンバーサイズ。インパネ左端も、その向こうの助手席側ドアミラーもまあ遠いこと遠いこと。広い狭いも好みではありますが、いまに至るも5ナンバーサイズ信奉者である筆者には、どうにも扱いにくさを感じました。カローラやカローラツーリングのオーナーはどうなのかな…

運転視界に特別述べる点はありませんでした。フロントピラーは寝かせすぎだと思いますが、ピラーは太くも細くもなく。目立つのはドアミラー(と筐体)がずいぶん大きいことで、ミラーを通して後方視界が豊かに得られるいっぽう、斜め前方視野、特に山間道でのカーブ先路面の視界を阻害するので、ここは功罪相半ば。

もうひとつ、前後左右とも、窓ガラスの上下寸が小さいように思います。ことにフロントピラーが寝ているため、運転席ドアガラス形状(助手席も)はほとんど三角形に近く、ウエストライン(ガラス下端のライン)も高め。ゆえに、駐車時の最後の微調整で白線を目視しようと窓から顔を出したりするのに難があります。マクドナルドのドライブスルー客がお金や商品のやり取りに困らなければいいのですが。

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ハンドル左のスイッチ群はメーター切り替えとオーディオ、電話関連が並ぶ
steering wheel right spoke with text
ハンドル右には一般と同じく、クルーズコントロール関連が中心となるが、こちらにもオーディオがらみの一部のスイッチがある

ハンドルは、おそらくは基本造形をクラウン用と同じにする3本スポークタイプ。左スポークには、中央に「OK」ボタンを置いたリング状の上下左右選択スイッチを筆頭に、「戻る」「電話」「オーディオ音量」「発話」スイッチが並び、右スポークにはクルーズコントロール一連のほか、「車線逸脱抑制」「ドライブモード切り替え」「オーディオ選局/選曲」のスイッチが並びます。デザイン上、左右対称にしたいのはわかるのですが、本当は、左スポーク上の「戻る」だけ、その感覚からしてリングスイッチの左下に置いてくれるといいなあ。

steering full lock
そのときのタイヤの切れ角はこのようになる
steering full lock with text
ハンドル右への(左も)フルロック回転角は、1回転と135度、すなわち495度だった

ハンドルの回転角は、中立位置から右にも左にも1回転+135度(筆者目測)。したがって、端から端までのロックtoロックは2回転+270度でした。フルロック時のタイヤ角度は写真をごらんください。

●わざわざ新規設計して与えられた、シリーズ唯一・トーションビーム式の走り

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最上級Zのタイヤは、225/50R18ものサイズとなる

タイヤ圧をあらためて調整して(といっても、4輪ともきっかり規定圧の2.3kg/cm2で、補充の必要はなかった)走り始めると、225/50R18タイヤに乗せられての乗り味は良好でした。そもそも筆者は、ロープロファイルタイヤのクルマには、乗る前から「乗り心地悪いだろうな」と短絡的に決めつける傾向があるのですが、その短絡思考もそろそろ改めなければならないほど、どこのメーカーもロープロファイルタイヤ車の乗り心地の生み出し方が上手になりました。もちろん乗り味はタイヤだけではなく、サスペンションにショックアブソーバー、はてはシートとのバランスで決まるわけですが、このカローラクロスも見た目の先入観によらない乗り味を持っていることは確かです。

4WD車はドライブシャフトを設ける都合上、既存のカローラシリーズと同じダブルウィッシュボーン式が起用される
rear suspention torsion beam
FWD車には軽量化と荷室拡大のため、カローラクロス用に、リヤにはトーションビーム式が新たに設計された

乗る前のカローラクロスサイトの諸元表予習で、「あれ、いまのカローラのリヤサスペンションは、旧型のトーションビームからダブルウィッシュボーンになったんじゃなかったっけ?」という筆者の記憶はまちがっていませんでした。そう、本家のカローラと同ツーリングはどのクルマを買ってもダブルウィッシュボーン式であるのに対し、カローラクロスのリヤサスペンションはトーションビーム式に変わっているのです(ただしハイブリッド4WDはダブルウィッシュボーン。)。

トーションビーム式は低コスト、シンプル構造、省スペース(=荷室を大きくしやすい)で軽く造れることから、もともとはより小ささが求められるエントリー寄りのクルマに多いタイプなのですが、このトーションビーム式を、先発カローラより外形サイズもトレッドも拡がるカローラクロスにこそ起用。ねらいは「顧客の期待を上まわるユーティリティと車格感をカローラの価格帯で提供する」ことなのだそうで、具体的にはサスペンション変更だけで30kg、薄肉化も含めた構造の工夫で30kg、計60kgもの軽量化を果たすと同時に荷室も拡大しています(トヨタ資料より)。

とはいえ、もともとワイドなボディのクルマだけに、軽量化を果たしたといってもカローラ族の中では重い部類。このマイナス60kgの、資料中での比較は、ハイブリッド版カローラクロスのベース車両とC-HRのベース車両になっています。サスペンション変更によって、さらなる重量増をいくらかでも抑えたというほうが正しいでしょう。荷室に関しては、カローラクロスのスペアタイヤ非装着、アクセサリーコンセント装着車同士の比較で、ダブルウィッシュボーン式を持つ4WD車の荷室容量が407Lであるのに対し、2WD車は38L増の445Lとなっています。

クルマ通は、サスペンションは車軸懸架よりも独立懸架をよしとし、トーション式よりもストラット、ストラットよりもダブルウィッシュボーンやマルチリンク式を崇拝しがちですが、そんなのは妄想で、とどのつまりは設計やチューニング次第でどうにでもなることがわかります。じっさい、カローラクロスを走らせると、「トーションビーム式だから何だっていうの」といいたくなる乗り味を見せ、平常時はしたたかであるいっぽう、高速道路の継ぎ目を踏んだときの、リズミカルでふんわりとした上下揺れは筆者の好みのものでした。

トーションビーム式は構造図を見ると確かに頼りなく見え、ダブルウィッシュボーンやマルチリンクのほうに何やら深い理論やありがたみが潜んでいるように映るのですが、カローラクロスの揺れや突き上げ感(ハーシュネス)は、トーションビーム式の、あの見た目の頼りなさを忘れさせるものでした。だいたい、見た目がシンプルなものだって、いや、シンプルなものほど工夫できる箇所が少ないぶん、優れたものを造るのは、複雑で優れたものを造る以上に苦労するものなのです。

ハンドルは電動パワーステアリングで、アシスト量は大きめ…つまりハンドルは軽く、それでいて適度な反力がある。ことにタイヤがどう見ても太すぎるとしか思えない225/50R18なのに、それを感じさせない軽々さ。エントリークラスのクルマの中には、「空まわりしているのではないか」と思うほどスッカラカンにまわるハンドルのクルマがありますが、カローラクロスはここに適度な手応え感をプラスしたようなチューニングで、たぶんこれで重いというひとはいないでしょう。筆者は、ハンドルは手応え感があるのを前提に、軽ければ軽いほどいいと思っている者なので、このパワーステアリング設定は歓迎できるものでした。

経験上、タイヤが古くなって溝が減り、かつゴムが固くなるとハンドルも重くなってきます。カローラクロスの225ミリ幅のタイヤが古くなるとどうなるのか。ハンドルが重くなってくれればまだいいのですが、タイヤが減っていてもアシスト量が勝って軽いようだと、タイヤに無頓着なオーナーはタイヤの劣化に気づかないことも考えられます。そうでなくともタイヤ幅に対する高さ50%という偏平タイヤですから、空気や溝が減っていても、横からは正常時と大差なく見えてしまいます。このあたり、オーナーはちょっと注意しなければなりません。

ハンドリングは明確なクイックなタイプで、中立位置からの遊び領域(中央不感帯幅)も小さめ。最初にトヨタからクルマの拝借手続きを終えて乗り込み、まずはクリープ現象で発進するや、タイヤひとっ転がりもしないうちに、クイックであることと、タイヤ回転の感触、ハンドルのフィーリングが上級クラスと遜色ないものであることがわかりました。「スムース」といえば簡単すぎ。「高級感がある」も平凡。ステアリングシャフト、ラック&ピニオンとそれらのギヤ、そしてロッドひとつひとつの精度高いパーツがハンドル操作を丁寧に受け止め、トランスミッションからの回転もやさしく伝えながら向きを変えるという感触なのです。筆者がこの感覚を意識するようになったのは、2004~2005年頃のアルファードからでしたが、もしいちばん安い199万円のカローラクロスG”X”も同じなら、この値段でよくぞこんな感触に仕上げたものよということができるでしょう。

●使う・使わないがはっきり分かれそうな3つのドライブモード

カローラクロスのハイブリッド車には「ノーマル」「パワー」「エコ」、3つのドライブモードが用意されており、街乗りと高速路では「ノーマル」で走りました。ハイブリッドですから必要に応じてエンジン始動・停止を繰り返すわけですが、エンジンがまわっていても静粛性は極めて高く、エンジン回転中にタコメーターを見ると、針は2000rpmあたりをさまよう程度でした。普通の走り方をする限り、室内を占領するのはロードノイズだけといいたいところですが、高速道路では無風の日和であったのにもかかわらず、フロントピラー上部あたりからの風切り音がやや耳につきました。といっても「気づいたから気づいた」という程度でそう深刻なものではなく、気づかない人はずっと気づかないでしょう。

桜の時期となって雪の心配もないことから、今回は山間道もコースに加えました。その舞台は群馬県の赤城山。ワイドなトレッドによるものか、街乗りや高速道路ではしたたかさとふんわりさを併せ持つ揺れ方だったので、山間道シーンでのカーブではけっこう横傾き(ロール、またはローリング)するかと思いきや、ここではほとんどドライバーにロールを感じさせないものでした。外から見ると傾いているのでしょうが、乗っている人間がカーブ走行を認識するのは、大げさにいえば、上半身にかかる遠心力だけ。山道の上り下りを状況に応じて40~60km/hの速度で走りましたが、タイヤが音を鳴らすこともありませんでした。ただ、車両姿勢をドライバーに認識させるため、いくらかロールを与えてもいいのではと思います。

山間道では「ノーマル」「パワー」「エコ」それぞれのモードで3往復しましたが、街中や高速道も含め、一般的には「ノーマル」で充分に思えました。「ノーマル」は至ってオーソドックスな走りを示し、「エコ」はアクセルの踏み始めやゆっくり踏み込んでいったときの反応が鈍くなりますが、どんなときでもそのときのモードに固執するわけでもないようです。「ノーマル」であれ「エコ」であれ、やや早めにアクセルを深くしたり、床まで踏みつけると、どうやら内部では「パワー」か「パワー寄り」に切り替わるらしく、柔軟に対応します。よほどの理由がない限りは「ノーマル」で事は足り、わざわざ使い分けする必要はないように思えました。

ここで思い出したのは、ひところ電子制御ATの横についていた「パワー」「エコ」「ノーマル」の切り替えスイッチです。実際には使い分けするひとは少ないということからいつしか採用例が減ってメーター表示もやめ、アクセルの踏み加減のみで「パワー」「ノーマル」を切り替えるようにしたという前例があります。このカローラクロスのドライブモードも、そうそう頻繁に切り替えて使う人は少ないと思われ、もしかしたらこの種の切り替えスイッチが廃止されるときが来るかも知れません。

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カローラクロス、ハイブリッド車のエンジンルー…、いや、ハイブリッドルーム

エンジンの最高出力、最大トルクはそれぞれ98ps、14.5kgm。モーターは72ps、16.6kgm…だからといって合計170ps、31.1kgmになるというほど単純ではなく、システム全体のトータル値はいくらか低くなるはずですが、それにしても走りの力感たるや相当なもので、高速道路での追い越し、山道の上りでちょいとアクセルを踏み込もうものなら、ガソリン2~2.5Lターボ車並みのパワー感で1430kgもの車体を軽々と走らせます。山間道上りで意識的にタコメーターを見てみると、「ノーマル」でのエンジン回転はせいぜい2500rpmどまり。これが「パワー」となると一挙3500~4000rpm前後あたりにまで上昇するとともに、街乗り・高速の「ノーマル」ではあれだけ静粛だったエンジン音が、まるでひとが…じゃない、エンジンが変わったように一挙けたたましい音となって室内に入り込んできます。

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カローラクロスZの前席。最上級Zのみ、表皮は本革+ファブリックとなる
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運転席周辺各部の地面からの寸法。すべて筆者の実測値です

シートは、カタログで「スポーティ」と謳うタイプ。といっても、かつての「スポーツシート」と呼ばれるもので見られた、座面や背もたれのサイドが、乗降を阻害するほど張り出したものではないので、何が「スポーティ」なのかよくわからなかったのですが、もしかしたら、内装色とともに仕立てた黒基調のことをいっているのかも知れません。

着座感は、背もたれや座面が見た目と違って内反りであるかのように身体がすっぽり収まる印象です。別の表現をすれば…そう、水をすくうときのように、おわんの形にした両手で、仰向けにそっと抱かれた小動物はこんな気分なのではないかと思います。

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Zのみ、運転席シートはパワー調整となる。

Zの場合は運転席シートがパワー仕様になっており、シートスライド、リクライニング、座面前端の上下、シート全体の上下を電動で調整できるほか、ランバーサポートまでもが電動調整できるようになっています。手動式のリクライニングで、「こことここの間がいいのに」というときがありますが、そのような半端な角度でもピタッと固定できるのがパワーシートの利点。パワーシートは電気的故障を起こしたらどうにもならないのがこわいのですが、その点に譲歩してでも筆者はパワーシートがほしいと思っているひとりです。

シートの着座高さは写真内の表をごらんください。写真内の数字は、身長176cmの筆者が運転する場合のスライド位置にした場合の実測値です。

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Zの後席
seat rear 2 with text
後席周辺各部の地面からの寸法。他のクルマと等しく、後席座面、フロアとも、前席より少しずつ高い

後席にも座ってみましたが、座面・背もたれとも全体的に平板な造り。大きな工夫はなく、背もたれが可倒式&リクライニング付きであるていどにとどまります。

リヤシートにひとつ注文したいのはスライド機構の追加。それも後席にひとがいないときのためのリヤシートスライド。「えっ」と思うでしょうが、よく考えてみると、日常ユースに於いてフル乗車の機会はまれで、街のクルマを観察すると、乗車人数は、3列シートのクルマでさえ、ひとりかふたりがせいぜい。となるとむしろ後席はちょいとした手荷物の置き場になっている場合が多いわけで、ならば前席から上半身をひねって荷を取るのには、リヤシートがフロントシートスレスレまで迫っていてくれたほうがありがたいのです。この使い方をCMなりカタログなりで上手にアピールすれば、それでクルマを買ってくれるひとも出てくるんじゃないかな。

今回はここまで。次回は安全デバイスの話を中心に進めていきます。

(文・写真:山口尚志

【試乗車主要諸元】

■トヨタカローラ クロス ハイブリッドZ(6AA-ZVG11-KHXEB型・2021(令和3)年型・2WD・電気式自動無段変速機・プラチナホワイトパールマイカ)
・メーカーオプション:プラチナホワイトパールマイカ(3万3000円)、イルミネーテッドエントリーシステム(フロントカップホルダーランプ、フロントドアトリムショルダーランプ、フロントコンソールトレイランプ・11000円)、ディスプレイオーディオ(9インチ・2万8600円)、アクセサリーコンセント(4万4000円)、ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ(4万4000円)、パノラミックビューモニター(2万7500円)、おくだけ充電(1万3200円)、パノラマルーフ(電動サンシェード&挟み込み防止機能付き・11万円)
・ディーラーオプション:ラゲージトレイ(1万5400円)、ETC2.0ユニットナビキット連動タイプ(光ビーコン機能付き・3万3000円)、カメラ別体型ドライブレコーダー(6万3250円)、フロアマット(ラグジュアリータイプ・2万8600円)

●全長×全幅×全高:4490×1825×1620mm ●ホイールベース:2640mm ●トレッド 前/後:1560/1570mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1430kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.2m ●タイヤサイズ:225/50R18 ●エンジン:2ZR-FXE(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1797cc ●圧縮比:- ●最高出力:98ps/5200rpm ●最大トルク:14.5kgm/3600rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:36L(無鉛レギュラー) ●モーター:1NM(交流同期電動機) ●最高出力:72ps ●最大トルク:16.6kgm ●動力用主電池(種類/容量):リチウムイオン電池/3.6Ah ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):26.2/25.9/28.9/24.7km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格299.0万円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)

 

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