日産が「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を初公開。匠の技を伝承したロボットが大活躍

■今年度から新型クロスオーバーEV・日産アリアの生産を開始

「CASE」対応が迫られる自動車メーカーは、とくに生産面ではEV専用工場を作るのか、内燃機関との混流生産を構築するのか、あるいは工場の統廃合なども含めて、生産面でも次々と新しい課題に直面しています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「塗装外観自動検査」の様子

2021年10月9日、日産は同社独自のクルマづくりのコンセプト「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を導入した栃木工場の生産ラインを初めて公開しました。

革新的な生産技術で次世代のクルマづくりを支え、カーボンニュートラルの実現に貢献するコンセプト。また、生産工場で2050年のカーボンニュートラルを実現するロードマップも合わせて発表されています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の生産の様子

日産は、これまで高品質で高効率な生産工程や高い技能を持つ匠の技術により、高精度なクルマづくりを実現してきました。

しかし、生産を取り巻く事業環境は大きく変わりつつあります。従来の労働集約型の生産から脱却し、高齢化社会や深刻な人手不足に対応するための労働環境改革や、気候変動やパンデミック等の予期せぬ事態への対応が求められています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
一体塗装・焼付けの工程

さらに、クルマの電動化や知能化、コネクテッド技術によって、クルマの機能や構造の高度化、複雑化が急速に進んでいます。

新時代に対応する「ニッサン インテリジェント ファクトリー」は、温暖化など気候変動、グリーン戦争ともいわれる環境の変化に対応するためのコンセプト。具体的には、「CASE」のうち、電動化技術(EV)やコネクテッド技術などが数多く搭載された次世代のクルマへの対応を掲げています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「コックピットモジュール自動組み付け」の様子

さらに、匠の技を伝承したというロボットによる最高品質の量産、人とロボットが共生する誰でも働きやすい職場、ゼロエミッションの生産システムを実現し、脱炭素社会に向けた取り組みを加速させていくと表明しています。

同工場では、今年度から新型クロスオーバーEVの日産アリアの生産がスタートします。もう1本の柱である「カーボンニュートラルの実現」では、同社が2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現するというもの。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「ヘッドライニング自動組み付け」の様子

生産分野では、今回、公開された「ニッサン インテリジェント ファクトリー」をはじめとする車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションを推進。また、工場で使用されるエネルギーと材料の効率を向上させることで、カーボンニュートラルを実現していくとしています。

具体的には、工場のエネルギーを削減しながら革新的な生産技術を導入し、2050年までに工場設備を全面的に電動化するそう。使用する電気をすべて再生可能エネルギーで発電された電気、代替燃料による燃料電池で自家発電した電気に替えていくことで、生産工場におけるカーボンニュートラルの実現を掲げています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
塗装外観自動検査の様子

「ニッサン インテリジェント ファクトリー」で採用される技術や生産設備をチェックすると、まず、「パワートレイン一括搭載システム」として、従来、複数の工程で高負荷な作業姿勢で組み付けられていた複数のパワートレイン部品をパレットに載せて一括搭載。

また、フロント、センター、リヤで分割されたパレットの2層構造により、1つの設備で27通りのモジュールの組み合わせが可能(3×3×3)になるそう。

リアルタイムで車両位置を計測し、部品位置を高精度(±0.05mm)で補正することもできるそうです。「サスペンションリンク自動締付け&自動アライメント調整」では、従来は、複数工程でマニュアル装着されていたサスペンションリンクを単一工程で自動締付し、アライメントも自動調整できるようになります。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「8極式巻線界磁モーター(磁石レス)巻線」

さらに、締付時に高トルクが求められる高負荷作業を完全自動化。ロボットによる自動調整により、匠を超える高精度なアライメントが保証(調整精度0.1°)されるそう。

天井の内張である「ヘッドライニング自動組付け」では、ヘッドライニングの装着を完全自動化。従来は、高負荷な姿勢での作業が必要で、しかも近年は、クルマの知能化やコネクテッド用の部品の追加により重量が増加していることに対応します。

自動化することが難しかった、柔らかい部品の装着も、匠の技をロボットに移植することで完全自動化されます。繊細な指の感覚が必要とされるクリップの挿入も、挿入力を力覚センサーでリアルタイムに診断することで自動挿入を実現したそう。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
パワートレイン一括搭載

「CPM(コックピットモジュール)」の自動組付けでは、組付け時のバラツキや左右差を抑制する高度な匠の技をロボットにより忠実に再現されるそうです。高速ビジョンシステムにより、ボディ寸法を高精度で計測し、±0.05mm単位で位置を補正しながらコックピットモジュールを組付け、均整のとれたシームレスなコックピットを実現。

また、新接合工法「ディンプル溶接」では、ディンプル溶接の採用により、ドアサッシュ(窓枠)のフランジ幅を4.5mmも短縮し、良好な視界を確保に貢献します。

先進安全装備やコネクティビティ、電動化など、クルマの知能化に対応する電装システムでは、知能化に伴う書き込みデータ容量の増大に対応するため、書き込みステージの拡張と通信の20倍速の高速化を実施するそうです。「8極式巻線界磁モーター(磁石レス)巻線の自動化」も盛り込まれています。ノズル式高精度巻線装置を採用することで、ワイヤーを高速・高精度・高密度に巻き上げ。同時に、モーター8個を同時に巻き上げることで量産化を実現します。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
スマホを使うIoT品質保証

ほかにも、「ニッサン インテリジェント ファクトリー」には、「塗装外観自動検査」「統合自動検査(仕様&キズ検査)」「ボディとバンパーの一体塗装・焼付け」「高効率エアリサイクルを実現する塗装ドライブース」「IoTによる品質保証管理システム」「デジタル技術による早期作業習熟の実現」「リモート設備メンテナンス」「設備故障診断システム&予知予防設備保全」などが盛り込まれています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「塗装外観自動検査」の様子

塚田 勝弘

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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