■9代目アルトに込めた、気楽で安心、そして愛着のあるデザインとは
昨年12月10日に発表となった9代目の新型スズキ「アルト」は、「誰もが気軽に安心して乗れる軽セダン」をコンセプトとしています。
では、気楽で安心できるデザインとはどう開発されたのか? エクステエリアデザインを担当した岩﨑氏にお話をうかがいました。
── まずはじめに、新型の開発をスタートするに当たって、先代のデザインをどう総括しましたか?
とくに総括というのはなかったです。先代は美しく、とくにサイドビューのプロポーションは素晴らしかったと思います。
一方、ユーザーさんからは「好き嫌いが分かれる」「目つきが少しキツい」といった声があったようです。ただ、デザイン部として「だからこうする」といったことはありませんでした。
── では、あくまで提示されたデザインコンセプトがスタートだった?
そうですね。商品コンセプトである「気軽に楽しめる、すごく使える、安心・安全な軽セダン」をストレートに反映した、「気軽」「安心」「愛着」というデザインコンセプトです。
これ以外のキーワードなども設けていません。
── 量産型につながったキースケッチは欧州スタジオの作と聞いています。軽規格も海外スタジオが参加するんですね。
そこは車種によって毎回異なるところです。今回は欧州と日本でスケッチを進めましたが、その中でふくよかな断面を持ち、優しい丸みや親しみやすさなど、先のコンセプトをもっとも明快に表現していたのが欧州スタジオ案だったんです。それを本社でまとめました。
── では各部について伺います。まずフロントランプ周囲はなぜ先代のイメージを引き継いだのですか?
いや、とくに先代は意識してないです。
新型は「楕円形」をモチーフにしていますが、そのグラフィックを使って検討した結果、グリルレスも含めてこの造形になりました。先代に似ているという話はよくいただくのですが、デザインチームにそうした意識はなかったんです。
── その先代のフロントは平面的でしたが、新型はランプを左右に絞っていて、その分バンパーが前に出た表現になっています。
先にも触れたとおり、今回はふくよかな断面や抑揚の強さを特徴としています。
その点、フロントも立体感を意識していますし、同時に丸く優しい面になるようバンパーの意匠も含め検討しています。
── サイド面ではショルダーラインがユニークです。Aピラーからの流れがUターンして始まり、リアドアの後端でフッと消える。
やはりドアの基本断面をたっぷり見せたかった。そのためにショルダーをしっかり張っているんですが、一方でサイドウインドウ後端はキックアップさせている。
そうした諸条件を無理なく成立させるため、いろいろと試行錯誤した結果ですね。
── 抑揚ということでは、リアパネルの張り出しはちょっと軽自動車とは思えないですね。
ここもこだわりの部分です。
上からハイマウントストップランプ、ワイパー、ドアハンドル、ハッチラインと、それぞれの位置関係を見ながら、どうすればもっとも抑揚が出せるかを考えました。実はルーフもかなり丸みを持たせているんですよ。
── リアランプは縦型に変わりましたが、この周囲の面取りも深いですね。
実は当初案ではもっと深かったんです(笑)。
やはり抑揚をどう出すか?の一環ですね。縦型は当初のスケッチからの案ですが、大きさについては、この車体に対しどの程度の大きさにすればボディのしっかり感が出せるかを検討した結果です。
── 最後に。ベーシックカーには制約が多いと思いますが、その中で「愛着」を持てるようなデザインは今後も可能でしょうか?
難しいですが可能だと思います。
アルトも9代目ですが、常に安さと安心を求められています。デザインの流行は変わるけど、価格を抑えて買っていただくという点は変わらない。
新型も装備やパーツの流用といった制約の中で、いかに愛着が持てるデザインができるかが最大のチャレンジでした。たとえばフルホイールキャップにまでテーマを徹底していますが、そうしたブレのないスタイリングが重要なのだと思います。
── 12年ぶりに変えたロゴデザインもそうした姿勢の一環でしょうか。本日はありがとうございました。
(語る人)
スズキ株式会社
四輪デザイン部 エクステリアデザイングループ
岩﨑 宏正 氏
(インタビュー)
すぎもと たかよし