世界に誇れる日本の技術が満載!新型トヨタ・ランドクルーザーを、ホンモノのランクル乗り寺田昌弘が試してみた

■ランドクルーザーの偉いところは化石燃料とラダーフレームの継承

●元祖・砂漠王は高速道路もかっ飛ばせる空力も必須

新型ランドクルーザー
新型ランドクルーザー

誕生から70周年のアニバーサリーイヤーに、フラッグシップとなるトヨタ・ランドクルーザーがフルモデルチェンジ。14年ぶりに新しくなった新型ランドクルーザーは、6月10日(日本時間)にドバイから発信されたワールドプレミアで発表され、日本では8月2日に発売開始しました。世界170ヵ国、累計販売台数1060万台と、国内はもちろん世界中で愛されるランドクルーザーは、瞬く間に大人気に。その人気はどこから来るのか、実際乗ってみて体感してみました。

●サハラ砂漠とウユニ塩湖でランドクルーザーのすごさを知った

私、寺田昌弘の愛車はランドクルーザー70とプラド。ランドクルーザーと言えば「信頼性・耐久性・悪路走破性」を代々磨き上げ、世界の人々の生活を支え、命を守っているクルマです。

ランドクルーザー70
サハラ砂漠の医療支援で活躍するランドクルーザー70

私が20代の頃、国土の3/4がサハラ砂漠と言われるモーリタニア・イスラム共和国で医療支援活動のボランティアをしていたとき、首都のヌアクショットでは年季の入ったプジョー504がタクシーで走り、乗用車も見ました。しかし砂漠の多い町に行くと、ランドローバー・ディフェンダー、日産パトロール、そしてランドクルーザーが走り、さらにいくつもの砂丘を越えてついた村には、ランドクルーザー70とラクダしかいませんでした。

村人に聞くと「荷物を運ぶのにランドクルーザーとラクダしか、この砂丘は乗り越えられない」と教えてもらいました。私たちが日本人だとわかると、スタッフの名前の発音が覚えにくいようで全員「トヨタ、トヨタ」と呼ばれていました。ランドクルーザーを通じて、日本の製造業の優秀さをサハラの民に教えてもらいました。そして水道も電気もない村でライフラインとして彼らの命を守っていることを目の当たりにしました。

ウユニ塩湖
鏡のように映し出されるウユニ塩湖の観光を支えるランドクルーザー80

また、ダカールラリーの取材でボリビアに行ったとき、せっかくだからと途中ウユニ塩湖に行きました。湖に空が映し出される光景が観光の目玉となっていて、観光客を乗せ塩湖を走るクルマがみなランドクルーザー80でした。

気になってドライバーになぜランドクルーザーしか走っていないのかと聞くと、「昔はいろんな4WD車があったが、みな塩で溶けてしまった。最後に生き残ったのがランドクルーザーだ」と冗談交じりに教えてくれました。確かに毎日、塩の上を走っているから、ボディやフレームもかなり過酷な環境です。

こうしてランドクルーザーは、ウユニ塩湖では彼らの生活を支えていました。日本ではオーバースペックだと思われるかたもいると思いますが、300km/h以上出るスポーツカーが日本を走っているように、ランドクルーザーは地平線の向こうまで道なき道を走れる性能を持っていることに魅了されるファンが多く、私もそのひとりです。

●ランドクルーザーの系譜にみる新型に求められるものとは

ランドクルーザーのコクピット
室内は広いが運転席はスポーツカーのように独立感がある

ランドクルーザーは大別して3つのラインがあります。1つはトヨタ ジープBJから20系、40系、70系と続く「ヘビーデューティ」。2つめは70系からワゴンとして派生し、プラドとして70系、90系、120系、150系と進化した「ライトデューティ」。3つめは40系から派生し55系、60系、80系、100系、200系、そして今回の300系と信頼性、耐久性、悪路走破性はそのままに快適性、ドライビングプレジャーを高めた「ステーションワゴン」があります。

「ステーションワゴン」は60系までは全長、全幅を広げたり、インテリアの質感アップをしていましたが、80系はサスペンションをコイルスプリング化し、比類なき悪路走破性と乗り心地のよさを両立しました。さらに80系をベースにレクサス・ブランドでLX450が誕生し、以来「ステーションワゴン」は、100系、200系と、より走りもインテリアもスタイリングも洗練されていきます。

ランドクルーザーのショックアブソーバー
ショックアブソーバーを今までのモデルより路面に対して垂直に近くすることで路面追従性をよくしレスポンスや乗り心地のよさを実現

100系以降フロントサスペンションを独立懸架とし、オンロードでの操縦安定性がよくなりました。ただオフロードでの接地性をリヤサスペンションに依存する割合が増え、また耐久性を上げるために車重が重くなってきました。それでも大排気量エンジンとの組み合わせで比類なき悪路走破性の高さとオンロードでの高速走行を実現していました。

しかし今後の環境規制、法規制を考えると、信頼性、耐久性、悪路操作性を継承、進化させながら安全性、環境性能を高め、走りやすく疲れにくい走りが求められていました。

●意のままに走れる新型ランドクルーザーのポイントは「素性の刷新」

今回のフルモデルチェンジで注目すべきは、ラダーフレーム構造を継承したことです。軽量化を考えれば、多くのSUVがそうであるようにモノコックボディが有利です。しかし、ランドクルーザーは「どこへでも行き。生きて帰って来られる」クルマとして、動力・駆動系、サスペンションの主要部品がラダーフレームに配置されるため、たとえボディに重大な損傷を負っても走れます。また走るための最低限の修理もしやすい。

ランドクルーザーのボンネット
ドライバーが前方手前付近を目視しやすくするためボンネットにくぼみがあり、さらにアンダーフロアビューでも確認できる

ただ従来通りでは軽量化が見込めないため、TNGAの考えのもと新たなGA-Fプラットフォームを採用しています。従来は、鋼材をオーバーラップさせて溶接していましたが、端部同士を溶接することで余分な鋼材を減らし、また必要な場所に必要な材質、板厚を使うことで軽量化を達成しながら、ねじり剛性も120%にアップしています。

ランドクルーザーのヘッドライト
障害物や渡河などでヘッドランプを壊れにくくするため、歴代のランドクルーザー同様、できるだけ高い位置にレイアウトされる
ランドクルーザーのヘッドライト
オートレベリング機能付プロジェクター式LEDヘッドランプ。L字のデイタイムランニングランプは右左折時にシーケンシャルターンランプに

また、ボディの骨格部は超ハイテンションスチール材を使いながら、ドアパネルなどアルミ材を使用してさらに軽量化をしています。さらにエンジンは3.5リッターV6ツインターボガソリンと3.3リッターV6ツインターボディーゼルにダウンサイズされ軽くなり、トランスミッションと合わせてより下方、後方に配置することで低重心化を実現しています。

●重厚なスタイリングと軽快なドライビングを高い次元で両立

今回試乗したグレードは、ZXのディーゼル仕様。100系の途中までは国内でもディーゼル仕様はありましたが、200系ではガソリン仕様のみだったので、待望のモデルです。

ランドクルーザーのエンジン
3.3リッターV6ツインターボディーゼルエンジン。エンジンルームは各部がボックスで仕切られ防塵性を上げている

新開発の3.3リッターV6ツインターボディーゼルは、低速域ではシングルターボで700Nmのトルクを出し、高速域ではツインターボで大柄なボディを軽々と加速させてくれます。エンジンを始動した瞬間は、ディーゼルであることに気づきますが、アイドリングはエンジンの静粛性と振動の少なさ、ボディの遮音性の高さのおかげでとても静かです。アクセルを踏み始めると再び聞こえますが、気にならなりません。

やはり最新の技術を投入した新開発のエンジンは、今までのディーゼルの固定観念を軽く払拭してくれます。各社電動化技術に資本を集中するなか、ディーゼルでなければならない国々のことまで考えているトヨタはすごいと思います。

市街地を走って何より楽なのがスタート。信号が青に変わって発進するとき、1600rpmで700Nmの最大トルクに到達するので、アクセルを少し踏むだけで軽々と加速します。もちろん前モデルに比べドラム缶約1本分、200kgの軽量化も貢献しています。

ランドクルーザーのドライブモード
ドライブモード、マルチテレインセレクト、ダウンヒルアシストコントロール、クロールコントロール、ターンアシスト、センターデフロック、サブトランスファー切り替えが左手でしやすい位置にレイアウトされている

ワインディングでは、コーナー手前のブレーキングでSUVにありがちなノーズダイブがなく、前後のサスペンションが適度に沈み、姿勢変化が少なく、ドライバーの視線も動かさずにドライビングに集中できます。コーナーに入るためにステアリングを切り始めると、フロントのアウト側にロールすることなくイメージ通りの回頭性で曲がり始めます。これは低重心化とボディセンターに重心を寄せていること、そしてドライバーの着座位置もセンターに寄っているから意のままに走らせられます。

さらにスポーティに走りたい場合、走行モードをSPORT S+にすれば減衰力制御モードがハードになりますが、一般道であればノーマルで充分です。

ランドクルーザーの走り
トヨタ新型ランドクルーザー

また山道の登りでは10ATのシフトアップが的確で、回転数を大きく上げることなく加速していきます。逆に下りではすっと1速シフトダウンしてくれ、ブレーキを引きずりながら下らなくてよいのが気に入りました。

ランドクルーザーの走り
高速走行性能も要求されるランドクルーザー

高速道路はまさしく名の通り、心地よいクルージングが楽しめます。静粛性が高くディーゼルエンジンであることを忘れてしまうほどです。大柄なボディですが、空力を考えボディ上段とリヤを絞ることで抵抗を減らしています。

ランドクルーザーの主要マーケットのひとつ、サウジアラビアでは、首都リヤドから第2の都市ジッダまで約1000kmの直線的な舗装路を日本の法定速度をはるかに超えるスピードで走るため、空力を考慮することはとても大事です。

今までリヤサスペンションのショックアブソーバーは前後方向にラダーフレームがあるため、それを避けるように斜めに装着していましたが、路面からの衝撃によりリニアに反応するため、ラダーフレームに曲げを入れ、路面に対してより垂直にレイアウトしています。だから路面の継ぎ目や細かい凹凸をしなやかに吸収し、姿勢も安定しているので疲れない走りを実現しています。

ランドクルーザーのタイヤ&ホイール
265/55R20タイヤに8Jのスーパークロームメタリック塗装のアルミホイール

ステアリングも油圧式パワーステアリングに、電動式アクチュエーターが組み合わさり、駐車場の出し入れや交差点では軽めに、高速では適度な手ごたえがあり、操舵支援機能も追加され、気軽にドライビングができます。

今回、オフロード試乗は叶いませんでしたが、以前オフロードを走ったときには、モーグルで前モデルではタイヤが浮いてマルチテレインセレクトを使って走破したところも、タイヤが浮かずにスムーズに走れたのには驚きました。前後とも新開発のサスペンションによって格段にタイヤが浮きづらくなり、またディーゼルの低速トルクのおかげで、タイヤにトラクションをかけながら、ゆっくり走れるのも実にランドクルーザーらしいです。

インテリアは、センターコンソールが前モデルではシート座面と同じ高さでしたが、より上部に上がっているぶん、GRスープラのようなドライバーシートのコックピット感が増し、シートに座っただけでもスポーツカーに乗ったような高揚感があります。こうなるとステアリングにパドルシフトが欲しくなってきます。

シートレイアウトですが、ガソリン仕様は3列7名乗車もラインアップされていますが、ディーゼル仕様には2列5名乗車のみとなっています。昔、ガソリン仕様は3ナンバーの乗用登録で、ディーゼル仕様は1ナンバーの貨物登録だったので、その名残りなのかなと思いますが、ディーゼル仕様も3ナンバーなので3列シートで欲しいかたも多いのではと思います。

ランドクルーザーの軽油給油口
国内仕様のクリーンディーゼル車に必須のアドブルー吸入口がランドクルーザープラドではエンジンルームあったが、軽油給油口の隣りにレイアウトされる

新型ランドクルーザーは、軽量化、低重心化、新開発のトルクフルなエンジン、サスペンションの最適化によって、ランドクルーザーとして威風堂々たるスタイリングを持ちながら、ドライバーの意のままに走り、悪路走破性も向上したスポーツSUVとして進化。オンロードもオフロードも格段に乗りやすく唯一無二の存在として、さらに世界中で人気が出るのは必至で、この日本でしか生産していない新型ランドクルーザーを通じて、日本の製造業、匠の技のすごさを体感してもらいたいと思います。

寺田昌弘
新型ランドクルーザーの試乗インプレッションを届けてくれた寺田昌弘さん

(文:寺田 昌弘/画像:前田 惠介・寺田 昌弘)


●SPECIFICATIONS
車名:トヨタ ランドクルーザー ZX 3.3L ディーゼル
ボディサイズ:全長4985mm×全幅1980mm×全高1925mm
ホイールベース:2850mm
トレッド:F1665mm/R1665mm
車両重量:2550kg
エンジン:F33A-FTV V6ツインターボディーゼル
エンジン排気量:3345cc
ボア×ストローク:86.0×96.0mm
最高出力:227kW(309ps)/4000rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1600-2600rpm
トランスミッション:電気制御10速オートマチック
駆動方式:4輪駆動(フルタイム4WD)
乗車定員:5名
サスペンション F/R:ダブルウィッシュボーン式独立懸架コイルスプリング/トレーリングリンク車軸式コイルスプリング
ブレーキ F/R共:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ F/R共:265/55R20
燃料消費率 WLTCモード:9.7km/L
車両本体価格(税込):7,600,000円