自動運転実用化のトップバッターは「旅客バス」!? 施設内や空港内など急な飛び出しがない限定エリアでの実用化が進む

■公道での実用化はまだまだ先になりそう

羽田空港内の自動運転テスト
ANAが2020年1月に羽田空港内で行った自動運転バスの実証実験

自動運転のクルマに関するニュースは連日のように報道されていますが、実際いつごろから実用化され、どんな用途で使われるのかも気になるところです。筆者は、まず真っ先に実用化されるのは旅客用などのバスで、一定の限定エリアでの運用から始まると考えています。

バスの自動運転化は、運転手不足や高齢化といった労働者人口の問題、赤字で路線廃止が広がる地方に住む高齢者などの「生活の足」の代替手段といった、近年の社会問題に対する解決策のひとつとして注目されています。

そのため、ここ数年、国土交通省や地方自治体、路線バスを運営する企業などが主導となって、各地で実証実験や実用化の検証が進められています。

自動運転バス
自動運転バスの実用化は様々な社会問題への解決策として期待されている

●公道実験で自動運転できない場面が続出

例えば、関東圏の大手私鉄である小田急電鉄は、2018年5月に慶應義塾大学・湘南キャンパス内という限定アリアで、小型バスの日野ポンチョをベースにした自動運転バスの実証実験を実施。同年9月と翌2019年8月には、観光地の江ノ島周辺にある公道でも基本的に同じ車両で実験を行っています。

江の島での実験走行
小田急電鉄では、慶応義塾大学や江ノ島の公道で実験を実施

ソフトバンク傘下のSBドライブらの協力で実施されたこれらの実験。いずれもカメラやレーザー照射により周囲の建物など物体との距離を測定するLiDER(ライダー)といったセンサー類に加え、自動ステアリングなどクルマの自律走行に必要な装備を搭載した車両を使用。事故など不測の事態に備え、プロのバスドライバーが運転席に座り、ハンドル操作をすぐに行える状態で行われました。

筆者は、上記3つの実証実験で全てのバスに試乗しましたが、特に江ノ島の公道で行われた2度の実験では、路上駐車の車両や観光客などの歩行者、自転車などが出現するたびにドライバーが手動運転に切り替える場面が続出、完全な自動運転にはまだまだ時間がかかりそうな印象でした。

自動運転実験走行
実験は、不足の事態に備え、いつでもドライバーが手動運転に切り替えられる状態で実施された

対して、慶応義塾大学の湘南キャンパスで行われた実証実験は、他のクルマの進入がないエリア内の予め決められたルートを走行したもので、江ノ島の実験と比べかなりスムーズな運行ができていたと思います。

●空港内の制限区域での実験

ANA(全日本空輸)が、2020年1月に羽田空港(東京国際空港)内で行った自動運転バスの実証実験も、一般の車両や歩行者が出入りできないエリア(制限区域)内で行われています。

これは、2018年よりANAが行なっている乗客や空港職員などのターミナル間の移動手段として、自動運転バスを活用する取り組みの一環です。外国人旅行者など旅客が増加する一方、空港で働く人手は不足傾向にあるという、近年の課題解決の手段として導入を目指しているもので、オリンピックイヤーの2020年内に試験運用を開始する予定となっています。

羽田空港内
ANAが羽田空港で自動運転の実証実験で使用した大型EVバス

実験に使われた車両は、中国BYD社製で定員57名の大型EVバス「K9RA」。小田急の実験と同様に前述のSBドライブらが協力し、GPSやLiDAR、乗用車の安全支援システムにも使われるミリ波レーダーなどを装備。やはり、ドライバーがいつでも運転を代われるように運転席に座り、ターミナルの乗降口から別の乗降口までの往復約1.9kmの区間で実験が行われました。

この実験も取材及びバス試乗を行いましたが、やはり限定エリアだったため、小田急電鉄の慶応義塾大学での実験と同様、とてもスムーズな印象を受けました。実験ルート上には、荷物などを運搬する作業車なども走行していたのですが、右左折時や一旦停止がある交差点など、他車両との混合交通も問題なくクリアしています。

また、一般道と違って予想外の動きをする他のクルマや歩行者がいないことは、乗っている側にとっても安心度がかなり高かった記憶があります。

ANAでの実験走行
ANAの実験では、予定ルート内でドライバーがほぼ手動に切り替えることなく運行を行った

●予測できない動きへの対応が課題

自動運転の課題のひとつは、歩行者や自転車の急な飛び出し、他車の予想できない動きなどに対し、現在の技術ではクルマは対応が難しく「安全の担保ができない」ことだとよく言われます。これは、自動運転技術の開発に携わる大学の研究室や部品メーカーの担当者など、今まで取材させて頂いた多くの方々から異口同音のように聞く言葉です。

一般道でも走行実験
一般道での歩行者や他のクルマ、自転車の急な動きにどう対応するかが自動運転の課題のひとつ(写真はイメージです)

特に、一般乗用車の場合は、一部の車両(日産スカイラインやBMWの3シリーズや8シリーズなど)で高速道路の「ハンズオフ(手放し)運転」が可能になりましたが、速度制限があったり、なにか不測の事態があればドライバーがすぐに運転を代わる必要があります。ましてや、他のクルマや歩行者などの動きが読めない一般道では、クルマが安全に自動運転で走行するにはまだまだ時間がかかりそうです。

そう考えると、自動運転車の実用化は、まずはここで紹介したような他車や歩行者などの出入りが少ない、もしくは全くない限定エリアで、人を運ぶバスなどから始まるという可能性は高いでしょう。

羽田空港内の実験走行
空港内の制限区域など限定されたエリアなら、自動運転車の走行もスムーズだった

ただし、前述の空港内での運用を目指すANAの場合は、昨今の新型コロナウイルス問題により、海外からの渡航制限やオリンピックの開催事態も危ぶまれている状態ですので(※2020年3月16日現在)、実用化は当初の予定より遅れるかもしれません。それでも、一般車両に比べると安全性の担保がとりやすいのは確かです。かなり近い将来に実現するのではないかと考えられます。

(文・写真:平塚 直樹)

この記事の著者

平塚 直樹 近影

平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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