ハンドリングの気持ち良さは旧型(ヴィッツ)とは比べものにならない!(諸星陽一)【トヨタ・ヤリス試乗】

■ヴィッツ改めヤリスは、キリッと引き締まった走りに大変身!

●駐車場で動かしただけで「いいクルマ」なのを実感できる

国内仕様としてはヴィッツからヤリスというネーミングに変わって、最初のモデルが今回の新型ヤリスです。初代ヴィッツからの歴史で考えると、4代目となります。ヴィッツの前のトヨタのこのクラスには、スターレットというモデルが存在、スターレットは1973年~1999年まで5世代の歴史を刻んできています。なんで、そんな古い話を引っ張り出してくるのかといえば、スターレットの誕生には今回のヤリスに通じる大きな共通点があるからなのです。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gのフロントビュー
トヨタ・ヤリス HYBRID Gのフロントビュー

スターレットは当時存在したパブリカというクルマのスポーツバージョンとして登場しました。2代目はコンパクトFRとして人気を博したKP61、3代目からはFF化されたもののターボエンジンモデルをラインアップし、スポーティさを売りにしていました。ヴィッツに変わってからはRSなどのスポーティモデルを用意はしたものの、どちらかというとおとなしめイメージを前面に押し出したファミリーカーとしての地位を築き上げました。とはいえ、3代目からはスポーツ色を強めたGRMNも登場、海外ではヤリスがWRCに参戦するなど新型ヤリスの立ち位置に近づいて行きます。

正直、ヴィッツ時代には走りについて何の期待もしなかったクルマです。新しいヴィッツが出ても、ファミリーカーやコンパクトカーとしての性能には大きな期待を持ったとしても、走りには…でした。ところが、ヤリスになった新型に乗ってみると、これがちょっと違った。走りがキリッと引き締まったものとなっていたのです。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gの走り
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの走り

いいクルマ、走るクルマは、ちょっと動かしただけでその片鱗を感じさせるものです。ヤリスはまさにそのタイプのクルマでした。箱根ターンパイクの駐車場でクルマを動かした瞬間、動きにムダのないことを感じます。これは何も不思議なことではなく、クルマのサスペンションやメンバー、ボディ構造などにあるちょっとしたゆるさは、速度が低いほうがよくわかり、そしてそれが速度を上げていったときに大きく影響します。

●弱点の一つは3気筒エンジンの細かい振動

試乗車はハイブリッドの中間グレードであるHYBRID Gと、ピュアエンジンの最上級グレードZの2タイプです。

トヨタ・ヤリス Zの走り
トヨタ・ヤリス Zの走り

パワーユニットの出力に関してはハイブリッドがかなり優位にあります。バッテリーがある程度充電されていれば、モーターのみでのEV走行でのスタートになります。EV走行からハイブリッド走行への移行はスムーズそのもの。まあ20年以上もハイブリッドを作り、そのジャンルでのリーディングメーカーであるトヨタなのだから当たり前です。ただ、エンジンが始動して回転が上昇するまでの少しの間は細かい振動が発生します。この低回転での振動はピュアエンジン車でもあるもので、ヤリスの弱点ともいえます。振動が出る最大の要因は3気筒であることでしょう。4気筒ならばもっと振動は抑えられるはず。しかし、4気筒にすればコストがかさみ、クルマの価格も上がります。メンテナンス費用にしても3気筒と4気筒では差が出ます。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gのエンジン
トヨタ・ヤリス HYBRID Gのエンジン
トヨタ・ヤリス Zのエンジン
トヨタ・ヤリス Zのエンジン

パワーユニットの力強さでいえばハイブリッドのほうが上です。ハイブリッドは91馬力のエンジンに80馬力のモーターが組み合わされるのに対し、ピュアエンジンは120馬力です。ハイブリッドのシステム出力は単純に足し算では算出できませんが、ハイブリッドのほうが数値的に勝っているのは明確です。さらにハイブリッドはモーターとエンジンがそれぞれ不得意なエリア(回転数など)での性能を補完し合うため、走りに余裕が生まれます。試乗を行った箱根ターンパイクは勾配がキツく、エンジンの力強さを求められるコースなのでパワーユニットの性能差が現れやすく、たしかにハイブリッドの力強さを感じます。しかし、ピュアエンジンの120馬力も決して非力ではありません。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gのインテリア
トヨタ・ヤリス HYBRID Gのインテリア

●ピュアエンジン車のCVTはダイレクト感が好印象

ピュアエンジンの走りをよくしている最大の理由は新しいCVTにあるといえるでしょう。ヤリスに搭載されたCVTはすでにレクサスUXにも採用されているダイレクトシフトCVTです。このCVTは発進から低速域をギヤで行い、その上の速度域をCVTで変速します。おかげで発進時の力強さとダイレクト感がよく、ソリッド感のある走りが可能です。CVTにはマニュアルモードがありませんが、私はそれでいいと思います。せっかく無段階で変速するCVTなのにそれを否定する必要はないと私は思います。いわゆるラバーバンド感はかなり消されていて、クルマをしっかりと力強く加速してくれます。

トヨタ・ヤリス Zのシフト周り
トヨタ・ヤリス Zのシフト周り

ハンドリングはなかなかの秀逸さです。ヤリスの足まわりはフロントがストラット、リヤがトーションビームです。どのように感じるかが大切ですので、構造についての詳しい話は避けますが、リヤがトーションビームだとしっかりとしたロール剛性を確保できます。ダブルウィッシュボーンのような複雑なサスペンションのほうが高級とされる面もありますが、私はFFコンパクトカーの場合はこの組み合わせがベストだと思っています。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gのホイール
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの試乗車はオプションの15インチアルミホイールを履く(標準は14インチスチールホイール)

●コーナリング中の安定感はコンパクトカーの中で秀逸

コーナー入り口に向かってステアリングを切っていたときの素直な動きに加えて、リヤがガシッと踏ん張りそこからアクセルを踏み込んでいくと、4輪がしっかりとグリップを保ったままでの加速が可能です。コーナリング中にラインを変更した際の動きも安定しています。以前サーキットでプロトタイプを走らせ、限界コーナリングを経験していますが、その安定感もレベルの高いもので、かつ素直で思ったように動かせるというハンドリングのよさは以前のヴィッツとは比べものになりません。スポーツドライビングが好きな人なら、多くの人が「うん、これいいな」と言うことでしょう。もちろん、大排気量エンジンを積み、ぶっ太いタイヤを履いた圧倒的なパフォーマンスを誇るモデルとは違う走りですが、(普通の)コンパクトカーとしてはかなり高いレベルにあるといえます。

トヨタ・ヤリス Zの走り
トヨタ・ヤリス Zの走り

ハイブリッドは高速道路でACCを作動させて走る機会もありました。速度調整も車間調整もレーンキープもなかなか上手な印象でした。エネルギーモニターを表示しながら、どのように制御されているのかを見ていたところおもしろいことに気づきました。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gの走り
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの走り

ACC作動時、国産ハイブリッド車では「モーター走行」、「エンジン走行」、「エンジンとモーターのハイブリッド走行」の3つが組み合わさって走ることが多いのですが、ヤリスにはエンジンもモーターも使わずに滑走する「コースティングモード」が組み合わされていていました。この4種のモードを上手に使いながら燃費を向上しているわけです。

高速道路を中心にした走行での実燃費は29.2km/L。WLTC高速モードで33.6km/Lはだてじゃありません。確かな走りと、高い経済性を持つヤリスは、かなりの本気度を感じられるクルマでした。

トヨタ・ヤリス HYBRID Gの荷室
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの荷室(トノカバーは販売店オプション)
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの床下収納
トヨタ・ヤリス HYBRID Gの床下収納

「トヨタ ヤリス HYBRID G」諸元表
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1060kg
エンジン
・種類:直列3気筒
・総排気量:1490cc
・最高出力:91ps(67kW)/5500rpm
・最大トルク:120Nm(12.2kgm)/3800-4800rpm
モーター
・最高出力:80ps(59kW)
・最大トルク:141Nm(14.4kgm)
駆動用バッテリー
・容量:4.3Ah
駆動方式:FF
トランスミッション:電気式無段変速機
燃費:35.9km/L(WLTCモード)
価格:213万円

「トヨタ ヤリス Z」諸元表
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1020kg
エンジン
・種類:直列3気筒
・総排気量:1490cc
・最高出力:120ps(88kW)/6600rpm
・最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4800-5200rpm
駆動方式:FF
トランスミッション:ギヤ機構付きCVT
燃費:21.6km/L(WLTCモード)
価格:192万6000円

諸星陽一
諸星陽一さん

諸星陽一:モーターフォトジャーナリスト。自動車雑誌の編集者を経て、フリーランスに。プロダクションレースの参戦経験のほか、メンテナンス系の記事も得意とするなど守備範囲の広さは全盛期のイチロー並み。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。

(写真:奥隅圭之、文:諸星陽一)

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この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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