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■「フォルクスワーゲン」はヒトラーによって作られた国民車の会社
フォルクスワーゲンという名前は、ドイツ語で「国民車」という意味です。
フォルクスワーゲン社の元となった企業は、第二次世界大戦直前のナチスドイツ政権下において、アドルフ・ヒトラーが掲げた「国民車構想」を実現するために作られた「ドイツ国民車準備会社」です。
国民車を作るために招聘された技術者は、のちにポルシェ社を興すフェルディナント・ポルシェでした。
ドイツ国民車準備会社で作られた最初のモデルはKbFワーゲンという名前でしたが、このKbFワーゲンを一般に売り出す前に第二次世界大戦が勃発、KbFワーゲンはキューベルワーゲンに代表される軍用車に転用されていきます。
戦争が終わり、戦後処理が行われるなかで、「ドイツ国民車準備会社」の所有していた技術や資産を元に「フォルクスワーゲン社」が誕生。
キューベルワーゲンは民生モデル「フォルクスワーゲン・タイプ1(通称ビートル)」として生まれ変わり世界中を席巻します。
現在、フォルクスワーゲンはアウディ、ポルシェ、ベントレーといった日本でも知られたメーカーはじめ、セアトやシュコダ、ブガッティなども傘下に持つ一大グループとなっています。
2020年の世界販売台数は931万台で世界第2位。
●コンサバなパサート、スタイリッシュなアルテオン
パサートの成り立ちを語るには、アウディとの関係を無視できません。
初代パサートは1973年に発売されたアウディ80をベースとしたモデルでした。2代目もアウディ80がベースでしたが、3代目、4代目はフォルクスワーゲンオリジナルとなりますが、5代目でふたたびアウディA4と兄弟関係を復活します。
6代目では再度アウディと共通性をなくしフォルクスワーゲン・ゴルフとプラットフォームを共有しますが、この時代ではゴルフとアウディA3がプラットフォーム共有を行っています。
現行モデルは8代目にあたります。プラットフォームはMQBと呼ばれるもので、フォルクスワーゲンだとポロからアルテオン、テグアンなどが採用。アウディはQ2、A3、TTなどが採用します。
現行パサートは、4ドアセダン、ステーションワゴンの2車型が用意され、ステーションワゴンのFFはバリアント、4WDはオールトラックの名で呼ばれます。最新モデルは2021年4月にマイナーチェンジされたものです。
アルテオンはかつてパサートCC(シリーズ途中でCCとなった)と呼ばれていたモデルの後継。基本的にはパサートと同様ですが、よりスタイリッシュなエクステリアが与えられています。
サッシュレスのドアを採用し、ワゴンはリヤハッチの傾斜角をより寝かしたシューティングブレークとなります。最新の変更は2021年7月にマイナーチェンジです。
●パサートは1.5Lから、アルテオンは2Lのみ【新型フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンの基本概要】
パサートはセダンとヴァリアント(ステーションワゴン)のFFモデルに1.5ガソリンターボと2.0ディーゼルターボを設定、オールトラック(ヴァリアントの4WD仕様)は2.0ディーゼルターボのみとしました。
一方アルテオンは2.0ガソリンターボのみという設定です。組み合わされるミッションはすべてデュアルクラッチ式のDSGとなります。パサートはより実用性を重視して従来の4種から2種に集約、アルテオンは従来どおりのプレミアム感を重視したパワーユニットを継続という形です。
サスペンションはフロントにストラット、リヤは4リンクという名で呼ばれるダブルウィッシュボーンの発展型サスペンションを採用します。パサートセダンとパサートヴァリアントの駆動方式はFFで、パサートオールトラックとアルテオンは4モーションと呼ばれるフルタイム4WDを採用します。
4モーションは、前後駆動配分を0対100~50対50までを連続して制御する高性能な4WDシステムです。パサートのTDI-RラインとTDI 4モーション アドバンス、アルテオン全グレードにはショックアブソーバーの減衰力やパワーステアリングのアシスト量などを調整するアダプティブシャシーコントロール(DCC)も装備されます。
●基本に忠実なパサート スタイルを追い求めるアルテオン【新型フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンのデザイン】
フォルクスワーゲンのラインアップのなかでフラッグシップセダンとなるパサートは、飾らないドイツ車はかくあるべきというような質実剛健なデザインを持っています。
とはいえ、かつてのパサートほどではなく、そこにはコンサバティブでありながら美しさを追求した部分が多く見られます。
とくにフロントセクションの厚みを抑えノーズをグッと下げたところや、ルーフからきれいに流れていくCピラーなどは上級さを感じさせてくれる部分と言えます。パサートヴァリアントはルーフを水平な状態で後方まで伸ばし、かなり後ろの位置でカクンと下に曲げています。
しっかりワゴンとしてのスタイルを作ろう、ラゲッジルームに荷物がたくさん積めるようにしようとしているのがヴァリアントのデザインです。
パサートにはオールトラックいうグレードが用意されています。オールトラックはヴァリアントの車高を25mm高くし4WDの駆動方式を与えたモデルです。オールトラックはフェンダーアーチモールがブラックとなっています。
2021年のマイナーチェンジでは車名ロゴをセンターに移動するなどのリフレッシュが行われました。
アルテオンはパサートをベースにスタイリッシュさを詰め込んだようなモデルです。パサートはドアに窓枠があるデザインですが、アルテオンはサッシュレスドアを採用していてサイドスタイルが引き締まった印象となっています。
パサートに比べると全幅が45mmも広く、全高が25mmも低いためワイド&ロー感が高いシルエットとなっています。セダンという名前がついてますが、実際はリヤに傾斜したハッチを備える5ドアハッチバックのスタイリングです。
アルテオンにもワゴンボディが用意されます。アルテオンのワゴンは、ヴァリアントではなくシューティングブレークの名がつけられています。パサートのようなコンサバティブなデザインのワゴンではなく、ルーフはフロントウインドウ直後を頂点にリヤに向かってゆっくりと下がっていくラインが与えられています。
2021年のマイナーチェンジではLED テールライトクラスターとVWバッジのデザインが変更されました。
●MQBプラットフォームを使い広々とした室内を実現【新型フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンのパッケージング】
パサートセダンの全長×全幅×全高は4790×1830×1470mm。パサートヴァリアントの場合は4785×1830×1510mm、パサートオールトラックの場合4785×1855×1535mmとなります。
つまり、セダンとヴァリアントだとヴァリアントの車高が40mm高いことになり、ヴァリアントとオールトラックだとオールトラックの全幅と全高がそれぞれ25mm増しとなります。ホイールベースは共通で2790mmです。
アルテオンはセダンとシューティングブレークの全長×全幅×全高が同寸法で、4870×1875×1445mmとなります。パサートセダンと比べると全長で10mm短く、全幅では45mmも広く、全高は25mm低くなります。ホイールベースは2835mmで45mm長くなっています。
両社ともにMQBプラットフォームを使ったモデルで、フロントシート、リヤシートともにゆったりとして窮屈さを感じることはありません。アルテオンは車高が25mm低いので窮屈かといえばそんなこともありません。アルテオンのほうがホイールベースが長い分、室内空間には余裕があります。
パサートヴァリアントの荷室用量は650~1780L、アルテオンシューティングブレークでも565~1632Lを確保。フォルクスワーゲンによればパサートヴァリアントのラゲッジルーム容量は、全ステーションワゴン車のなかで最大容量を誇るということです。
●ドイツ車らしいしっかりした走りが魅力【新型フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンの走り】
パサートには1.5Lガソリンターボと2.0Lディーゼルターボ、アルテオンには2.0Lガソリンターボと3種のパワーユニットがありますが、試乗車の都合で試乗できたのは2.0Lディーゼルターボと2.0Lのガソリンターボでした。
パサートの2.0Lガソリンターボはパサートのキャラクターに合ったものでした。以前の感覚でいえば、フラッグシップモデルは大排気量で余裕にあふれるガソリンユニットを搭載するべきでしょう。CCの時代は3.6LのV6エンジンモデルも存在していました。
しかし現代ではフラッグシップセダンだからといって、大きなエンジンを積むのが必ずしも正しいとは限りません。ある程度の社会的地位のある人が乗るということになるフラッグシップモデルは、環境問題もクリアできるようなものが理想でしょう。
欧州ではディーゼルエンジンは縮小傾向ですが、少し前までは二酸化炭素排出量が少ないということで人気のあるパワーユニットでした。ガソリンエンジンよりもトルクフルな特性で、アクセルペダルを踏み込むと低速から非常に力強い加速を得ることができます。最高出力は190馬力、最大トルクは400Nmです。
その400Nmの最大トルクは1900回転で発生してしまうので、アイドリング付近の低回転でもかなり強いトルクを発生します。低速からアクセルをゆっくりと踏み込み「グッググッ」と加速していくフィールはなかなか気持ちのいいもので、パサートのキャラクターにも合っています。
一方のアルテオンに用意されるエンジンは2.0Lの4気筒ガソリンターボで272馬力・350Nmというスペックです。パサートの1.5Lエンジンは150馬力だったので、ざっくり1Lあたり100馬力(これでもかなり高性能)ですが、アルテオンのエンジンは1Lあたり136馬力とかなりハイチューンです。
パサートに比べると走りはずいぶんと力強く、加速も鋭い印象です。パサートが「グッググッ」と発進していいくのに対して、アルテオンはまさに「ビューン」という感じの加速となります。パサートディーゼルと比べると80馬力以上もパワー差があるのだから、当たり前と言えば当たり前ですが…。
足まわりの印象はしっかりしたもので、いかにもドイツ車らしいカッチリとしていてスキのないものです。どちらかというとパサートのほうがゆったり感のある印象ですが、それはパサートが235/45R18、アルテオンが245/35R20というタイヤを履くことにあるでしょう。
アルテオンにはDCCが装備されていてサスペンションの減衰力調整できるのですが、そもそも扁平率が低いタイヤは高い減衰力を要求するので、コンフォートやノーマルを選んでも乗り心地をよくするのは難しいのです。
アルテオンで乗り心地を求めるなら19インチタイヤを履くRラインを選んだほうがいいでしょう。
●パサートセダンは400万円台〜、アルテオンは500万円後半〜【フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンのラインアップと価格】
パサートは、セダン、ヴァリアント、オールトラックの3タイプがあります。セダンとヴァリアントは1.5Lガソリンターボと2.0Lディーゼルターボの2種のパワーユニットでFFのみ、オールトラックは2.0ディーゼルターボのみで4WDのみの設定です。
セダンの価格帯は429万9000円~539万9000円、ヴァリアントは449万9000円~584万9000円、オールトラックは552万9000円~604万9000円となります。
セダンとヴァリアントは同一グレードがあるので価格差を計算してみた結果、ヴァリアントはセダンよりも20万円高。また1.5ガソリンターボと2.0ディーゼルターボの価格差は35万円、エレガンスとエレガンスアドバンスの価格差は70万円となります。
一方、アルテオンは5ドアハッチバックとシューティングブレークの2つの車型で、エンジンは2.0ガソリンターボのみ、駆動方式は4WDのみとなります。5ドアハッチバックが567万9000円~624万6000円、シューティングブレークが587万9000円~644万6000円です。シューティングブレークは5ドアハッチバックに比べて20万5000円高くなります。
グレードはRライン、Rラインアドバンスとエレガンスで、Rラインが基本グレードとなります。Rラインアドバンスとエレガンスは同じ価格です。Rラインアドバンスとエレガンスはともに20インチのタイヤ&ホイールやマッサージ機能付シートなどが採用されるほか、それぞれに異なるエクステリアやインテリアが与えられ個性を引き出しています。
なお今回紹介した価格は2021年9月いっぱいのもので、10月1日からは新しい価格となるため、ボディ違いの価格差などは異なった数値となります。
●実用性に優れたパサート、オシャレを楽しめるアルテオン、どちらも欧州車らしい【フォルクスワーゲン・パサート&アルテオンのまとめ】
欧州セダンに乗りたいけれどもメルセデス・ベンツやBMW、アウディといった、いかにもプレミアムなブランドはちょっと遠慮したいという方にぴったりなのがパサートと言えるでしょう。欧州セダンらしい乗り味を味わうことができます。リヤシートの広々さも十分なもので、お客さんを乗せる機会の多い方にもおススメです。
パサートヴァリアントの魅力は、何と言ってもラゲッジルームの広さです。荷物をたくさん積んで出かけたい、たとえばゴルフバッグを4つ積んで4人で出かけるのも楽々と行えるサイズです。荷物がたくさん積めるというとミニバンやSUVを思い浮かべがちですが、パサートヴァリアントを選べばワゴンでも荷物満載で出かけられるというわけです。また、オールトラックは若干ラゲッジルーム容量が下がりますが、4WDの走破性を手に入れることができます。
パサートは質実剛健すぎると思う方に用意されているのがアルテオンです。アルテオンはパサートの使い勝手のよさとユーティリティの部分を少し削り、それをスタイリングに振り分けたようなモデル。スタイリッシュでありながら、必要十分な実用性を持っているモデルが欲しいという方には、なんと言ってもアルテオンがおススメです。
(文・写真:諸星 陽一)