■2050年カーボンニュートラルは自動車業界の共通認識。多様性のある開発と政策を
国内の温室効果ガス排出量を2030年度までに「13年度比46%削減」と内閣総理大臣・菅義偉氏が表面したことが話題となった2021年4月の第4週。
これは2050年カーボンニュートラルという大きな目標に向かう一歩。そして、同じタイミングで自動車業界でもカーボンニュートラルに向けた提言や宣言がなされました。
まず、4月22日には日本自動車工業会(自工会)の会長である豊田章男氏が定例記者会見を行ない、カーボンニュートラルへ向けて電動化以外の選択肢を残しておくことの重要性を訴えます。
たしかにカーボンニュートラルをモビリティで実現するには再生可能エネルギーと電気自動車という組み合わせしかないというムードになっています。しかし、それでは2050年のカーボンニュートラルには間に合わないというのが自工会の主張。
なぜなら、日本に関していえば8000万を超える保有台数と500万規模の新車販売、そして13年という平均車齢を考えたとき、すべての保有車両が電気自動車や燃料電池車などのゼロエミッションカーに変わるのは2080年頃になると試算されるからです。それでは2050年のカーボンニュートラルには間に合いません。
そこで自工会が提案するのが「カーボンニュートラル燃料(e-fuel)」です。
今回の記者会見では具体的な性能やカーボンニュートラル比率については明言されませんでしたが、仮に再生可能エネルギーから生み出した水素や人工光合成によって大気中から得た炭素を使ったカーボンニュートラル燃料を生み出すことができれば、既存のエンジン車においても運用上のカーボンニュートラルは実現できますし、2050年のカーボンニュートラル化において大きな力となることは間違いありません。
車両だけでなく既存インフラをそのまま利用できるというのもe-fuelのメリットです。
つまりe-fuelの開発を前提とすれば、エンジン車の禁止というのはナンセンスですし、現時点でエンジン車禁止を打ち出して、そうした選択肢をなくしてしまうことは技術革新の芽を摘んでしまうというのが自工会の主張というわけです。
とはいえ、日本の自動車メーカーが会員となっている自工会は一枚岩ではないようです。
翌4月23日に本田技研工業の新社長に就任した三部敏宏氏が社長就任会見を行ない、ホンダとしての目標を発表しました。
結論をいえば、ホンダは2040年までにグローバルでのすべての新車販売を電動化すると発表しました。
ここでいう電動化にはハイブリッドは含まれません。ホンダの四輪車は電気自動車(BEV)か燃料電池車(FCV)だけのラインナップになるというのです。日本においては軽自動車まで完全電動化をすると宣言しました。つまり自工会がいうところのe-fuel戦略にホンダは乗らないと捉えることができます。
電動化の中心となるのはBEVですが、北米ではGMとのアライアンスを活かして、GMとLG化学の合弁企業で生産する「アルティウム」バッテリーを中心に調達するといいますし、中国市場ではCATLとの連携を強化するなど現地でのサプライチェーンを確立するとしています。
日本においても同様で、国内でのバッテリー調達を前提に考えているといいます。
その日本市場向けとしては、2024年に軽自動車にも電気自動車を投入するという計画を発表しました。現時点では軽自動車にハイブリッド技術さえ投入していないホンダですが、一気にゼロエミッションのオールラインナップ化を進める計画で、2030年には国内向けの純粋なエンジン車ラインナップはなくなり、最低でもハイブリッドカーになるということです。
こうして一気にゼロエミッション化を進める狙いはどこにあるのでしょう。
ひとつには利益率の確保が考えられます。ホンダはとくに四輪事業における利益率の低さが課題となっていますが、電気自動車になれば部品点数の低減による組立コストダウンや、早期に電動化を進めることで付加価値の高い商品として展開することが可能で、生産コストと販売価格の両面で利益率の改善が狙えるからでしょう。
ホンダの三部社長はもともと環境エンジンの開発経験が豊富で、先進技術を見る目がある人物として知られています。
再生可能エネルギーによるe-fuelの製造コストと、再生可能エネルギーで生み出した電力をそのままバッテリーに充電することを比較したときに後者のほうがシンプルかつコスト面でも有利と考えているのかもしれません。また、日本政府が考える水素社会では、水素を用いて合成燃料を作るより、水素を燃やして発電するという未来を描いていることも電気自動車が主体となり得る可能性を感じさせる部分です。
いずれにしても、自工会・豊田会長が言うように、技術の可能性を信じるべきですし、政策として選択肢を狭める必要はありません。
ゼロエミッション化を進めるメーカーがあり、e-fuelに注力するメーカーがあり、そうした多様性のなかでカーボンニュートラルの実現が進むことは、ユーザーとしても選択肢が増えることになり歓迎すべき状況だからです。