■前後軸重はフロント960kg・リア600kg。重心高は約15mm低められた
ついに日本で販売された新型アコードに公道で試乗することができました。
グローバルには様々な仕様のあるアコードですが、日本仕様は最大熱効率40%以上という量産最高レベルの2.0Lガソリンエンジンに「e:HEV」と名付けられた2モーター式ハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインを搭載するセダンとなっています。
Dセグメントのミドル級セダンながら、WLTCモード22.8km/Lという優れた燃費性能を誇る新型アコードですから、どうしてもエコカー的なキャラクターが色濃いと感じてしまうかもしれません。
かつてのアコードが持っていたスポーティなイメージを求めるファンの中には、アメリカ仕様などに用意されている2.0Lターボエンジンの搭載グレードがあれば! と考える人もいるかもしれません。
しかし、スポーティなアコードが欲しいからハイブリッドを否定するというのは間違っているといえる面もあります。開発責任者を務めた宮原哲也LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)によれば、「日本で販売しているハイブリッド仕様は、新型アコードの中でもっともバランスのよいハンドリングを実現しているのです」といいます。
さらにその理由を「前後重量配分がFFのハンドリングにおける理想ともいえる60:40にしたことにある」というのです。実際、車検証記載の軸重を確認してみると前960kg・後600kgでした。おおよそ60:40になっているのは間違いありません。
今回のアコードは、クルマの基本骨格といえるプラットフォームを一新されています。併せて従来モデルではトランクルームに置かれていたハイブリッド用バッテリーなどの重量物を後席下に移したことで重心を15mmも下げています。車両重量は約50kg軽くしています。
細かいスペックになりますが、ロール慣性モーメントを7.2%低減、ヨー慣性モーメントは1.7%低減したともアピールしています。ミドル級セダンでハイブリッド専用車というプロフィールからは縁遠く感じられるハンドリングにこだわって開発されたモデルなのです。
その走りを高速道路を中心に走らせ宮原LPLが語ったようなスポーティセダンであるのかどうか体感してきました。それは予想以上に驚くくらい攻めた素性を感じさせるものでした。
このクラスのセダンとなると落ち着いた挙動を最優先するものですが、アコードは直進時にもE型マルチリンクのリアサスペンションが、しっかりと働いていることがドライバーに伝わってきます。ちょっとした動きにも反応して踏ん張ろうとしてくれるのです。
そうした印象は400~500R程度の高速コーナーになるといっそう強まります。確実にリアタイヤが路面を捉えるようグリップしてくれ、ピタッとラインをトレースすることができます。
新型アコードにはスポーツ/ノーマル/コンフォートから選べるドライビングモードがあり、可変ダンパーによるサスペンションやパワートレインのキャラクターを変えることができますが、ハンドリングにおけるオン・ザ・レール感は、どのモードを選んでいても感じることができます。ダンパーを引き締めて演出しているのではなく、クルマの素性としてハンドリングセダンに仕上がっているといえます。
高速スタビリティは高いけれど、街乗りになるとからっきしということもありません。新世代プラットフォームのおかげで小回りも効くようになっています(最小回転半径は従来モデルより0.2m小さい5.7m)。
パッケージングの妙なのか、ボディの四隅位置が手に取るように感じられ、狭い住宅街でも不安になることはありません。ドアミラーにピシッとしたキャラクターラインが映っていることも、そうしたサイズを把握するのに役立っているといえそうです。
さらに前述したドライビングモードでスポーツを選ぶと、加減速がキビキビとなりますから、市街地走行では思い通りに速度を合わせることができますし、このボディサイズとは思えないほどリニアに加速しますから、ストレスは感じません。一方、高速道路ではコンフォートモードを選べば、路面のざらつきさえもマイルドにしてくれるほど快適性に寄与します。タイヤの世代が少々古いようでトレッドゴム由来のノイズが残っているのを除けば、ほとんどノイズも感じません。
おそらく市場がイメージしているよりも、新型アコードはずっとずっとスポーティで、一体感のある走りが楽しめるセダンに仕上がっているのです。
それでいて、「e:HEV」ハイブリッドに期待する燃費性能も抜群です。市街地を中心に150kmほど走ったときの燃費表示は21.9km/L、高速道路メインで400kmほど走った際の燃費表示は22.8km/Lとなっていました。
当然、エアコンを使っていますし、けっして大人しく走ったわけではなく、それでもWLTCモードに近い燃費を出せるというのは驚かされます。しかも、アコードはレギュラーガソリン仕様なのですから経済性という点でも優秀なモデルといえるわけです。
走りが楽しめて、経済性にも優れるとなれば文句なしでしょう。トランク容量は573Lもあって、さらに後席を倒したトランクスルーも可能ですから積載性能もかなり優秀です。465万円という価格はけっして身近とはいえないでしょうが、おそらく多くの人が想像している以上にオールマイティに使えるクルマに仕上がっています。
それにしても、高速道路をいっきに400kmも走るような使い方をすると、セダンというスタイルのメリットを感じます。ミニバンやSUVに比べると空気抵抗の少ないボディ形状は高速域でもスーッと走りますし、着座位置が低く(しかも新型アコードは従来比25mm下げている)、包まれ感のあるコクピットはスピードを感じないもの。
新東名の120km/h区間で制限速度いっぱいの巡行をしてみましたが、まったく飛ばしているという緊張感もなく、しごく落ち着いているものでした。
というわけで、実際の燃費性能も優秀な新型アコードですが、けっして燃費を狙ったパワートレインではないというから驚きます。アコードの採用する「e:HEV」は、基本的にエンジンで発電してモーターで駆動するという構造で、バッテリーに十分に電力が溜まっているときはエンジンを止めてEV走行することもありますし、高速道路などではエンジンとタイヤをダイレクトにつないで駆動するモードも持っています。
つまり、エンジンは動いたり止まったりしていますし、モーター駆動とエンジン駆動が頻繫に切り替わります。しかし、その切り替えはまずわからないレベルに仕上がっています。たしかにメーター表示を見ていれば、いまエンジンダイレクト駆動だな、いまはEV走行中だなといった状態は把握できますが、ドライバーに違和感を覚えさせるようなことはありません。
じつは、こうした自然なフィーリングを優先してパワートレインを仕上げているのだといいます。違和感バリバリでエネルギー効率最優先にすれば、もしかしたらもっと燃費を向上させることができるのかもしれませんが、そうせずにドライビングの楽しさにプライオリティを置いたことで、新型アコードの気持ちよい走りにつながっているのです。
(山本晋也)