車体系試験の概説:ブレーキ性能や衝突安全性、騒音など安全性や快適性に関わる試験【自動車用語辞典:車体系の試験編】

■法規に準じた安全性に関わる試験と、開発時に行う実用性や商品性に関わる試験

●路上での実車試験や現地試験を模擬した試験とシミュレーションを組み合わせて評価

ブレーキ性能や衝突安全性、騒音試験、環境適応試験などは、車両の安全性や快適性に関わる試験です。環境対応の燃費や電動化が注目される中、安全性や快適性はクルマの差別化や商品力向上につながる重要な技術です。

車体に関わる各種の試験法について、解説していきます。

●ブレーキ性能試験とは

ブレーキシステムは、クルマの高性能化とともに、また自動運転との連携のために急速に進化しています。
ブレーキ試験には単体試験や台上試験もありますが、ブレーキ停止距離試験やブレーキ効力試験、ブレーキフェード試験などが代表的な実車の試験です。

ブレーキ性能は、路面状況(温度や摩擦係数など)やブレーキシステムの状態などによって大きく影響されるので、試験の際には試験条件を管理する必要があります。

ブレーキ停止距離試験
ブレーキ停止距離試験

●実車衝突試験とは

衝突安全性の評価は、法規とNCAPに基づいて行われます。NCAPとは、新しく発売されたクルマを衝突させて、乗員の安全性を評価する新車アセスメントプログラムです。行われる衝突試験は、市場で起こるさまざまな衝突事故の形態を模擬しています。

衝突試験による評価結果は、そのクルマがいかに衝突事故に対して安全かを示す指標であり、クルマの商品力や価値を大きく高めます。

衝突試験の一例
衝突試験の一例

●車外騒音試験とは

車外騒音試験は、2016年に世界基準の試験法に変更されました。従来の定常走行騒音と近接排気騒音の規制は廃止され、加速騒音規制のみになりましたが、規制レベルは非常に厳しくなっています。

クルマの騒音の主要な音源はエンジンであり、その寄与度も最も大きいですが、今後の規制計画では2024年にはエンジンのないEVであってもクリアできないほど、厳しい基準になる予定です。

今後も、パワートレインに加えて、クルマ全体の騒音低減技術の開発が要求されます。

●風洞試験

クルマの燃費には、軽量化とともに空力特性が重要な役割を果たします。空力特性は、車体の形状以外にもエンジンルーム構造や床下構造などにも影響されるため、車体周りの細部にわたる流れの解析が重要です。

風洞試験は、室内に空気の流れを作りクルマの周りの流れを観察(可視化)、また表面の風速分布や圧力分布を解析して、空力性能を向上させる試験です。

風洞試験設備
風洞試験設備

●環境適応試験

クルマには、世界中のどのような地域の、どのような気象条件下であろうと、思いどおり快適な運転ができることが求められます。そのため、現地試験の代わりに気温や湿度、高度による気圧差などの環境条件を精度良く再現する環境適応試験設備を利用した環境対応試験が行われます。

代表的な環境適応試験は、高温試験と低温試験、低圧試験です。

環境適応試験設備による試験は、現地での実車試験に比べて再現性が高い、条件設定が容易、データの取得と解析が容易という大きなメリットがあり、開発効率の向上とコスト低減に大きく貢献しています。

●ドライビングシミュレータ

ドライビングシミュレータは、さまざまな道路状況や運転条件下でクルマがどのような挙動をしながら走行するのか、またドライバーが走行中にどのような反応をしながら運転をするのかをシミュレートする設備です。

路上やテストコースではできる試験に限界があるので、運転支援技術や自動運転技術の開発にドライビングシミュレータは不可欠です。

ドライビングシミュレータの構成
ドライビングシミュレータの構成

車体に関わる試験は、路上での実車試験や現地試験が必要な場合が多く、安全面や再現性の課題があり、また膨大な試験工数と時間を要します。そのため、模擬的な試験とシミュレーション技術を組み合わせた開発が積極的に行われています。

本章では、車体に関わる多くの試験方法の中から代表的な試験について、詳細に紹介します。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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