■グラマラスなデザインとミニマム装備
乗れば軽量コンパクトなジクサー150ですが、そのルックスには150ccクラスのマシンとは思えないリッチなボリュームがあります。とりわけフロント側をぐっとふくらませてリア側をタイトに絞り込んだフューエルタンクと大胆に張り出したシュラウドの絶妙のデザインは、ジクサー150に一クラス上のどっしりした存在感とゆるぎない個性を与えています。
バイクのクオリティは、高機能の装備や最新デバイスを盛り込み、高価な素材を使えば目に見えて高まります。でもジクサー150にはとくに新奇な装備はなく、高価な新素材も使われてはいません。なのに、このマシンがライダーの所有欲を満たす豊かな質感を放っているのは、ほかでもなく一級品のデザイン力によるものといえるでしょう。
シンプルな構成の素朴なマシンでも、基本設計がよければデザインの力で走る楽しさや持つ喜びを十分表現できる。スズキのそんな姿勢が、小さなジクサー150を、世界中の若者から熱烈に支持される大人気マシンに育て上げたのかもしれませんね。
■フラット&ライトなエンジン
ジクサー150のエンジンは空冷4ストローク154cc単気筒。「SEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)」と呼ばれるエンジンですが、これは特別なデバイスや新機構によって作られたシステムではありません。燃焼効率と冷却効率を高め、フリクションロスを低減し、軽量化をはかりつつ高圧縮率のエンジンを作るという地道な努力を重ねて作られたベーシックな高品位パワーユニットなのです。
燃料供給にこそフューエルインジェクションを使っているものの、できるだけ電子制御を排して作られた小ぶりのエンジンは、その回り心地にも人間らしい温かみがあります。高性能よりも、ライダーの感覚に寄り添う「高感触」を大切にして作られたエンジンだと感じました。
エンジンは低速から高速までフラットに回ります。小排気量車ではトルクが細くなりがちな中低速域でも出力は十分で、スロットルを開ければどこからでもスッと自然に加速できます。ローギアでちょっと回転を上げてぽんとクラッチをあてれば、ふわりとフロントが浮き気味になるほど。扱いやすくて穏やかなのに、しっかり元気なエンジンです。
発進加速は軽快そのもので、速度が3速ギヤ域の半ばをすぎたあたりで、やすやすと一般道のスピードリミットに到達します。ジェントルな排気音やフラットな出力特性のおかげで、知らないうちにスピードが出てしまうタイプですね。
乗りやすくて快適ですが、うっかりスピード違反をしないよう、スピードメーターにはよく注意しましょう。
一般的な峠道を楽しむには十分なジクサー150のエンジンですが、急坂の登りだと、ときにはパワーに物足りなさを感じることも。でもそれは、効率的にエンジンを使うシュアな(確かな)走りにチャレンジする絶好の機会でもあります。
ジクサー150は、パワーが控えめだからこそ、安全なスピードレンジを保ちつつ、思うぞんぶん峠を堪能できるバイクだといえそうですね。
【スズキ ジクサー150主要諸元】
全長×全幅×全高:2020mm×800mm×1035mm
シート高:795mm
エンジン種類:空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒
総排気量:154cc
最高出力/最大トルク:14ps/1.4kgm
燃料タンク容量:12.0L
タイヤ(前・後):100/80-17・140/60-17
ブレーキ:前後油圧式シングルディスクブレーキ
メーカー希望小売価格:35万2千円(税込)
(文:村上菜つみ 写真:高橋克也)
【関連リンク】
ジクサー150 Official Site
https://www1.suzuki.co.jp/motor/lineup/gsx150rlm0/?page=top
村上菜つみさんがスズキ・ジクサー150で出かけたツーリング記事は、月刊誌「モトチャンプ」2020年8月号(7月6日発売)に掲載されています。