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■ヴィッツのイメージを払拭!劇的に進化したヤリスの走り
●プラットフォームからパワートレーンまで一新
トヨタから新型「ヤリス」が発売されました。この車名、聞き慣れない方もいらっしゃるでしょう。実は、従来の「ヴィッツ」の後継モデルとなります。海外では初代から「ヤリス」の名前で販売されており、今回のモデルチェンジで日本もグローバルに合わせることとなりました。
そこには2つの狙いがあると思います。ひとつは、クルマ作りがドラスティックに変わったことをアピールするため。「老若男女に向けた実用的なコンパクトカー」という立ち位置は変わりませんが、ヤリスはプラットフォームからパワートレーンに至るまで一新し、世界のあらゆる道で鍛えられた軽快な走りが自慢です。つまり、単に実用的なだけでなく、「走りの良さ」も備わった新型ヤリスは、従来のヴィッツのイメージを払拭させるほど進化しています。
そしてふたつ目。トヨタは2017年から世界ラリー選手権(WRC)に「ヤリスWRC」で参戦しており、すでにタイトルを獲得するなど活躍しています。そして今年、WRCが日本で開催されます! (11/19〜22、ラリー・ジャパン開催予定ですが、コロナウィルスの影響が出ないか、現時点では不安要素もありますが。) その機会を捉え、ヤリスのスポーツイメージを日本にも浸透させたいという狙いもあるのでしょう。もっとも、こちらに関しては、トヨタのスポーツブランド「GR」が担い、本格的スポーツモデル「GRヤリス」として夏以降、発売されます。
●理想的なドライビングポジションは安全運転にも繋がる
さて、前置きが長くなりましたが、新型ヤリスはそのエクステリアデザインも従来とは全く異なる雰囲気です。自己主張が強く、ちょっと小生意気そうなフロントマスク、張り出し感のあるリヤフェンダー、そして全高が低く抑えられ、見るからに元気に走りそうなハッチバックスタイル。
運転席に座ってまず実感したのは、「ドライバー優先」で作られているということ。コンパクトカーは室内空間が限られるため、先代のヴィッツのように、ドライビングポジションをアップライトにして室内空間を稼ぐクルマもありますが、ヤリスは理想的なポジションが取りやすい。ドライバーが安心、快適に運転できることが安全運転につながるので、大事なことです。
●思い通りにクルマが動くから気持ち良い!
その印象は、走り出してからも変わりません。日常シーンにおいて通常のテンションでクルマを運転していて、「楽しい!」とはならないですよね。スポーツカーに乗るクルマ好きは別として。でも、「気持ち良い」という感覚は抱くのではないでしょうか。ヤリスがまさにそう。
では、その感覚はどこから来るのか? たとえば、直進時にはしっかりした手応えがありながら、切り込むと軽い操舵力でスッとフリクションがなくスムースに動くステアリングフィール。アクセルペダルを踏むとストレスなくスルスルと動き出し、その先も踏んだ分だけ加速していくリニアさ。ブレーキペダルは剛性感があり、踏んだ瞬間、足の裏から安心感が伝わってくる感じ。もちろん、効きも文句なし。と、ドライバーのあらゆる操作に対して、その感覚に寄り添いながら、思い通りにクルマが動いてくれるので、それが「気持ち良さ」に繋がっているのです。
●新しいCVTが走りの質を圧倒的に向上させる
ガソリンモデルはZグレードに試乗しましたが、新型ヤリスは新開発の直列3気筒1.5lエンジンを搭載しています。「えっ、3気筒なの?」となりますよね。やっぱり最初はスペックから勝手な先入観持っちゃうから。でも、乗ってみるとこれが3気筒とは思えない滑らかさとサウンドなんです。何より、嫌な振動がないのが質感を感じさせます。いや、厳密に言えば、ちょっとはあります。音や振動が発生する領域。でも、ずっと続くわけじゃなくて過渡的なものだし、日常、クルマ運転する時って、同乗者と話したり、音楽聴いたりして、エンジン音に聞き耳立てているわけじゃないから、そういう意味ではまったく気にならないと思います。
そして、走りの質を圧倒的に向上させたもう一人の立役者がCVT。ヴィッツは、アクセル踏んでもエンジン音だけ上がってうるさいし加速はついてこない、ダイレクト感がない、という印象でしたが、そんな悪印象がすべて改善され、貢献度はかなり高い! ドライバビリティが悪くても燃費を取る、という考え方から、走りも燃費も良く、と新開発のドライブトレーンは見事に両立しています。
●スムースさを増したハイブリッドモデル
一方、「HYBRID G」にも試乗しましたが、こちらも好印象。モーター走行からエンジンがかかった際のつながりがスムースになっています。ガソリン車含め、エコドライブモード、パワーモードを備え、登坂ではパワーモードにするとストレスなく頼もしいパワーフィールが味わえます。
重量差などありますが、基本的には、ガリソン、ハイブリッドともに同じ乗り味を狙っています。軽快なフットワークで、ワインディングでもハンドリングを楽しめます。「スポーティにも走れる」けれど、あくまで「万人に受け入れられるコンパクトカー」でなくてはならないので、サスペンションチューニングの落とし所は難しかったと思いますが、乗り心地も良いし、バランスされてますね。
●乗れば驚かされるヴィッツからの驚愕進化
ヴィッツからヤリスのドラスティックな変貌はホントでした。モノの好みや良し悪しって、基本、自分の体験、体感した中での尺度しかなくて、それを超越したモノに出合った時、価値観や世界観が変わりますよね。たとえば上質な素材、フィットするデザインの洋服に出合えた時。より鮮度の高い素材で優れたシェフの美味しい料理を食べた時、etc.etc…
クルマも一緒。たとえばトヨタ車をずっと乗り継いでいる人、ヴィッツに乗ってきた人でさえも新型ヤリスに乗ったら、「今までと違う。」と新鮮で上質なドライブフィールを体験することができるでしょう。
「トヨタ ヤリス HYBRID G」諸元表
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1060kg
エンジン
・種類:直列3気筒
・総排気量:1490cc
・最高出力:91ps(67kW)/5500rpm
・最大トルク:120Nm(12.2kgm)/3800-4800rpm
モーター
・最高出力:80ps(59kW)
・最大トルク:141Nm(14.4kgm)
駆動用バッテリー
・容量:4.3Ah
駆動方式:FF
トランスミッション:電気式無段変速機
燃費:35.9km/L(WLTCモード)
価格:213万円
「トヨタ ヤリス Z」諸元表
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1020kg
エンジン
・種類:直列3気筒
・総排気量:1490cc
・最高出力:120ps(88kW)/6600rpm
・最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4800-5200rpm
駆動方式:FF
トランスミッション:ギヤ機構付きCVT
燃費:21.6km/L(WLTCモード)
価格:192万6000円
佐藤久実:モータージャーナリスト。全日本GT選手権やスーパー耐久、ニュルブルクリンク24時間レースなど国内外のレースに参戦経験を持つレーシングドライバーとして、そして女性ドライバーとしてと、様々な観点からクルマを批評する。
(写真:奥隅圭之、文:佐藤久実)
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