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■いっけん難解な文字表記も、意味が分かれば怖くない!
今回は、タイヤのお話。
タイヤのサイド面(サイドウォール)には、いろいろな文字が刻印されています。タイヤメーカー名、商品名のほか、数字やアルファベット、このふたつが混在した表記…見慣れないひとには何だか奇怪に思われるかもしれませんが、これらはタイヤの仕様を表しています。
いまさら人にも聞けず、見るたびに「?」と思っていた方、この記事を読んだらご自分のクルマのタイヤを見直してみてください。
●タイヤサイズ表記の意味
ここでは、下記サイズのタイヤを例にして話を進めていきましょう。
[例:205/70R15 95S]
A. タイヤ幅:205
タイヤの幅をmmで示し、この場合はタイヤ幅が205mmであることを表しています。
B. 偏平率:70
タイヤ断面の高さを「%」の単位で示したもので「偏平率」と呼ばれます。タイヤ断面の高さとは、地面との接地部からホイールまでの距離のこと。計算式は、(高さ÷幅)×100です。
この公式からすると「高さ率」と呼ぶのが本当のような気がするのですが、この計算式でなぜか「偏平率」と呼称されています。本来はタイヤ用語ではありません。広辞苑で調べてみると(広辞苑での表記は「扁平率」)、「地球そのほかの惑星などのような回転楕円体(扁球)の扁平度を示す量。赤道半径と極半径との差を赤道半径で割った比。扁率。」と書かれています。
C. タイヤ構造:R
「ラジアル構造」であることを意味しています。「ラジアル」とはタイヤ内部の強度部材(カーカス)を通る糸が、タイヤ外周に対して垂直であるという意味です。いまはほとんどラジアルタイヤですが、かつては糸が外周に対して斜めに走るバイアスタイヤが主流でした(「バイアス」とは、斜め、偏見の意味)。
D. インチ径:15
タイヤのホイールが収まる円形部分の径を示します。タイヤ幅が「mm(ミリ)」で表されるのに対し、ホイール径はなぜか「インチ(inch)」で示されます。1インチは25.4mmなので、このタイヤに組み合わされる場合のホイール径は、25.4×15=381mmとなります。
F. ロードインデックス(Load Index(LI)):95
LI(ロードインテデックス)と呼ばれるもので、1輪あたりで受け止められる負荷能力を示します。「EXTRA LOAD」という規格に基づくもので、「88」は、ロードインテデックスの表から、1輪あたり690kgの負荷に耐えられるということになります。
G. 速度記号:S
これは速度記号で、そのタイヤが正常に走行することができる最高速度を示します。「S」なら表のとおり、最高速度180km/hまで使えるという意味です。
一般的にはここまで覚えておけば充分でしょう。
必要になってくるのはタイヤの買い替え時。ひとつでも覚え間違えて買ってしまうと、クルマ本来の性能を発揮できないばかりか「装着できない!」なんてことになりかねません。カー用品店でタイヤ交換をするときは、タイヤを見てサイズをメモしてからお店に行きましょう。
よくインチアップやリフトアップと称してインチ径や幅広のタイヤに換える人がいますが、自動車メーカーが認証を得る際に、国土交通省に届け出をしたものとは異サイズのものをつけると車検に通らないこともあります。自動車はタイヤサイズも含めトータルで設計されていますから、タイヤだけ変えてしまうと、バランスをくずす方向に傾いてしまうので注意が必要です。
タイヤはサスペンションの一部であり、サスペンションを構成するスプリング(バネ)、ショックアブソーバー、スタビライザーはもちろんのこと、エンジン出力、ボディ剛性、そのほかもろもろ、各々が相互に関連してクルマ1台が成り立っています。
バランスばかりではありません。タイヤ全体の径が変わり、1回転あたりの距離が変わると、スピードメーターや距離計が狂ってしまいます。ブレーキアシスト関連でいえば、カメラの位置が変わるため、(クルマが)正しい距離感を得られず、ブレーキアシストのタイミングが狂う恐れが出てくるのです(全体径を変えないままホイール径のインチアップをするという手法もあります)。
●これも知っておくべし!
・スリップサイン
ウォール面にある三角マークがそれです。反対側にも同じマークがあるのですが、ふたつの三角マーク間にあるトレッド部の溝と溝の間には、他の部分に対して少し段差が設けられています。
タイヤが減ってくるとトレッド面とこの段差が面一になり、うら表の三角マークを結ぶ、溝のない線状のトレッド面ができあがります。
こうなるとタイヤの交換時。それを知らせるのがスリップサインです。この三角のサインはタイヤ周囲に数か所設けられています。
・製造時期
もし「YYY4717」のような刻印があったら、その中の4桁の数字に着目してください。
この4桁の数字のうち、最後の2桁「17」が製造年「2017年」を、最初の2桁「47」がその年の製造週を示しています。すなわちこのタイヤの場合、製造時期は「2017年の47週目」であるという意味です。
これはいま筆者が使っているクルマのタイヤの製造週ですが、1年間は52週間ですから、このタイヤは2017年の11月末あたりに造られたということになります。
ところで筆者の経験ですが、カー用品店で一挙4本総取っ替えをする際、4本のタイヤの製造時期が同じではないことも少なくありませんでした。中には気になる人もいるでしょうが、近い時期ならそう神経質になることもないのではないかと思います。筆者の場合も特に支障はありませんでした。
中古車を選ぶ際には、この製造時期表記を見るといいでしょう。
1本だけ妙に時期がかけ離れた表記だった場合、何かのアクシデント(ボディのサスペンション部全体を衝突されたなど)で1本だけ換えたのではないか?など、過去の事故歴を推測する目安となるからです。まあ、溝を見ればわかりはするのですが、過去を知る手がかりのひとつとして加えておくのもいいと思います。
・M+Sマーク
これは一般の乗用車用タイヤにはなく、主にオールシーズンタイヤに設けられるマーク。「M」はMud(泥、ぬかるみ)、「S」はSnow(雪)。
写真の旧ジムニーシエラに新車時からついていたタイヤは、特にオールシーズンタイヤというわけではないのですが、このマークがついています。とはいえ、トレッド面に目をやると、トレッドパターン(溝模様の形)は一般の乗用タイヤとそう大きく違って感じられるところはありません。
いくらこの「M+S」マークがついていようと、オールシーズンタイヤであろうと、その威力はやはり雪道走行専門のスタッドレスタイヤにはかないません。雪がうっすら積もるくらいの降雪時だけ、乗用タイヤよりいくらかましかな?という程度に思っていたほうが無難です。
・TUBELESS(チューブレス)
1970年代あたりまではチューブレスタイヤは限られたクルマか、オプションでつけるのが多いものでした。いまのタイヤはチューブレスとなり、タイヤをリム部にホイールを接触させ、内圧そのもので空気を保持しています。
ではチューブとは? 自転車のタイヤのパンク修理をしたことがある方ならご存知でしょう。タイヤ内部に収められている、ゴム製の浮き輪のような形をしたもので、昔は自動車用でもタイヤ内にこの浮き輪型チューブを収め、空気を入れていました。
余談ですが、小学館のてんとう虫コミックス「ドラえもん」第33巻に収録されている「ハリーのしっぽ」というお話の中に、明治 43(1910)年の、のび太のご先祖様を含む町の人びとが、地球の空気を奪ってしまうかも知れないハリー(76年周期でやってくるハレー彗星のこと。その次にハレー彗星がやってきた昭和61(1986)年にこのお話が作られた)が通過した後のために、自転車のチューブに空気を貯めておこうとする描写があります。
タイヤ表記の意味、おわかりになりましたでしょうか?
タイヤサイズは、人間でいえば靴のサイズにあたります。本来25cmの靴を使っている人が、23cmの靴を履けばきつくて痛くて仕方ないし、27cmの靴をはめればブカブカで歩きにくくなります。
タイヤも靴も、適正サイズ以外のものを身にしていいことはひとつもありません。
夏タイヤにしてもスタッドレスタイヤにしても、インチアップなどの見た目重視だけで判断せず、本来のサイズのものを選ぶことも大切です。そして履きっぱなし、使いっぱなしにせず、タイヤの性格を考えながら、ときには空気圧確認や溝にはさまっている小石・砂利を取り除くなどのメンテナンスもしながら大事に長く使いたいですね。
(文・写真:山口 尚志)