「三密」防止にもなる? 普段使いもできる軽自動車の福祉車両たち

■軽ハイトワゴン系を中心に多様な装備を備えた福祉車両

終わりが見えない新型コロナウイルス禍が続く中、家族に足腰が弱い高齢者や身体が不自由な障がい者がいる家庭にとっては、移動手段も悩みのタネでしょう。

病院の送迎や日常の移動などにバスや電車といった公共交通機関や、福祉施設の送迎車両などを使うことは、他者との接触の機会が増えコロナ感染の危険性が増えるからです。

一方で、自家用のクルマなどを使うことは、それら多数の人々を運ぶ移動手段に比べると、「三密」のリスクは少ないとも言われます。

特に、最近は低価格で手に入りやすい軽自動車にも、福祉車両の設定車種が増えたり、装備が充実していて、高齢者や障がい者の移動手段の選択肢が増えているのです。

福祉車両
軽自動車にも、高齢者や障がい者の乗り降りを楽にする福祉車両の設定が増えている

●回転シートタイプとスロープ式がある

軽自動車の福祉車両は、主に室内が広く、天井が高い軽ハイトワゴン系や、ワンボックス系のクルマに設定されています。

また、タイプには大きく分けて次の3つがあります。

1:助手席や後席のシートが回転して乗り降りをサポートするタイプ
2:足を乗せるステップやつかまるためのグリップなどが付いた送迎タイプ
3:車いすを車両に積むためのスロープがあるタイプ

さらに、1の回転シート式には、電動で動くタイプと手動で動かすタイプが存在します。

日産が2020年2月に発売した軽トールワゴンのルークスには、日産傘下のカスタマイズメーカーAUTECH(オーテック)が製作する福祉車両ブランド「ライフケアビークル(LV)」のコンプリートカーとして、1と2のタイプが設定されています。

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日産・ルークス 助手席スライドアップシート

「助手席スライドアップシート」装着車は、助手席が電動で車外方向に回転した後、車外にせり出しながら下降する仕様です。足腰が弱い人や車いすを使う方が乗り降りしやすい位置まで座席が下がることで、スムーズな着座や降車を実現します。

こういったタイプは、ほかにもダイハツ・タントの「ウェルカムシートリフト」、スズキ・ワゴンRの「昇降シート車」などがあります。

ホンダN-WGNには、手動で助手席を回転できる「助手席回転シート車」を設定。このタイプは介助者などが助手席にある操作レバーでロックを解除してシートを手動で回転させる方式です。

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ホンダN-WGN 助手席回転シート車

高齢者や障がい者が乗車後は、シートを元の位置に同じく手動で回転させ、レバーをロックすれば完了。シートには折りたたみ式のフットプレートなども装備されているため、足が乗せやすい仕様になっています。

同様の仕様にはダイハツ・タントの「ウェルカムターンシート」などがあります。

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ダイハツ・タント ウェルカムターンシート

●歩行できる人には送迎タイプ

前述の日産ルークスには、送迎タイプも設定されています。

これは歩行は可能でも足腰が弱く、クルマに乗り込む際に足を上げたりするのに苦労する高齢者などに向けた仕様です。

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日産ルークス 送迎タイプ

助手席と後席スライドドア間のピラーに、乗降時や走行時につかまりやすいグリップを装備。

福祉車両
ルークスの送迎タイプには大型グリップを装備

また、地面と車内との段差を少なくするオートステップもオプションで用意しています。

福祉車両
ルークス送迎タイプのオプション、電動ステップ

ちなみに、こういった乗車をサポートする装備は、ダイハツが2019年から日産に先駆けて販売しています。

2019年のタントのモデルチェンジ時に、オプションとして、助手席に乗る場合はAピラー、後席に乗る場合には前席に装着できるラクスマグリップを設定。

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タントのオプション、ラクスマグリップ

また、助手席ドアと助手席側スライドドアに連動して電動で出し入れできるミラクルオートステップなども用意しています。

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福祉車両でなくても、後付けで装備できるミラクルオートステップ

●車いすのまま乗れるスロープタイプ

軽自動車の福祉車両でも、特に車いすを使う人の乗り降りに便利なのがスロープタイプです。

これは車いすに座ったまま後席部分に乗せることのできるタイプで、後ろのハッチバックを開けてスロープを引き出し、介護者が車いすをスロープにそって押しあげ、車内へ乗せるといった仕様です。

こういったタイプには、車体後部に車いすを引っ張る電動ウインチを装備するクルマも多く、力をさほど必要としなくても車いすごと車内に入れることが可能です。

降車時もウインチを使うことで、介助者が踏んばらなくても、ゆっくりとスロープから車いすと共に降ろすことができます。

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スズキ・スペーシア 車いす移動車

こういったタイプには、スーパーハイトワゴンやハイルーフのワンボックスなどに多く設定されています。車いすで乗る人の頭上に空間が必要なため、ルーフが高い車両がいいためです。

たとえばスズキ・スペーシア「車いす移動車」やダイハツ・タント「タントスローパー」、ホンダ・N-BOX「車いす仕様車」などがあります。

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ダイハツ・タントのスロープ仕様、タントスローパー

また、ワンボックス系ではスズキ・エブリイやエブリイワゴンの「車いす移動車」、ダイハツ・アトレーの「アトレースローパー」などがあります。

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スズキ・エブリイワゴン 車いす移動車

このように、最近の軽自動車は、福祉車両の装備もかなり充実しています。しかも価格は100万円台で購入できるものも多く、リーズナブルといえます。

ちなみに福祉車両は「車いすと車いすの方を載せられる自動車」「体の不自由な方が運転できる自動車」といった要件を満たせば、購入時に消費税が非課税。

また、毎年支払う自動車税が減免されるほか、購入資金の貸与など各種の助成制度が利用できます。

ご家族に高齢者や障がいがある方がいる方は、ぜひ参考にしてみて下さい。

(文:平塚直樹/写真:日産自動車、本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ)

この記事の著者

平塚 直樹 近影

平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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