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●静かになったe-POWERとコンパクトSUVのマッチは素晴らしい!!
試乗させていただいた日産・キックスは、Zツートーンインテリアエディション。もちろんFF駆動で、パワートレインはe-POWERだ。タイヤは205/55R17 91V、銘柄はYOKOHAMAブルーアースE70。低燃費性能を高めながら、安全性能と快適性能をバランスさせた乗用車用サマータイヤだという。
試乗コースは、高速道路を約150km、一般道とワインディングを約50km。平均気温は30度で、路面はドライといった状況であった。燃費についても後述する。
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■一般ハンドリング性能
■高速直進性
■乗り心地性能
■ロードノイズ
■動力性能
■まとめ
■一般ハンドリング性能 8.5点 (10点満点)
スタート直後の低速時、据え切りの操舵力は適度に軽く、駐車場での取り回しも非常に楽だ。2620mmというホイールベースからなのか、タイヤグリップの高さによるものか、クイック寄りのギア比によるものか、小回り性能が非常に良い。最小回転半径は5.1mと数値上は平均的なのだが、それ以上によく曲がる印象だ。
サスペンション形式はフロントがストラット、リアがビーム式と、コンパクトSUVとしてオーソドックスな構成だが、コーナーでステアリングを切ったことに対してクルマが曲がろうとする力が強い。スピードに乗ると、操舵力は軽めのまま、スルスルと加速をする。
交差点やコーナーでのロールの量、ブレーキング時のピッチング、といったボディモーションも少なめで、安心感のある足回りだ。サスペンストロークがありしっかりと足が動くので、積極的に(?)路面のギャップを超えてみたくなる。
■高速直進性 8.0点 (10点満点)
高速走行中にステアリングを補舵する力は、やや重ための印象がある。そのため、橋の繋ぎや突起、うねりといった路面外乱によって、ステアリングを切らされることがなくなり、クルマは余計な動きがなくなって安定する。中低速域ではクイクイと曲がる印象が強いため、こうしたEPSのセッティングは納得だが、昨今の欧州車のステアフィーリングのような、補舵力が軽めで操舵力が重たい印象と比べると、ややなつかしさも感じる。
ただ、高速走行シーンでは、指先の操作でプロパイロットを入れてしまえば至極快適な高速クルージングができる。プロパイロットの制御によるステアリングの修正操舵の量も少ないので、気を使うこともなく疲れにくい。あえてステアリングは自身で操縦をしたい、という方にとっては気になる点かもしれない。
■乗り心地性能 8.0点(10点満点)
乗り心地は、上下方向のフワ付きがほぼなく、適度に引き締まった印象だ。フワフワとする柔らかな感じではないが、「すっきりとした良い乗心地」といえる。タイヤと地面との当たりが柔らかく、突起ショックのレベルも小さいのも好印象だ。205幅の17インチタイヤを装着しているので、もう少しあたりの硬さを想像していたが、乗り心地は上質だ。
■ロードノイズ 8.0点(10点満点)
遮音がよく効いており、ノートe-POWERとは比べ物にならないくらい車内は静かだ。
一般道でのストップアンドゴー走行、高速道路でのハイペースでの巡航、どちらのシーンでも、ロードノイズはよく抑えられている。
一般道では「サー」といった、ごく小さな音量で、高速走行中も「コー」という音は聞こえるが、その音量自体は比較的小さい。また、突起乗り越し時のインパクトノイズも少ないので、質感が高く感じられてよい。
■動力性能 8.5点(10点満点)
コンパクトSUVとe-POWERの組み合わせは実にマッチしている。車速ゼロからの発進、緩加速、高速合流の強加速、高速巡行走行など、シーンを問わず、1350kgのキックスを軽々と走行させてくれる。
電力供給のためにエンジンが始動した際も、不快に感じるエンジンノイズと振動が見事に遮音されているので走行フィールは上質だ。ノートe-POWERとは、ノイズ処理のレベルがまったく違う。
なお、最終的な実燃費は22.5km/Lであった。WLTCモード燃費はNAが21.6km/Lであり、実燃費が追い抜くほどの良燃費であった。瞬間燃費の数字を見ていると、一般道での中低速走行では燃費は良く、高速道路での巡行になると、燃費が下がる傾向があった。e-POWERの得意不得意な走行シーンが、如実に表れているように感じる。
■まとめ
キックスは「X(2,759,900円)」と「Xツートーンインテリアエディション(2,869,900円)」の2グレードでの展開だ。全グレードe-POWER、プロパイロット標準装備、E-PKB標準装備、本革ステアリングや先進安全技術も標準搭載されるなど、実質的には上級グレードの1スペック販売となる。
動的な性能、燃費、そして装備内容を考慮すれば、この価格は妥当といえるだろう。
だが、こうした商品内容のSUVは、「いまから2年前には世に出せていたのでは?」と思えてしまう。現在大ヒット中の、トヨタRAV4、ダイハツロッキー・トヨタライズ、ハリアー、ヤリスクロス、スバルフォレスター、ホンダCR-V、マツダCX-30など、まだ存在していなかった時代だ。
キックスがいいクルマであることは間違いないが、いまや、ライバルが多すぎて、遅きに失した感が否めない。
あと2年早ければ、国内市場でノートe-POWERと並んで、抜きんでたキャラクターで大ヒットしていたのではないだろうか、と思うと残念だ。
(文:自動車ジャーナリスト 吉川賢一/写真:エムスリープロダクション 鈴木祐子)