「まるで空飛ぶ魔法の絨毯!?」スムーズな乗り心地を実現する車両制御技術の集大成【ZFテクノロジーデイ2019】

■車両の動きをほぼ完全にコントロールする「フライングカーペット2.0」

●アクティブダンパーやアクティブリヤステアなどのシステムを統合制御

ZFはトランスミッションやステアリング、センサー類などのハードウェアから、近年は研究が活発化しているAIなどのソフトウェアまで、全方位での技術を網羅しているのが強みです。

それらの技術の集大成の一つと言えるのが、「フライングカーペット2.0」。車両の縦・横・上下の動きをほぼ完全にコントロールするという革新的なシャシー・コンセプトです。

フライングカーペット2.0の走行風景
フライングカーペット2.0のデモ車両であるフォルクスワーゲン・トゥーラン。凹凸のある路面を走行する際も、車両の上下動が抑えられています。

フライングカーペット2.0は、主に4つのシステムから成り立っています。その中でも核になっているのが「sMOTION」と呼ばれるアクティブ・ダンパーです。

これは連続可変減衰力コントロールダンパー(CDC)を装備したショックアブソーバーに、小型の電動モーターとポンプユニットから成るアクチュエーターを追加して、走行状況に応じて4輪を個別に上下に動かすもの。

sMOTION
sMOTIONに使われるダンパーには電動モーターとポンプユニットが備わります。

例えばコーナリング中には内側のサスペンションが沈ませる一方で外側のサスペンションを伸ばすことで車体を水平にキープします。sMOTIONはこうしたロール方向だけでなく、加減速時のピッチ方向、そして路面のバンプを乗り越えたりした際のリフトにも対応します。

sMOTIONのデモ走行(スラローム)
機能ON状態(右側)では、スラローム時のロール量が小さくなります。
sMOTIONのデモ走行(段差)
機能をONにした状態(右側)では、段差を越えた際の上下動も明らかに小さくなります。

そのsMOTIONと双璧を成すのが、アクティブ・リヤステアリング・システム「AKC(Active Kinematic Control=アクティブ・キネマティック・コントロール)」です。こちらは2013年から市場に投入済みの技術で、現在、ポルシェやフェラーリなど幅広いメーカー&車種に採用されています。

AKC
リヤアクスルの中央部にアクチュエーターを組み込んだタイプのAKC。

そのメカニズムは、後輪中央もしくは両方の後輪にアクチュエーターを装着し、ステアリング操作に応じて後輪のトー角を変更するというもの。低速時には前輪と逆方向に後輪を操舵して取り回し性を向上させる一方、60km/h以上になると同位相の操舵となり、車線変更時などでのスタビリティ向上等に貢献します。ZFではsMOTIONとAKCを組み合わせることによって、「タイトコーナーにおけるリヤのパワースライドを防ぐことができる」と述べています。

このsMOTIONとAKCに加えて、ステア・バイワイヤー・パワーステアリングシステムとアクティブ・ブレーキングシステム「IBC(Integrated Brake Control)」がフライングカーペット2.0の構成要素となります。

IBC
バキュームブースターを廃して、モーターによるアクチュエーターや横滑り防止装置を一体化したIBC。制動力の立ち上がりが早いほか、低燃費化にも貢献します。
ステア・バイワイヤー・パワーステアリング
ステア・バイワイヤー・パワーステアリング装着車では、タッチパネル上でハンドル操作が可能です。

これらのシステムは単独で機能するわけではありません。「cubiX」と呼ばれるスマート・コントロール・システムが、車両に装着されたセンサーやカメラから得られた情報を基に、個々のシステムを最適に制御するのです。

このcubiXのおかげで、例えばカメラが障害物を検知した際にはあらかじめアクチュエーターを作動させたり、郊外路だと認識した場合は自動的にスポーツモードに切り替えたり、といった設定も可能となります。

cubiXによる統合制御
車両のセンサーが段差を検知した際には、事前にダンパーの減衰力等をコントロールして衝撃を緩和します。

「ZFグローバルテクノロジーデイ2019」では他に、ERC(Electromechanical Roll Control)」装着車に試乗する機会がありました。これはスタビライザーにモーターとギヤを組み込んだもので、最大トルク1400Nmで車両のロールを抑え込みます。

ERC
ERCは汎用性が高いのも特徴で、前後アクスルの両方、もしくはどちらか単体で装着することが可能。

ジープ・グランドチェロキーでは、タイトなスラロームをほとんどロールすることなく、SUVというよりもスポーティセダンのような感覚で走り抜けることができました。その効果のほどは絶大です。

ERCを装備したジープ・グランドチェロキー
ERCを装備したジープ・グランドチェロキー。機能のオンにすると、ロール量が激減しました。

ZFは、フライングカーペット2.0の開発の目的を「自動運転の快適性と安全性の向上」としています。自動運転で乗員が運転から解放されてリラックスしている状態では、ちょっとした車両の動きが乗員を不快にさせます。そこで、フライングカーペット2.0が急な車両の動きを抑制することによって、自動運転時に乗員はより快適に車内で過ごすことができるようになるとのことです。

(長野達郎)