現代の2CVを標榜したイタリアンベーシック「フィアット パンダ(初代)」【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

●過剰なデザインが横行する現在、あらためて見直したいベーシックカー

80~90年代の日本車デザインを検証してきた本シリーズ。今回から新たに同時代の輸入車のグッドデザインを振り返ってみたいと思います。第1回目は、現代の2CVを目指したといわれる、ベーシック・コンパクトの新指標に太鼓判です。

500(ヌォーヴァ・チンクエチェント)を引き継いだ126がボトムレンジを支えていた70年代。空冷リアエンジンなどの前時代的な作りに危機感を抱いていたフィアットは、先行した初代ゴルフに注目。これを範として一気に時代を進めたFFコンパクトが、1979年発表(日本発表1982年)の初代パンダです。

直線や平面によるボディが話題の中心となるパンダですが、まずは2ボックス車として極めて現代的なプロポーションを得たことがスタイリングの見所。安定感のあるボディと広いキャビンの組み合わせは、それだけで新時代を表現しています。

ボディの安定感は、いち早く導入したスカート一体型の大型バンパーによる功績が大きく、このバンパーと高さを合わせた同素材のサイドパネルは、コストを管理しつつボディ全体にカジュアルな雰囲気と新世代感を両立させました。

コーナリング灯と一体になったヘッドランプによりスッキリと面一化されたフロントグリル。高さを持たせたフードと、その見切りからリアまで引かれたキャラクターライン。その後の自動車デザインの基本を、ほぼこの一台で示してしまったのは驚異的とも言えます。

先述のとおり、直線と平面だけでデザインしたと言われながら、ボディ全体にわたって高い面質が確保されており、決してペナペナやカクカクになっていないのも注目点です。パネルの角Rやグラフィックのラインなどに、巧妙な仕上げが施されている証拠でしょう。

インテリアは、初期型のハンモックシートやポケット状のダッシュボードが話題の中心ですが、コンパクトながら、実に整然とレイアウトされた近未来的な表現のメーターパネルや、フラットでモダンなステアリング形状にも注目です。

新時代のベーシックを実現するべく、イタルデザインのジウジアーロに一任されたパンダは、一世を風靡した初代ゴルフからわずか5年で、まったく別次元の次世代デザインに移行していました。

コンパクトかつ廉価なベーシックカーとして、シンプルを極めたような存在でありながら、しかし安っぽさは微塵も感じさせず、愛着を持って長く愛せるクルマ。過剰なデザインが横行する現在に、あらためて見直すべき名車と言えそうです。

●主要諸元 フィアット パンダ45(4MT)
全長3380mm×全幅1460mm×全高1445mm
車両重量 680kg
ホイールベース 2160mm
エンジン 903cc 直列4気筒OHV
出力 45ps/5600rpm 6.5kg-m/3000rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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