80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第11回は、伝統ある上級車のすべてを余すことなく凝縮、質実剛健を具現化したドイツ製コンパクトセダンに太鼓判です。
■質実剛健にしてカジュアルさも演出
先行したBMW3シリーズの対抗と同時に、オイルショックに伴う北米の燃費規制をクリアすることを目的に、メルセデス・ベンツは新たにコンパクトセダンを計画。莫大な開発資金を投じて1982年に発表したのが、W201こと190シリーズです。
基本的には上級のW126(Sシリーズ)の小型版と言えるボディは、とくにフロントグリルやランプにその継承を感じるところ。しかし、80年代らしくスクエア感を強めたボディは、低めに引かれた強いキャラクターラインがボディサイドにアクセントを与えつつ、同時にシャープさを際立たせます。
Bピラーをボディ色としたサイドウインドウ周りは、いわゆる光りモノを避けたことでいい意味での実用性を表現。リアピラーのエアダクトは機能性を感じさせるとともに、サイドビューの程よいアクセント役もこなします。
バンパーやドアハンドルなど、素材色の樹脂パーツの多用はやはり機能性の高さを感じさせるもので、単なるコストダウンと思わせないところが巧妙。さらに、コンパクトセダンとしてのカジュアルさまでも演出してみせます。
意外にも大きく絞り込まれたリアエンドは、80年代らしく空力特性を意識したもの。このリアビューでは、薄く横長のリアランプがエレガントな雰囲気と同時に、ちょっとした先進感をも演出します。
■パーフェクトなインテリア
インテリアでは、緩やかな弓形を描くパッドの下に収まる計器類と操作スイッチ類は極めて整然とレイアウトされ、余計な装飾もなければ足りない表現なども一切ありません。さらに、ステアリングを含め全体の質感は驚くほどの高さを誇ります。
ブルーノ・サッコ率いる社内チームが手掛けた190シリーズのスタイリングは、上級車が築き上げてきた独自のプレステージ感と、80年代のコンパクトカーらしいシャープさや先進感との融合が絶妙です。
日本での190と言えば、コスワースがエンジンを手掛けた2.3-16など高性能モデルが話題の中心。しかし、少なくともデザインにおけるハイライトは、素の190Eにこそすべてが詰まっていると筆者は考えます。
●主要諸元 メルセデス・ベンツ 190E (4AT)
全長4420mm×全幅1680mm×全高1385mm
車両重量 1180kg
ホイールベース 2665mm
エンジン 1995cc 直列4気筒SOHC
出力 115ps/5500rpm 16.8kg-m/4000rpm
(すぎもと たかよし)