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■D1GPのドラテク習得はラリーレイド競技にどう活かせるのか
●別物の路面ミューである競技だからこそタイヤを通して瞬時に対応できる何かが…
過酷な大地を相手に総距離7000km以上を10日間以上かけて走破する冒険色の強いオフロード競技、ラリーレイドが「ダカール・ラリー」です。 そして、この過酷な競技で2018、2021、2022年と市販車部門で3度のクラス優勝経験をもつドライバーが三浦昂選手です。
ちなみに「トヨタ車に乗ってるのに名前がスバル?」と思ったかたもいるかもしれません。「昂」の字は、日本の自動車メーカーの名前にもなっているプレアデス星団の和名「昴(すばる)」と字がよく似ていますがダカール・ラリーで活躍しているのは昂(あきら)選手です、念のため。
さて、その過酷なラリーレイドのトップドライバー三浦選手がさらに運転の幅を広げ、さらに高いところを目指すための1つとして目をつけたのが、なんとドリフト選手のドライビングテクニックだそうです。
今回D1GPのトップドライバー川畑真人選手からのレッスンという形でその想いが実現したのでその模様をお届けします。
ちなみにレッスンは翌々日にD1GPの開幕戦を控えた富士スピードウェイのマルチパーパスコース(旧ドリフトコース)で行われました。
教習車(?)は川畑選手が新規に製作した86(ZN6)です。
まずはお約束のパイロンターンで基本的な練習がはじまりましたが、世界的な競技のトップドライバー三浦選手でもドリフトマシンによるミューの高い路面でのオーバーステアを意識的に誘発させるパイロンターンはいつもと勝手が違いちょっと手こずっている様子。
砂丘やグラベルの低ミュー路でもオーバーステアにならないセッティングで今まで戦って来ただけに、かなり勝手が違うようでした。
使用タイヤはトーヨータイヤの最新スポーツタイヤ、プロクセスTR1。日本では発売されたばかりのタイヤですが「初めてのドリフトならフロントにハイグリップ、リアに滑りやすいタイヤで練習すると馴染みやすいんだけど、今回はちょっとハードルが上がっちゃいましたね(笑)」と川畑選手。いや、今回は川畑コーチ……かな。
もう何度も何度も練習、練習。たまに川畑氏の走りを挟み確認しながら繰り返します。いつもとは勝手の違うマシンの挙動などに慣れてきたら、もう一つの基本練習、定常円旋回に進みます。
少しマシンに慣れて来た時点でいきなりS字で振り返しの練習が始まります。
普通なら、あれれ!って感じですがグラベルで180km/hの世界の住人はさすがに高速での余裕が違います。むしろこちらの方が楽しそう。
もちろん最初はうまく振り返せませんでしたが何度か繰り返すうちに、おっ出来た!みたいなシーンがありその頻度が上がってきたところでレッスン終了。そこまでで半日。あっという間でした。いや、三浦選手さすがです。
●なぜドリフトを?
実は三浦選手はランドクルーザーをはじめとする多くのトヨタ車を開発・生産するトヨタ車体の会社員。
ランドクルーザーの開発にも携わっているので、その過程で色々な車を乗る機会も増え色々な挙動にも出会ったとのことで、もっともっと色々なクルマの挙動に対しスキルの幅を広げたいというのが今回のレッスンを望んだ1つの理由だそうです。
一般的にダカールラリーってメディアを通じてみると広大な砂漠のイメージが強いのですが、三浦選手によると実際のコースにおける砂丘はだいたい3割くらいだそうです。他は道無き道という感じのデコボコしたグラベルロード。もちろんレッキ(事前の試走)などはないので競技はいつも初めての道。
もちろんブラインドコーナーもあるけど、そのつど減速してたら勝負にならないし、高速で突っ込んでも何かあった時対応できなきゃ話にならない。
そんな中オーバーステアを意識的に誘発し車を適切にコントロールできれば安全マージンをもっと広げながらも速く走ることができるのではないか?というラリーストとしての想い。
そして、今までオーバーステアになりにくいような車作りを目指して来た車両開発の一員としての引き出しを増やしたいという想いのヒントがD1GPを戦うドライバーのテクニックの中にあるのでは?と三浦選手は考えていたそうです。
●実際に走ってみて一番難しかった事は?
「難しかったのはドリフトの姿勢を保ちながら減速する事です」と三浦選手。
よく理解できなかった筆者が首を傾げていると「今のドリフトって飛距離を競うよりも、より高速で姿勢を変え、その姿勢を保ちながら旋回できるだけの車速に落としコーナーに進入する必要があるんです」と川畑先生。
つまりドリフトの姿勢を維持しながら減速をするために必要な抵抗を角度やラインを考え、時に適切な修正をしながらコントロールするテクニックが必要だと教えてくれました。
何やら筆者にはわかったようなわからないような話でしたが、最新のD1GPを戦うドライバーが競技中の1分にも満たない時間の中でいかに高度なテクニックを駆使しているかと、そこが難しいと感じられる三浦選手のレベルの高さが垣間見られたような感じがします。
●川畑選手も実はオフロードドライバー
今回ドリフトのレッスンを行った川畑氏はD1GPのトップドライバーとしてシリーズを戦いながら、2019年にはアジア最大級のラリーレイド アジアクロスカントリーラリーにランドクルーザープラドで参戦しています。
以降国際ラリーレイドは新型コロナ感染症の影響で足踏み状態ではありますが国内に舞台を移して継続しています。一方、三浦選手もランドクルーザーの魅力を発信すべくダカールラリーで結果を出しながらもアメリカのオフロードレースMint400に出場するなど、その活動の幅を広げています。
過酷な自然相手に何日も走り続けるラリーレイドと1分にも満たない超短期決戦でありタイムを競わないドリフト競技は一見似ても似つかないような感じもしますが、三浦選手はレッスン終了後「高いパフォーマンスが評価されるドリフトとタイムが評価されるラリーレードでは確かにゴールは違いますが、ドライバーとして丁寧に車を感じながら操作する感覚は同じではないかとずっと思っていましたが、今日川畑さんの運転を見ていてそれが確信に変わりました」と話してくれました。
また、今後の目標として「ダカールラリーを速く走るドライバーだけじゃなく、モータースポーツの強いアスリートとして成長していきたい」と語ってくれました。
今回は川畑選手が三浦選手に伝えるドリフトテクニックでしたが、川畑選手自身もオフロードの走り方で教わりたい事が山ほどあるそうです。
ジャンルの違う自動車競技は多々ありますがD1GPをはじめとするドリフトの世界を支え続け、そしてダカールラリーに参戦するランドクルーザーや国内外の様々なオフロードレースの足元をも支えるトーヨータイヤの活動の幅広さは、これからも新しい出会いや、異なるジャンルの交流、今までにはない自動車競技の面白さも大きく広げてくれそうです。
(写真・文:高橋 学)