10月24日から11月4日まで開催された東京モーターショー2019。各メーカーから出品されたコンセプトカーや市販予定車から、注目車について担当デザイナーに速攻インタビューを敢行。第7回目は「人(あなた)と共に創る」をテーマとしたマツダブースから「MX-30」に注目!
■テーマは「Human Modern」。もっと自然な「魂動」とは?
── 現在のマツダデザインを考えると意表を突く衝撃的な(笑)表現ですが、どのようなコンセプトだったのでしょう?
「デザインテーマは「Human Modern」。身軽で使いやすい、自然体のクルマですね。もちろんEVとして造形の幅は大きく広がるわけですが、その中でも親しみの持てるようなスタイルです。たとえば、Dピラーをクーペルックとしてキャビンを軽く見せているのもその一例なんですね」
── フロントですが、現在の「魂動」第2章の表現とはかなり違って、非常にミニマルな見せ方ですね
「はい。ただ、たとえばこれが次世代の「魂動」といったことではなく、あくまでもこのクルマのコンセプトを表現したものです。ですから、「魂動」デザインとしての塊の強さや表情のある目元、生命感といった表現は出しつつ、MXー30としての新しさを狙っています」
── それはEVということで、あまりグリルを大きくする必然性がないということですか?
「極端な話、EVはフロントの造形の制約がなく何でもできます。しかし、EVだから未来的でハイテックなイメージでなければならないという発想にも疑問を持った。それは作り手のエゴイズムじゃないかと。もっと自然な姿勢で、いまの時代を映す身軽で気持ちのいい表現は何だろうと模索した結果が、このプレーンな表情ということです」
── 現在のマツダの顔は「シグネチャーウイング」がひとつのシンボルですが、それは考えなかった?
「いえいえ、もう何万回も検討しました。シグネチャーウイングのような金属のパーツが入るとカチっとした表情にはなりますが、親しみやすさからはどうしても離れてしまう。プレミアム感よりも、もっと使いやすい表現がこのクルマのコンセプトに合致しているだろうと」
── フロントの下部も、たとえば流行のハの字のようなアクセントやワイド感を強調するパーツが見当たらないですね
「ええ。実際、このグリルの要素を取ってしまうと、とんでもなく無表情になってしまうんですね。これはマズイということで、ランプ類などのパーツやボンネットなど、立体のエレメントがすべてセンターにフォーカスするようにしています。要素は少ないのですが、塊のデッサンとして中心に集約することで、キリッとした表情を目指しました」
■光の移ろいは一旦封印!
── サイドボディはマツダ3などとは全く違い、ショルダーの強さを生かしたシンプルな面ですね
「実は「魂動」の別の表現を目指して「光の移ろい」は一旦封印しました。その上でマツダらしさを表現しろ、というのが今回のお題だったんです。もう禅問答のようで、スケッチを何枚描いても分からないし、モデラーの手は止まるし(笑)。その中で見えて来たのが、若干のテンションのある美しい塊と、微妙に変化するショルダーラインだった。言ってみれば「引き算の美学」の極みでしょうか」
── リアスポイラーからランプに降りてくる流れのあるパーツの意図は?
「今回ルーフサイドにはフレアムドトップカバーとして3トーンのシルバーが施されているのですが、それをフィーチャーし、リアの塊を強調してグラフィカルな表現を狙ったものです。ルーフカラーは何度も検討した結果、ダークや金属系の方がボディに軽さが出るし、サイドウインドウの抜けも表現できると」
── ボディのアンダーカバーはCX-30のようにかなり幅の広い表現ですが、その意図は?
「そこはCX-30と同じで、ボディ色部分をスリークに見せたいのが大きな理由です。それと、EVの場合はバッテリーパックもあってサイドビューが厚く見えてしまうので、それを払拭する意味もあります」
── 一見、いまのマツダ車とはまったく違うスタイルでありながら、じっくり見ることで実はマツダらしさが見えて来るということですね。本日はありがとうございました。
(語る人)
マツダ株式会社
デザイン本部 チーフデザイナー
松田 陽一 氏
(インタビュー・すぎもと たかよし)