可変動弁機構とは?吸排気弁の開閉タイミングとリフト量を自在に変更【バイク用語辞典:4ストロークエンジン編】

■弁開閉時期と弁リフト量を切り替えて低速トルクと高速出力を両立

●カム切り替え型、カム位相型、動作弁切り替え型などメーカー独自のさまざまなタイプが存在

可変動弁機構は、吸・排気弁の開閉時期や弁リフト量を運転条件に応じて最適化する機構です。出力や燃費、排ガスの制御に有効なことから自動車ではごく一般的な技術ですが、バイクでは低速から高速まで出力向上を図る目的で一部のモデルに採用されています。

バイクで採用されている可変動弁機構の仕組みや効果について、解説していきます。

●可変動弁機構の種類

自動車で採用されている可変動弁機構は、出力よりも主として燃費向上や排出ガス低減のために活用されています。

一方、バイクで採用されている可変動弁機構は、低速トルクと高速出力を両立させて低速から高速まで高出力を確保することが主要な役目です。そのために、低速域では低速トルク重視のカム、高速域では高速出力重視のカムが使えるように切り替えるのが主流です。

・低速重視カム
ピストン速度が遅い低速域でトルクを向上するためには、弁開口面積(リフト量)や開弁期間はそれほど大きくする必要はありません。また、弁開閉時の空気流の慣性遅れが無視できるので、吸気弁の閉時期は下死点直後に設定します。

・高速重視カム
ピストン速度が速い高速域で出力を向上するには、弁開口面積(リフト量)や開弁期間を十分に確保した上で、吸気弁の閉時期は下死点からある程度遅らせる(50~60度)ことが必要です。また、高速域では、シリンダー内の燃焼ガスの抜けを良くするためオーバーラップ期間を大きくすることが有効です。

以下に、代表的な3種類の可変動弁機構について解説します。

●カム切替え型

低速カムと高速カムを切り替える方式で、代表的なのはBMWの「シフトカム」です。

カム切り替え型
カム切り替え型

設定された切替回転数になると、アクチュエータとシャフトゲートでカムシャフトをスライダさせて、吸気側のカムが高速と低速の2種に切り替わります。

また、低速用ロッカーアームと高速用ロッカーアームを切り替えるタイプもありますが、いずれにせよ油圧制御による切替機構を採用しています。

●カム位相型

カム位相型
カム位相型

カムシャフト先端のスプロケット部に位相角変更用の油圧機構を備えた機構で、代表的なのはドゥカティDVT(デスモドロミック可変タイミング)です。切り替えでなく、吸・排気弁の開閉時期を連続的に位相制御することで、あらゆる運転条件で最適なエンジン性能を実現しています。

スズキのSR-VVTも位相型ですが、油圧制御でなく遠心力のみで作動する簡単な方式です。吸気カムシャフトのスプロケットが2重構造で、回転が上がると刻まれた溝に挟まったボールが遠心力で外側に移動することによって、カムシャフトの位相が変化する仕組みです。

●動作弁切り替え型

ホンダの「ハイパーVTEC」のように、駆動する弁数を運転条件によって切り替えるタイプです。低回転時に作動する弁のカムは低回転用に、高回転時のみに作動するカムは高回転用に設定されています。

低回転時には、高回転時に開閉する弁はカムと弁ステムの間に設けられたピンホルダーに弁ステムが沈み込んでおり、カムが回転してピンホルダーを押しても弁は開きません。

高回転になると、油圧によってピンホルダーにキーがスライドし、カムの動きが弁ステムに伝わって弁が開閉します。


ほとんどの自動車は、厳しい燃費や排ガス規制に対応するため、可変動弁機構を採用しています。一方バイクは自動車ほど必要性に迫られていないこと、コンパクトなエンジンに複雑な可変機構を搭載することが困難なため、採用は一部に限られています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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