フィアット パンダが40年間750万台も愛され続けたワケとは? 初代〜3代目最新パンダコンフォートまで歴史を深堀りする

■初代から現在の3代目まで750万台ものパンダが作られた!

ポルセリのバレエシューズをご存じでしょうか。そのイタリア製のバレエシューズは、お洒落で普段づかいが出来てとにかく丈夫。ガシガシ毎日履けて、しかも飽きがこない。たとえばそんなポルセリのバレエシューズみたいに、ぴったり自分の足にフィットするから毎日ずっと一緒にいたくなる。そんなクルマがいまから40年前にイタリアで誕生しました。

それがフィアット・パンダなのです。

初代フィアット パンダ フロントイメージ
初代フィアット パンダ

「La grande utilitaria(偉大なる小型車)」というキャッチコピーを与えられたコンパクトでシンプルなベーシックカー「パンダ」は、たちまちイタリアのベストセラーに。初代から現在の3代目まで、なんと750万台ものパンダが作られてきました。

初代フィアット パンダ スチールイメージ
1980年3月5日のジュネーブ・ショーでデビューした初代フィアット パンダは、小型車のアイコンとして累計750万台超が生産されてきました。

イタリアでは、今日もそこかしこでパンダ、パンダ、パンダ。
彼も彼女もお母さんもお爺ちゃんもパンダ、パンダ、パンダ。
コロコロと走り回るその姿を見ない日はありません。
さしづめ愛されグルマのアイコン。そんなパンダの歴史を振り返ってみましょう。

■ジウジアーロが描いたベーシックカーのカタチ

1980年2月29日、当時のフィアット会長ジャンニ・アニェッリはイタリア共和国第7代大統領サンドロ・ペルティーニに披露した1台の車両。それがパンダでした。ボクシーなそのカタチと小さなボディの中に広がる想定外の大きなスペースに大統領は大変驚いたとか。それから数日後の3月5日、ジュネーブ・ショーで初代「パンダ」は世界に向けて公式にお披露目されたのです。

初代フィアット パンダ フロントイメージ
カーデザイン界の巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた潔いほどにシンプルな初代パンダの造形。全長たったの3.38mという小さなボディに広大なキャビンを包み込んでいました。

もともと「ゼロ」というコードネームのもとで開発されてきたパンダは、コンセプト立案の段階からイタリアデザイン界のマエストロ、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタル・デザインが関わっていました。全長3.38mのコンパクトな3ドアは、最低限のコストで最大限の機能を生み出すべく、極力曲面を廃した真四角なボディを採用。フロントウインドーに至るまですべて平面ガラスを使う徹底ぶり。ボディをぐるり囲んだ大きなバンパーも耐久性、整備性の点で文句なし。

初代フィアット パンダ フロントイメージ
初代フィアット パンダ

5人が乗れる広々とした車内を満たしているのは合理性。パイプの上に布地を張ったハンモックタイプのシートは簡素だけどひとたび座れば深々、ふっかりと優しく身体を包み込みます。しかも、ジッパーひとつで取り外しができるウォッシャブルタイプ。ベンチタイプのリアシートは、7段階で角度を調整することもできました。

初代フィアット パンダ フェイシアイメージ
ひとつの箱の中に計器類やエアコンの調整レバーなどを集約したクラスターは、いかにも欧州らしいプロダクトデザインの粋を感じさせます。

メーターパネルとライトスイッチ類、エアコンの温度調整レバーをひとつの箱にまとめたようなユニークで機能的なインストルメントパネルも、イタリアンデザインらしさ満点。ダッシュボード下にはパッドに包まれた円筒が設置されていて、そこに据えられた灰皿を自在に動かせるなんて遊び心も。

■小型SUVのパイオニア

誕生当初、初代パンダは2種類のエンジンを用意していました。小さなエンジンは、1957年にデビューした500(チンクェチェント)に積まれていたユニットの発展型。652ccの空冷2気筒は30馬力を発揮しました。もうひとつ、127から流用した903ccの4気筒エンジンは45馬力。まるで“鉄板グリル”みたいなフロントグリルの(進行方向)左にスリットと冷却用ラジエータを配置したのが「45」、右側にスリットがあるのが「30」の証でした。

初代フィアット パンダ フロントイメージ
初代パンダ、45馬力のパンダ45は進行方向左側に冷却用スリットが入ったフロントグリルが特徴。30では逆になる。

フロントには独立懸架式のマクファーソンストラットとディスクブレーキを、リアサスペンションはリーフリジッド式で油圧ダンパーとドラムブレーキを組み合わせています。

4速のマニュアルトランスミッションをコキコキ操りながら楽しく走るパンダは、車両重量700kgを切る軽さも自慢。2気筒の「30」は最高速度115km/h、「45」は140km/hに達する足自慢でもありました。しかも、燃費も優秀。時速90km/hで走った場合「30」は19km/L、「45」は17km/L以上走ることができたそうです。

初代フィアット パンダ エレクトリックイメージ
初代パンダには「Elettra」と呼ばれるEVモデルも登場。後席を取り除いてバッテリーを搭載したため2座仕様でした。

デビューから3年で、多彩なバリエーションを展開したパンダ。装備が充実したスーパーは5速MTを搭載。ルーフ前後に2箇所の開口部を設けてそれぞれにキャンバストップを載せた開放的なモデルや、オーストリアのシュタイア・プフ社との共同開発による4×4モデルも登場しました。コンパクトで軽量なオフロード仕様のパンダは、昨今流行の小型SUVをおよそ40年も前に先取りしていたんですね。

初代フィアット パンダ 4×4フロントイメージ
初代パンダの4×4モデル。コンパクトで軽量なオフローダーはエンスージアストやアウトドア好きを中心に人気を集めました。

■初代は20年以上も作られた大健闘モデル

1986年にマイナーチェンジを実施した初代パンダ。鉄板グリルを樹脂製に変更、リアサスペンションをリーフリジッドからトーションビーム式へと進化させるとともに、三角窓も姿を消しました。以降、当初のモデルを「セリエ1(シリーズ1)」、改良型を「セリエ2(シリーズ2)」と呼ぶようになります。

ちなみに初代パンダは2003年に2代目が登場するまで、じつに20年以上にわたって生産されました。最近のモデルサイクルは大体7〜8年ですから、どれほど長く人々に愛され続けたかがよくわかります。

初代フィアット パンダ リヤビュー
誕生から20年以上も生産を続けた初代パンダ。いまもイタリアの街中では本当によく見かける「人々の相棒」です。

この記事の著者

三代やよい 近影

三代やよい

自動車メーカー勤務後、編集・ライティング業に転身。メカ好きが高じて、クルマ、オートバイ、ロボット、船、航空機、鉄道などのライティングを生業に。乗り継いできた愛車は9割MT。ホットハッチとライトウェイトオープンスポーツに惹かれる体質。
生来の歴女ゆえ、名車のヒストリーを掘り起こすのが個人的趣味。
続きを見る
閉じる