●大本命のスカイアクティブXはスムーズな乗り心地を実現も、価格に懸念
マツダ渾身のセダン&5ドアハッチバックとなるマツダ3。大本命であるSPCCI燃焼方式を採用したスカイアクティブXと、未試乗だった1.5リットルガソリンエンジンモデルを含め全エンジンに試乗する機会を得ました。
まずは大本命のXグレードです。XグレードはSPCCIと言われる燃焼方式を採用します。SPCCIというのは、Spark Controlled Compression Ignition=火花点火制御圧縮着火の略です。
通常のガソリンレシプロエンジンは、空気と燃料を圧縮したうえで点火プラグで火花を飛ばしその火種が燃え広がって燃焼室内の圧力が上がりピストンを押し下げます。一方SPCCIは点火プラグで火種を作りますが、その火種が燃え広がるではなく、火種が発生したことによって燃焼室内の圧力が上昇し、あちこちで自己燃焼が始まり一気に燃え切るという現象を使った燃焼方式で、非常に薄い混合気(つまり少ない燃料)で燃やすことが可能となり、燃費を稼ぐことができます。
Xグレードの乗り味はごく普通でした。最初にテストコースで乗った開発車両はノッキングのような振動が発生する場面もあったのですがそうしたことは一切なく、ごくごく普通に走らせることができます。マイルドハイブリッドシステムが組み合わされていることもあり発進は至ってスムーズ、アイドリングストップからのエンジン再始動もセルモーターで行うのではなく、ISGを使っているので振動もなくスマートなものです。
マツダ3のSPCCIエンジンはこの普通の性能を狙ったものですから、目的は十分に達成しています。
問題はクルマの価格にあります。ファストバックXプロアクティブの価格は319万8148円です。普通の2リットルエンジンを積むファストバック20Sプロアクティブの価格が251万5741円です。その差じつに68万2407円となります。
燃費はいいのですが、使う燃料はプレミアムです。普通のエンジンフィールのクルマで70万円近い高い車両本体価格を払い、燃費はいいものの高い燃料であるプレミアムガソリンを入れる必要がある(レギュラー仕様のエンジンより燃費がよく、100円当たりで走れる距離は長くなりますが)……これはいったい誰のためのエンジンなのでしょうか?
たとえばマツダの象徴でもあるロータリーエンジンは燃費の悪さが取り沙汰されましたが、レシプロエンジンでは得られない滑らかな回転上昇やパワー感がありました。そのエンジンでなければ得られない特別なフィーリングがあれば出費を惜しまないユーザーは存在しますが、普通のフィーリングのエンジンに高い価格はかなり疑問です。
もちろん、今後改良が進み、車両本体価格が下がり、レギュラーガソリンが使えるようになれば魅力的ですが、現時点では「70万円近くの料金をプラスして買ったほうがいい」とは私は言い切れません。
一方、1.5リットルエンジンを搭載するもっともベーシックなモデルであるファストバック15Sは222万1389円です。ファストバック20Sプロアクティブと比べると、29万4352円リーズナブルとなります。1.5リットルのエンジン出力は111馬力で少し低めですが、箱根の山で乗っても大きなパワー不足を感じることはありませんでした。
そして、装備的には遜色は感じません。マツダ車の大きな魅力となっているGベクタリングプラスも装備、ステアリングもレザーが標準です。ホイールは20Sが18インチアルミ、15Sが16インチアルミと小径になりますが、タイヤ交換の際にはリーズナブルに済みます。
トップモデルと基本が同じで、リーズナブルとなるベースモデルだけに15Sは一番の買い得感を感じられます。
(文/写真・諸星陽一)