■FRに戻ったキャデラック。もはやかつてのFF系とは大きく異なる
現在のキャデラックのラインアップのなかでもっとも上級なセダンとなるのが、今回試乗したCT6です。
CT6の前身となるモデルをたどるとDTS、ドゥビルとなります。ドゥビルは1959年に初代モデルが発売されていて、5代目まではFR、1985年に登場した6代目から8代目までがFF、後継車のDTSもFFでした。
アメリカントップブランドらしくエンジンはV8を採用していましたが、大きく重いV8エンジンとFFの駆動方式はあまりに相性が悪く、キャデラックの評判は低くなりました。
そうしたなか、ふたたびFR化で息を吹き返したのがCT6です。CT6の登場は2015年ですが、2019年に大幅なマイナーチェンジを受けています。
トップグレードにはV8エンジンが用意されるのですが、日本に導入される「プラチナム」というグレードは3.6リットルのV6エンジンを搭載します。驚くべきことはベーシックグレードには2リットルの直4エンジンも用意されることです。アメリカの豪華主義「ムダの美学」のなかで歴史を刻んだキャデラックも新しい時代を迎えているといえます。
搭載される3.6リットルエンジンは386Nm、340馬力という強大なスペックを持ちます。組み合わされるミッションは10速のATです。基本はFRのCT6ですが、日本仕様のプラチナムは4WDモデルとなります。
発進からその安定感は抜群で、へんなクセのあるような動きは一切せず、素直にスッと前に出ていきます。アクセルを踏み込んでいったときの加速感は非常にスムーズ。さすが10速という多段ATだけあって段差感などは一切なく、高級感を伴った快適さを感じることができます。
CT6の最大の魅力はその乗り味にあるといえるでしょう。かつてのアメリカ車は、とにかく柔らかいサスペンションがウリで、どんな段差があってもそれをブワンブワンと乗り越えていくものでしたが、今のCT6は違います。まるでヨーロッパ車のフルサイズセダンのようにフラットライドでサスペンションはしっかりと動くタイプのものです。
タイヤの接地感が失われることはなく、手応えも確実にあります。かつてのFFモデルではなしえなかった乗り味がそこにはあります。
約2トンにもなるボディですが、それでもアルミ含有率をアップしていて従来よりも100kgも軽いボディを実現しています。さすがに俊敏とまではいきませんが、かつてのアメリカ車のような鈍重な動きはそこにはなく、欧州車的な動きを示します。
コーナリングにしても、ロールのし始めは早いものの、その後はスッと収まってピシッと安定したコーナリングを披露します。5mを大きく超える全長と1.9mに迫る全幅は、日本での使い勝手にはそれなりの制限を与えますが、メルセデスにはない独特の風格を味わえる貴重な存在のクルマです。
(文・写真/諸星陽一)