■車両の動きをほぼ完全にコントロールする「フライングカーペット2.0」
●アクティブダンパーやアクティブリヤステアなどのシステムを統合制御
ZFはトランスミッションやステアリング、センサー類などのハードウェアから、近年は研究が活発化しているAIなどのソフトウェアまで、全方位での技術を網羅しているのが強みです。
それらの技術の集大成の一つと言えるのが、「フライングカーペット2.0」。車両の縦・横・上下の動きをほぼ完全にコントロールするという革新的なシャシー・コンセプトです。
フライングカーペット2.0は、主に4つのシステムから成り立っています。その中でも核になっているのが「sMOTION」と呼ばれるアクティブ・ダンパーです。
これは連続可変減衰力コントロールダンパー(CDC)を装備したショックアブソーバーに、小型の電動モーターとポンプユニットから成るアクチュエーターを追加して、走行状況に応じて4輪を個別に上下に動かすもの。
例えばコーナリング中には内側のサスペンションが沈ませる一方で外側のサスペンションを伸ばすことで車体を水平にキープします。sMOTIONはこうしたロール方向だけでなく、加減速時のピッチ方向、そして路面のバンプを乗り越えたりした際のリフトにも対応します。
そのsMOTIONと双璧を成すのが、アクティブ・リヤステアリング・システム「AKC(Active Kinematic Control=アクティブ・キネマティック・コントロール)」です。こちらは2013年から市場に投入済みの技術で、現在、ポルシェやフェラーリなど幅広いメーカー&車種に採用されています。
そのメカニズムは、後輪中央もしくは両方の後輪にアクチュエーターを装着し、ステアリング操作に応じて後輪のトー角を変更するというもの。低速時には前輪と逆方向に後輪を操舵して取り回し性を向上させる一方、60km/h以上になると同位相の操舵となり、車線変更時などでのスタビリティ向上等に貢献します。ZFではsMOTIONとAKCを組み合わせることによって、「タイトコーナーにおけるリヤのパワースライドを防ぐことができる」と述べています。
このsMOTIONとAKCに加えて、ステア・バイワイヤー・パワーステアリングシステムとアクティブ・ブレーキングシステム「IBC(Integrated Brake Control)」がフライングカーペット2.0の構成要素となります。
これらのシステムは単独で機能するわけではありません。「cubiX」と呼ばれるスマート・コントロール・システムが、車両に装着されたセンサーやカメラから得られた情報を基に、個々のシステムを最適に制御するのです。
このcubiXのおかげで、例えばカメラが障害物を検知した際にはあらかじめアクチュエーターを作動させたり、郊外路だと認識した場合は自動的にスポーツモードに切り替えたり、といった設定も可能となります。
「ZFグローバルテクノロジーデイ2019」では他に、ERC(Electromechanical Roll Control)」装着車に試乗する機会がありました。これはスタビライザーにモーターとギヤを組み込んだもので、最大トルク1400Nmで車両のロールを抑え込みます。
ジープ・グランドチェロキーでは、タイトなスラロームをほとんどロールすることなく、SUVというよりもスポーティセダンのような感覚で走り抜けることができました。その効果のほどは絶大です。
ZFは、フライングカーペット2.0の開発の目的を「自動運転の快適性と安全性の向上」としています。自動運転で乗員が運転から解放されてリラックスしている状態では、ちょっとした車両の動きが乗員を不快にさせます。そこで、フライングカーペット2.0が急な車両の動きを抑制することによって、自動運転時に乗員はより快適に車内で過ごすことができるようになるとのことです。
(長野達郎)