目次
■後続距離が長くできる電気自動車
最近、「カーボンニュートラル」や「脱炭素社会」などの言葉をよく耳にすることが多いと思いますが、クルマでも地球温暖化対策として「電動化」が進んでいます。
クルマの電動化というと、BEV(バッテリーの電力だけで走る電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)などのイメージが強いですが、もうひとつFCV(水素燃料電池車)というタイプもあります。
ほかの電気自動車は、国内外の自動車メーカーから新型が続々と登場していますが、FCVは乗用タイプの量販市販車(乗用車)は3モデルしかありません(2021年7月上旬現在)。でも、実はほかのタイプにはないメリットも多く、環境に優しいという意味でもかなり優れているのです。
そこで、ここでは一体、どんな市販FCVがあり、どんな魅力を持つのか紹介してみましょう。
●トヨタ・MIRAI
FCVは、すごく簡単にいうと、燃料に水素を使い、酸素と化学変化させて電気を作り出す装置(FCスタックといいます)を搭載した電気自動車です。ガソリンやディーゼルといった化石燃料は一切使いませんので、クルマから出るCO2排出量が実質ゼロという点では、BEVと同じです。
FCVの代表例といえば、やはりトヨタの「MIRAI(ミライ)」でしょう。MIRAIは、2014年に初代が登場、量産車としては世界初の高級セダン型FCVです。現行モデルは、2020年12月に発売され、先代の近未来的なフォルムを継承しながらも、よりエモーショナルでスポーティなスタイルに生まれ変わっています。
高い環境性能に加えて、「走ることが楽しく快適なクルマ」としての完成度を追求したという新型は、最高出力182psを発揮する高出力・高効率の駆動用モーターを採用します。加えて、動力源である燃料電池ユニットを新開発し、FCスタックやFC昇圧コンバーターなど各パワーコントロールユニットを小型・高性能化。
新型のFCスタックは最高出力174psという世界最高レベルの高出力も実現し、パワフルな加速を生み出します。
また、駆動方式は先代のFFからFRに変更、FCスタックなど主要パワーユニットのレイアウト変更による前後50:50の理想的重量配分などで、走行性能を向上させています。
さらに、車体には、レクサスなどで定評がある「GA-L」プラットフォームをベースに、リヤなど各部の構造を見直し、徹底的にボディ剛性などを強化しています。
MIRAIは走行距離が長いのも特徴です。カタログ値では、水素一充填あたりの走行距離は約750km〜約850kmとなっています。ただし、これについては、クリッカー編集部の小林編集長も参加した「航続距離チャレンジ」で、1040.5kmという世界記録を達成しています。MIRAIが、いかにロングドライブに向いているかが分かりますね。
詳しくはコチラ
【速報】トヨタMIRAIの満タン水素で1040.5km走破!燃費は197km/kg!!日本チームが仏の世界一記録を更新
また、車体下の中央部に設置された高圧水素タンクへの満充電時間は、わずか3分程度。BEVなどが、急速充電でも30分以上はかかることを考えると、かなり時間は短いですね。
なお、価格(税込)は710万円〜860万円。2021年4月には、高速道路や自動車専用道路で条件を満たした場合に手放し運転も可能となるなど、さまざまな高度運転支援技術(レベル2)を採用した「Advanced Drive」搭載車も発売されています。
●ホンダ・クラリティFUEL CELL
同じくセダンタイプのFCVとして、ホンダが2016年に発売したのが「クラリティFUEL CELL(フューエルセル)」です。
主な特徴は、力強さと流麗さを併せ持ったエクステリアデザイン、最高出力177psの高出力モーターによる電動車ならではの静かで力強くなめらかなドライブフィールを実現していることです。
FCスタックの最高出力は140psで、小型化された燃料電池パワートレインをトランク内に搭載することで、5人乗りが可能な広い室内を実現します。
また、70MPaの高圧水素貯蔵タンクを搭載し、パワートレインの高効率化や走行エネルギーの低減により、一充填走行距離は約750kmを実現。毎日の使用からロングドライブまで、日常のクルマとしての実用性を誇ります。
さらに、一回あたりの水素充填時間は3分程度と、ガソリン車と変わらない使い勝手も実現しています。
なお、クラリティFUEL CELLは、発売当初、自治体や企業を中心としたリース販売でしたが、2020年6月には個人ユーザー向けのリースも開始されていました。ところが、現在はオーダー受付が終了しており、一部報道では生産中止も伝えられています。
ホンダは2040年までに、販売する新車全てをEVとFCVにする目標を2021年4月に発表しています。また、2013年からはアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)と燃料電池システム開発の共同開発も行っています。
そう考えると、今後、FCVについても後継モデルが出る可能性は十分あることが予想されます。
●ヒュンダイ(ヒョンデ)・ネッソ
最後の1台は、韓国の現代自動車(ヒョンデ)が生産するミドルサイズSUVの「ネッソ」です。ちなみに、現代自動車は、世界統一表記をヒュンダイから最近ヒョンデに変更しています。
外観デザインは、直線を基調としたLEDヘッドライトやフロントグリルなどにより、近未来的なフォルムが特徴です。
駆動モーターは最高出力が約163ps、FCスタックは最高出力約129psを発揮し、駆動方式はFF。水素1回の充填で約820kmの走行が可能です。
なお、この後続距離は、たとえば、東京から広島までノンストップで走行することができる距離です。しかも満充填は5分でできるといいますから、こちらもガソリン車並みの補給時間です。
ほかにも、自動駐車機能や車線変更時に後方死角をナビに映し出すブラインドスポットビューモニターなどを採用するなど、先進の運転支援システムで高い安全性も誇ります。
ネッソは、本国の韓国や北米などを中心に販売されていますが、日本では現在取り扱いがありません。ところが、なぜか日本語の公式ホームページがありますので、将来的に日本でも販売することも予想されます。
なお、価格は北米で5万8935ドル(約654万円)〜6万2385ドル(約692万円)で、リース販売が行われているようです。
●FCVの市販車は今後増える?
FCVは、ほかにも日産が2002年にSUVのエクストレイルをベースとした「エクストレイルFCV」を開発し、公道実験などを行っていましたが、市販化には至っていません。
余談ですが、トヨタが、「カローラスポーツ」に水素エンジンを積んだレースカーで、2021年5月21日〜23日に富士スピードウェイで行われたスーパー耐久レースに参戦したことが話題となりました。ただし、あちらはFCVではなく、ガソリンの代わりに水素を燃料とするエンジン車のテスト。こちらも、今後の動向が気になります。
FCVは、前述の通り航続距離が長く、BEVの充電時間と比べ水素の充填時間が短くすむといったメリットがあります。でも、現時点(2021年7月上旬現在)では、乗用車では3モデルしかありません。
BEVのように各メーカーが作らないのは、搭載する燃料電池が高価で開発コストが掛かることや、水素タンクが大きいため車体を小型化できないこと、水素ステーションが少ないといったインフラの問題などが考えられます。
乗用車としてのFCVが今後増えていくのかは分かりませんが、バスやトラックなど商用車としての活用は今後期待できそうです。
たとえば、トヨタが開発した燃料電池バス「SORA(ソラ)」は、(2019年8月の段階では)東京オリンピック・パラリンピックで関係者輸送の車両に使用されることが公式予定されていました。また、京浜急行バスでは、2019年3月からお台場地区の路線で運行を行うことを発表しています。
水素ステーションの数が少なくても、こうした一定区間を循環する路線バスなどであれば、運行エリア内にステーションがあれば充填が可能です。しかも、BEVと比べ充填時間が短く、環境にも優しい。
そう考えると、FCVは、こういった商用ベースから普及していくのかもしれませんね。
(文:平塚 直樹)
【関連リンク】
トヨタ・MIRAI公式ホームページ
https://toyota.jp/mirai/?padid=from_mirai_grade_navi_top
ホンダ・クラリティFUEL CELL公式ホームページ
https://www.honda.co.jp/CLARITYFUELCELL/
ヒョンデ・ネッソ公式ホームページ
https://www.hyundai.com/jp/nexo