【自動車用語辞典:吸排気系「排熱回収」】エンジンの熱を回収して再利用する仕組み

■燃料が持つエネルギーの大半は捨てられている

●ハイブリッド車などには排熱回収が欠かせない

エンジンから排出される排気ガスの熱を回収できないかと考えるのは必然で、古くからさまざまな試みが行われてきました。実用化されている代表的な技術は、排気熱を使ってエンジンの暖気時間を短縮する排気熱回収システムです。

HEVで実用化されている排気熱回収システムの仕組みと効果について、解説していきます。

●いろいろな排熱回収

多くの熱効率向上技術が実用化されていますが、それでも燃料の持つ発熱量のうち、エンジンの仕事として引き出せているのは20~40%程度です。残りのほとんどは、熱として捨てられています。その排熱の一部を回収して再利用するのが、排熱回収です。

排熱回収には、大別すると3種類あります。

・直接排気熱を熱として回収する「排気熱回収システム」
・蓄熱材を利用して一時的に熱を保持して再利用する「蓄熱システム」
・排気熱で発電して電気エネルギーとして回収する「熱電変換システム」

この中で実用化されているのは、排気熱回収システムと蓄熱システムです。ここでは、最近のHEVで活用されている排気熱回収システムを取り上げます。

熱収支と排熱回収のイメージ
燃料の持つ発熱量のうち、エンジンの仕事として引き出せているのは20~40%程度にすぎない

●エンジン冷態時の課題

エンジン冷態時には、燃費と排出ガス特性が悪化します。

燃費の悪化は、燃料の蒸発特性が悪い分余分に燃料を供給するため、またエンジンオイルの温度が低いため粘性が高くなり、フリクション(機械損失)が増大するためです。

排出ガスの悪化は、触媒温度が低く活性が不十分なため浄化性能が低下することに起因します。

特に、頻繁にアイドルストップを行うHEVでは冷態時の燃費悪化が顕著です。暖機運転中は、室内の暖房機能を維持するために、アイドルストップをしないように制御しているためです。発売当初のHEVには、冬季の燃費が良くないという評判がありました。

●WLTCモード法

2018年10月から、国内の燃費・排出ガス規制の試験法が従来のJC08モード法から世界標準のWLTC(Worldwide Light-duty Test Cycle)モード法に変更されました。

WLTC試験法は、JC08モードに比べて冷態始動時の燃費・排出ガスの寄与度が大きくなったため、これまで以上に暖気中の燃費・排出ガス性能を抑えることが重要になりました。

●代表的な排気熱回収システムと効果

排気熱回収システムでは、排気系の触媒下流に排気熱をエンジン冷却水に回収する熱交換器を設置します。回収した熱は、暖房やエンジンの暖気のために利用します。暖気が促進され、アイドルストップが早く作動し始めることによって、暖気中の燃費が改善されます。

熱交換器は、効率を上げるために流路を絞る必要があり、圧力損失が大きくなります。排気熱回収を行うのは暖気中だけなので、それ以外の通常運転では、流路切り替えバルブによって熱交換器をバイパスさせます。

HEVに採用した例では、外気温-5℃で始動した時、排気熱回収システムによって暖気完了時間が40%程度短縮され、この間の燃費が約8%改善されたという報告があります。通常のガソリン車の場合は、効果は半減します。
すでにトヨタのエスティマやプリウス、ホンダのアコードなどのHEVでは、排気熱システムを採用しています。

排気熱回収システムの例
排気熱回収システムの模式図

排気熱回収システムの効果は、モード燃費の値に直接反映されないため、HEV以外の標準車へ採用された例はまだありません。しかし、燃費・排出ガス試験法の変更や実用燃費を重視する最近の風潮から、今後普及する可能性があります。

電動化が進む中で、将来的には熱を電気に変換する熱電変換システムが、有望な技術だと思います。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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