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■ドアミラー車にフェンダーミラーを加えて実地検証してみた!
前回、いまや残存しているタクシーや、新車ではトヨタジャパンタクシー以外に見なくなったフェンダーミラーの有用性について解説しました。今回はその続編。何と自車にフェンダーミラーをくっつけてしまった!
どうやったのか? そしてその効果は?
●幻のねじ留め式汎用フェンダーミラー
これまで筆者は、読んだ方ならご自分のクルマででも実践できるエアコン実験や、ケミカル用品によるガラス油膜除去の実験やその効果を検証してきましたが、今回ばかりは誰にでもできるというものではありません。
なぜなら、今回使ったのは、いまでは売られていない「後付けフェンダーミラー」を使ったからです。
これだ!
これは筆者が以前、ブルーバードに乗っている頃にインターネット上で見つけ、試しにと思って入手したものです。
日本デレル株式会社の「後付式フェンダーミラー・ミルゾーン」。普段からAmazonをはじめ、ネットでの買いものをしない筆者ですが、お試しでブルーバードに数日間だけ使い、すぐに外して箱に収め、15年半もの間、タンスの中で眠っていたものです。
前回、「世の中がいうほどフェンダーミラーがかっこ悪いと思わなければ、ドアミラーがかっこいいとも思わない」と書きましたが、このミラーはさすがに後付け感まる出しだったのでやめました。もうひとついうと、たたんだドアミラーがフェンダーミラー内で後方視界のじゃまをし、危険でさえあったのです。
前回、フェンダーミラーをテーマにしたついでに久々にこの「ミルゾーン」を引っ張り出し、旧ジムニーシエラに取り付けてみようと考えたわけです。
●取り付け
取り付けは簡単です。ステー根元にある傷防止のゴム板と金属のブラケットをフードパネルサイドの先端寄りのヘム(折返し部)をはさみ、3本のねじで締めるだけ。パネルに接触する部分には傷防止のクッションがついています。
フェンダーミラーは「車両のおおよその幅や先端がわかるのがメリット」と前回書いていますが、イメージほど先端側にあるわけではなく、街のタクシーや古いカタログのクルマを見てわかるとおり、意外と後ろ寄り…フードの前1/3付近にあるものです。
ブルーバードではこれらに倣って位置決めをしたのですが、ジムニーに同じことをするには問題がありました。左側のしかるべき場所にはアンダーミラーあるのです。その手前につけるとあまりに近すぎるため、アンダーミラーの前方側に取り付け、右側もそれに合わせました。
完成形がこれです。
見てご想像のとおり、これは取り付けの構造上、フラットなフードパネルにしかつけられません。したがって、現行ジムニーのような、フードパネルのサイドが折れ曲がり、ヘム部が下向きになっているデザインのクルマには取り付け不可となります。
かっこ悪くなるのを覚悟で、そしてかっこ悪いのをネタに稿を進めようと思っていたのですが、「あれ、なかなか似合ってるじゃないの」というのが思いがけない感想です。
まあ、これは筆者の感想で、思いはひとそれぞれでしょうから、「何だ、かっこ悪い」と思う方は笑ってくださってもかまいません。
さて、筆者は前回、次の4つを理由にしてフェンダーミラーの優位性を掲げました。
1. 後方視界の確保がフロントガラスの中だけで完結する。すなわち目の移動量が少ない。
2. 1.に付随して、雨天時、ワイパーの払拭エリア内にフェンダーミラーがあるので、少なくとも目のじゃまになる水滴の層は、ミラー面ひとつだけですむ。
3. おおよその車両先端、幅がわかる。
4. ドアミラーの場合より、実際に車両幅が小さくなる。
百聞は一見にしかず。このひとつひとつについて、検証していきましょう。
1. 後方視界の確保がフロントガラスの中だけで完結する。すなわち目の移動量が少ない
ドアミラー車のフロントガラス視界には、基本的には何もありません。このクルマの場合は下方にフードが少し見えるのみです。
したがって、車両左右後方の視界を得るのに左右どちらのドアミラーを見る際、ことに左ドアミラーを視認するときには扇風機の首振り並みに左を向かなければならず、そのときはほとんど前を見ていないことは前回申し上げたとおりです。
いっぽうのフェンダーミラーは、フロントガラスからの視野内にフェンダーミラーがあるため、ガラス内で目だけを左右させるだけで後方視界をつかめることがわかるでしょう。
写真の旧シエラの場合は先客のアンダーミラーがいるため、何やら見た目におバカなことになっていますが、もしこの時代にフェンダーミラーを復活させるなら、この種のクルマには鏡面下を延ばし、その部分だけ曲率を上げて左前輪周辺を映し出すようにするとより機能的なものになるでしょう。
2. 1.に付随して、雨天時、ワイパーの払拭エリア内にフェンダーミラーがあるので、少なくとも目のじゃまになる水滴の層は、ミラー面ひとつだけですむ
声高に叫びたいのがこの2。フェンダーミラーを取り付ける前後に、霧吹きでガラスとミラーに水を吹き付け、雨を再現しました。雨はサイドガラスとミラー、両方に付着します。ドアミラーの場合、サイドドアガラスとミラー面の両方に水滴の層があるため、二重にじゃまされながら後方視界を確保しなければなりません。
ところがフェンダーミラーの場合は、最初の水滴はフロントガラスにあるため、ワイパーで拭ってしまえば、じゃまな水滴は半分に減る道理。写真を見ればいいたいことがわかるでしょ?
前にも書いたとおり、昔のマークIIのようにサイドガラスにもワイパーが設ければドアミラー車でも解決する話なのですが、何の問題があったのか、後にも先にもサイドウインドウ用のワイパーは、自動車史上マークII(とチェイサー/クレスタ)だけにとどまっています。
3. おおよその車両先端、幅がわかる。
ドアミラーの設置位置は、当然ドア(の先端)。フェンダーミラーはフェンダーパネル上になります。必ずしも車両突先ではなく、クラウンのタクシーなどはおそらくフェンダー先端から300~400mm後ろ寄りについているわけですが、そこから先はあらかじめ外から見て覚えておけば、いつでもクルマの先端を目にしながら運転できるという利点があります。これは幅についても同様です。
4.ドアミラーの場合より、実際の車両幅が小さくなる。
1983(昭和58)年にドアミラーが解禁されてフェンダーミラーとドアミラーが混在していた時代、同じクルマなら、事実上の車両最外側(左右ミラー間距離)は、ドアミラーのほうがフェンダーミラーよりも100mmほど大きいと説明されていました。
元来、日本の道は5ナンバーサイズの幅(1700mm)を前提に造られているだけに、特に都内の裏道にたくさんある狭い道を通れる保証を確保するためにも、やはり幅狭なことが求められるというものです。
もうひとつは、フェンダーミラーはついている場所が場所なだけに、狭い道を通る場合に、「ここから先、行けるか行けないか」が早々にわかるという利点があります。
フロント視野にあるフェンダーミラーがポールなどの障害物に当たりそうなら戻る。ドアミラーは設置先がドア先端ですから、障害物が眼前に迫るまでわかりません。まあ、フェンダーミラー車であれ、ドアミラー車であれ、最外側寸法とスレスレ幅の道を走ることはないでしょうが、通れる・通れないの判断が早い段階でできるかどうかの違いは大きいと思います。
●実際に走ってみたらどうなるか?
思ったほどかっこ悪くはなかったといっても、いざ公道を走るとなると勇気が要りました。新型ジムニーシエラと違い、旧シエラは不人気車で、筆者がこのクルマを契約した2018年2月の登録台数は27台。そこにフェンダーミラーを付けたのですから目立つことこの上なし! 絶対、世界に1台のクルマでしょう。
実際に走り出してみましょう。
筆者が運転免許を取得したのは1995(平成7)年7月なのですが、このときの教習車は三菱ランサーがベースのディーゼル車でフェンダーミラー付でした。フェンダーミラー付きのクルマは、冒頭に述べた、本製品をブルーバードに取り付けたときを除けばそのとき以来です。
このフェンダーミラー、外から見ても目立ちますが、中から見ても目立ちます。そして道を走っていても、後方視界確保がフロントガラス内で完結するすばらしさよ!
何度も書いているとおり、ドアミラーは左を見ているときはほとんど前を見ておらず、それがフェンダーミラーになると目の移動量が少なくてすむと書いてきましたし、実際にそのとおりだったのですが、見やすさ向上の度合いは、意外なことに右フェンダーミラーのほうが上でした。
フェンダーミラーは、目の移動だけですむほか、目のピント合わせの変位量もドアミラーの場合より少なくてすむ…。
すなわち運転席からの左フェンダーミラー~左ドアミラーの距離差よりも、右フェンダーミラー~右ドアミラーの距離差のほうが大きい(右ドアミラーは左ドアミラーと違って運転者からすぐそこにあるから)ゆえにピント合わせの量は多く要するからです。
思えばトヨタが2代目ソアラから展開したスペースビジョンメーター、初代プリウスや最終型ビスタで訴求したセンターメーターは、見た目の商品効果をねらうとともに、目の前後方向の視点移動が少なくてすむように(=目は遠視点のまま眼前のメーターが見られるように)ということで生み出されたものです。
江戸川乱歩の「湖畔亭事件」の中に、遠くの部屋の様子を鏡の反射を繰り返して覗き見するというシーンの描写がありますが(内容は書きません。興味あるひとは読んでみて! 読書の秋だから)、トヨタのスペースビジョンメーターも原理は同じで、メーター基盤をミラーに2回ないし3回反射させるだけという大したことのない仕掛けで大した効果をもたらしたところがグッドアイデアなメーターでした。セ
ンターメーターも、メーターを中央向こうに置けば、情報把握に要する時間が2割短縮できると謳ったほどなのです。
ならばフェンダーミラー回帰も再考してもいいのではないかと思います。
右左折の際にも差がありました。曲がる先を見たいときに視野を遮るのはドアミラーの方です。
だいたい、それを知っているから最近のドアミラーは根元をガラス先端の三角ベースにではなく、ドアパネルに埋めたり、後退させたり(これも首振りを大きくさせる要因になっている)して、ミラー筐体とサイドガラスの間からの視野を拡大しようとしていますが、そのような涙ぐましい努力をするくらいなら、いっそフェンダーミラー化を図るほうが賢明だと思います。これは横断歩道の歩行者有無の場面でものをいいます。
せまい道にも入ってみました。いい具合にポールと電柱が・・・左のポールをよけた後すぐ左に寄って自転車を避けてと。車両最外側を早々に確認できるのが実に都合がよろしい。
これがドアミラーだと障害物との位置関係がつかめるのは自分のすぐそこにまで近づいてからになってしまいます。
似たシチュエーションで幅寄せがあります。ここでは道路っ端に置くことを試しましたが、フェンダーミラーから先、前バンパーまでの突き出し量さえあらかじめ把握しておけば、ドアミラーよりもはるかに楽に道路サイドにクルマを寄せることができました。
これは狭い道での対向車とのすれ違いのときに特に効いてくるでしょう。
クルマから降りるときもフェンダーミラーのほうが便利です。運転席からの話に限りますが、道路っ端にクルマを停め、後ろからクルマや自転車が来ないかを確認しながらドアを開ける(きちんと後ろを向いて目視が原則ではありますが)ときもフェンダーミラーに軍配があがります。
ドアミラーはドアを開けるにつれてミラーもそっぽを向いてしまうのに対し、フェンダーミラーは同じ角度のまま。このへん、フェンダーミラーが持つ隠れたメリットです。
ここに書いたことすべて、みなさん頭の中で想像がつくことだと思います。しかし、実際に体感するのとしないのとでは大違い。とはいえ、ドアミラー主体のいま、普通の人がフェンダーミラー車のハンドルを握ることは不可能に近いわけです。
だから…そう、街を走るトヨタのジャパンタクシーか、まだ残存するフェンダーミラーのクラウンのタクシーの助手席から後席右に乗り込み、ここに書いたことを念頭に入れて擬似的にフェンダーミラーのメリットを体感して見るといいかもしれません。
ドアミラー解禁から40年弱経ち、いまや自動車メーカーの中にも(トヨタ以外の)、フェンダーミラーを知らない世代が多くなっていると思われます。いっそ知らないことを強みに、歩行者保護、突起物規制を満たし、電動格納機能も備えた、新発想に満ちたスタイルの新しいフェンダーミラーの開発を切に望むしだいです。
(文:山口 尚志/写真:山口 尚志・トヨタ自動車)