【第29回・2020年7月29日公開】
「SKYACTIV」技術の中核をなす「SKYACTIV-G(ガソリン)」と「SKYACTIV-D(ディーゼル)」は、ともに圧縮比14を実現して、世界のエンジン技術者に衝撃を与えました。
「SKYACTIV-G」はノッキングの発生を抑えて圧縮比を14まで上昇させ、熱効率を大幅に向上させました。
一方の「SKYACTIV-D」は、燃焼形態と低温始動性を改良することによって圧縮比を14まで低下させ、NOx(窒素酸化物)とPM(微小粒子状浮遊物・Particulate Matter)を同時に低減して、NOx触媒を使わずに現行の排ガス規制をクリアしました。
第8章 「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍
その2.驚異的な圧縮比14を実現した「SKYACTIV-G & D」
●究極のガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを目指して
ガソリンエンジンの熱効率を上げるには圧縮比を上げることが効果的です。ただし、圧縮比を上げるとノッキングしやすくなるため、圧縮比はノッキングしないギリギリの高い値に設定します。
2010年当時、圧縮比は12程度が限界でしたが、「SKYACTIV-G」は圧縮比14という驚異的な高圧縮比を実現しました。
このエンジンは、2011(平成23)年発売のデミオに搭載され、その後順次発売モデルに展開されています。
一方、ディーゼルエンジンの課題であるNOxとPMを低減するには圧縮比を下げることが効果的です。しかし圧縮比を下げ過ぎると、低温時の圧縮温度が上がらず始動性が悪化するため、容易に圧縮比は低下できません。
「SKYACTIV-D」は低温始動の課題を解決して、一般的な圧縮比17~18を14まで下げることに成功しました。
このエンジンは、2012(平成24)年発売のCX-5、アテンザに搭載されました。
●「SKYACTIV-G」の技術
ガソリンエンジンでは、圧縮比を上げると圧縮上死点の混合気温度が上昇してノッキングが発生しやすくなるため、圧縮比を上げるには限界があります。
「SKYACTIV-G」では圧縮比14.0を実現するため、次のようなノッキングを抑える燃焼技術を採用しました。
1.直噴(筒内直接噴射)システムによるガソリンの気化促進
シリンダー内に直接ガソリンを噴射すると、ガソリンの気化潜熱によってシリンダー内温度が低下するため、ノッキングが発生しづらくなります。また、ガソリンがより気化しやすいように、6噴口の噴射弁で噴射を2回に分ける分割噴射を採用。
2.半球形燃焼室による燃焼期間の短縮
ピストン頂面に半球形のキャビティ燃焼室を形成することによって、燃焼期間を短縮。
3.クールドEGRによる燃焼温度の低減
EGR(排気ガス循環)システムの吸気系に戻される排ガスを冷却することによって、混合気の温度を低減。
4.4-2-1排気マニホールドによる排気ガスの吸出し効果を促進
排気ガスの気筒間干渉を避けることで、シリンダー内に留まる燃焼ガス(残留ガス)を減らして混合気の温度を低減。
その他にも、可変バルブタイミングの採用によるポンピング損失の低減、ピストンやクランクなどの徹底した軽量化によって燃費の向上を図り、従来エンジンに対して燃費とトルクを15%向上させることに成功しました。
●「SKYACTIV-D」の技術
ディーゼルエンジンには、ガソリンよりも熱効率が高く、燃費が良いという大きなメリットがあります。
一方で最大の課題は排ガスのNOxとPMの低減が難しいことです。
これを解決するため、「SKYACTIV-D」は当時一般的であったディーゼルエンジンの圧縮圧17.0~18.0を14.0まで下げました。圧縮比を14.0まで下げることによって着火遅れが長期化して軽油の噴霧と空気の混合が促進され、さらに燃焼温度も下がるため、NOxとPMの発生を同時に低減させることができました。
これにより、排ガス低減に不可欠なNOx後処理装置(触媒)を使わず、排ガス規制をクリアすることができたのです。
圧縮比低減による低温始動性の悪化については、次のような方法で解決しました。
1.10噴口のマルチホールインジェクタを使い、複数回に分けて噴射する分割噴射によって、軽油の噴霧の気化と混合を促進。
2.VVT(可変バルブタイミング)機構を採用して、吸気行程中に排気バルブを少しだけ開いて排気ガスをシリンダー内に逆流させて、混合気の温度を上昇させて着火性を改善。
圧縮比を下げると最大シリンダー圧が下がるので、摺動部品の強度低減や軽量化も可能になってフリクションが下がり、燃費は20%向上しました。
(Mr.ソラン)
第30回につづく。
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