ジウジアーロもデザインしたスズキ・キャリイは軽トラの原点としてスズライト・キャリイから始まった【スズキ100年史・第12回・第3章 その2】

大戦前後に活躍した3輪の軽トラックに続き、1960年代以降は走行安定性に優れた4輪の軽トラックが主役になりました。その代表が、1961(昭和36)年に鈴木自動車が発売した軽トラック「スズライトキャリイ」です。

セールスポイントは、ライバル車に比べて荷台が広いこと、積載時の坂道、悪路でもパワフルにスムーズな発進と走行ができることでした。その後、モデルチェンジを繰り返しながら50年以上経った現在も、軽トラの中心的なモデルとして人気を博しているのです。

第3章 軽自動車・第1期黄金期(1960-1972年)と鈴木自動車

その2.現在も続くロングランヒットの軽トラ「キャリイ」

●3輪軽トラックから4輪軽トラックへ

戦後の復興に3輪トラックが活躍しましたが、1950年代後半には3輪トラックより小回りの利く小さな軽自動車の3輪トラックが台頭しました。

代表的なのは、1957(昭和32)年にダイハツから発売された3輪の軽トラック「ミゼット」です。排気量249ccのエンジンを搭載した1人乗りの軽トラで、300kgの積載ができるため街中の運送や農家の手足として重宝され、爆発的なヒットになりました。その後、東洋工業の「K360」も追随しましたが、3輪の軽トラックの人気は一時的で、その後走行安定性に優れた4輪の軽トラックが主流になりました。

ダイハツ・ミゼット
ダイハツ・ミゼット

●4輪軽トラックの「スズライトキャリイ」登場

1960年代に入って4輪軽トラックは、高度成長による消費活動の発展とともに身近な生活必需品の運送や農作業のために不可欠な存在となりました。

鈴木自動車は、「スズライト」のピックアップトラックの流れを継承した軽トラック「スズライトキャリイ」を1961(昭和36)年に発売しました。当時ボンネット型が主流の中で、積載量に有利なセミキャブオーバー型を採用。エンジンをシートの下に搭載するフロント・ミッドシップのため、低重心で走行安定性に優れていました。また、サスペンションはリーフ前後スプリング方式、ハシゴ型フレームに5本のクロスメンバーを装備した頑丈な構造でした。

発売時のセールスポイントは、他車に比べて30%広い、軽4輪で最大の荷台スペース、排気量360ccの空冷2ストローク2気筒エンジンによる最高出力21PSのパワー、当時珍しい4速MTとの組み合わせで、積載時の坂道、悪路でもスムーズな発進と走行ができることでした。

スズライトキャリイ
スズライトキャリイ

●4代目「キャリイ」は、ジウジアーロのデザイン

軽4輪トラックの需要増大に対応するため、他社からもマツダ「B360」やホンダ「T360」、ダイハツ「ハイゼット」にミニキャブ「三菱」と、次々にライバル車が出現。対抗するスズライトキャリイは、モデルチェンジを繰り返しながら存在感をアピールしていきました。

そして、1966(昭和41)年の3代目で車名からスズライトが消え、「キャリイ」に変わりました。

1969(昭和44)年登場の4代目「キャリイ」のキャッチコピーは、「韋駄天キャリイ」でした。当時一世を風靡していたイタリアン人デザイナーのジウジアーロが、デザインを担当したことで有名です。エンジンを最高出力21→25PSにパワーアップし、最高速度は75→95km/hへと向上しました。

ライトバンは、ヨーロッパ調の斬新な美しい台形フォルムでしたが、タテ型ドアハンドルであったことや、前後ウィンドウ傾斜が対称で後部の荷物容積が狭いなどの点が奇抜過ぎたのか、日本のユーザに受け入れられず、販売は低調でした。一方、トラックは機能性の高さから大ヒット。軽トラック市場の中で「キャリイ」の存在感がさらに増したのでした。

キャリイバン(ジウジアーロのデザイン)
キャリイバン(ジウジアーロのデザイン)
キャリイトラック
キャリイトラック

(文:Mr.ソラン 写真:ダイハツ、スズキ)

第13回に続く。


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この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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