●速い! 曲がる! 止まる! すべてが高次元のGT-R NISMO
いやいや久し振りに良い意味での「ビックリギョウテン!」であります。
現在日本で最も高いパフォーマンスを持つのは『GT-R NISMO』というモデルだということを知っていたけれど、残念ながらあまり興味なかった。GT-Rというクルマ、速いことは認めるが、スポーツカーとしての「艶」や「官能的な魅力」という点で物足りなかったからです。「速いだけ」という感じ。
試乗したのは欧州仕様
いや「速さ」についても納得しておらず。ニュルブリックリンクの量販車一等賞を狙って開発してるのに、24時間耐久レースに出ず敵前逃亡に等しい。
そんな流れを変えたのが、2013年からGT-Rの開発担当になった田村さんである。「タイムアタックにしか興味なし!」というオタク的なクルマ作りから方針転換し、昨年から始まったドリフトの世界選手権の初代チャンピオンを獲得。
今年のニュルブリックリンク24時間レースでも総合9位に入るという素晴らしいリザルトを残した。そんなこんなで2020年モデルの『NISMO』は少しばかり気になっていたのであります。
思いが通じたのか、ドイツはベルリン近郊にある『ユーロサーキット』で速度リミッターも走行に於ける制約も全く無い状況で「どうぞ!」となった次第。果たして600馬力を楽しく扱えるのか?
初めて走るサーキットということもあり、レーシングドライバーの隣に乗って攻め方をレクチャーをしてもらう。大笑いしちゃうことに、コースの説明はインラップ(一周目)のみ。そこから「ほぼ」全開アタックです! 何も手を加えない「吊し」の状態で筑波サーキットの1分切りというトンデモナイタイムが出ると言われるだけあり、速い! 加速だけでなく曲がるし、ブレーキ凄い!
なんてったってフロントのローターは410mmもあるカーボン製。ブレンボの対向ピストン付きキャリパーもデガい! これだけで500万円くらいするというからステキです。こんなに奥まで突っ込んでもいいのかよ、と思う。ほとんど競技車両の世界です。3ラップで交代し、私がハンドル握る。本来なら1ラップはチェック走行というのがサーキットの常識ながら、隣で「踏んで!」。
踏めと言われれば瞬時も躊躇うこと無く全開オヤジです! ラインは覚えたので遠慮せず7000回転まで引っ張って加速。さすが600馬力! 速いです。筑波サーキットの裏側のような短い方のストレートですら220km/h! 最終コーナーから全開すると、1コーナー手前で250km/h近くまで出ちゃう! 最高速は315km/hだというが(ハッタリじゃなく本当に出る)、納得です。
1ラップだけ早めにブレーキしてみた後、2ラップ目から攻めて行く。素晴らしいですねカーボンブレーキ! 3.7kmのサーキットで200km/h以上からフルブレーキを3回踏んでもフェードしない(150km/hくらいからのブレーキも3回あります)。耐久性も抜群に良いそうな。たまにサーキットを走るような使い方をしたって交換する必要無いらしい。公道なら減らない、と言っていい?
気がつけばレーシングドライバーと同じペースで走ってました。600馬力をこれだけフルに扱えるんだから凄い凄いと感心しきり。安定性の悪いクルマだとコースに留まっているのがやっとですから。
その後も2回ほどフルアタックしたけれど、思い切りアクセル踏んで限界コーナリングしてブレーキ踏んでるのに、楽しくて性能落ちない。こんな市販車、世界に5台も無いです。
さらにウナるのがサーキットまでの往復。一般路とアウトバーンを使う合計300kmくらいの区間ながら、乗り心地良くて快適なのだった。サーキットアタック用のNISMOと思えないほど上質の乗り心地です。簡単なことじゃ満足しないタチの悪い評論家もスタンディングオベーションであります。
以下、動画で超簡単にNISMOの特徴など紹介してみたい。2500万円程度の価格に納得する。
さて。御存知の通り2021年の秋から、すでに売っているクルマも含め騒音規制が厳しくなる。高性能車だとエンジン音だけでなくタイヤ騒音すら無理だというレベル。田村さんも「エンジンだけで走る高性能車は規制値をクリア出来ないでしょう」という。
つまり、相当の確率で2021年秋にGT-Rは絶版モデルになるということを示唆している。生産台数はすでに限られることを意味します。
特にNISMOはパーツ調達の問題があり、1日2台しか作れない。2021年9月まで生産したって700台規模。日本が3分の1としたら250台しか作れないことになる。
クルマの内容を考えたらむしろお買い得だし、相当の確率でプレミアムだって付く可能性大。お金に余裕のある方はすぐオーダーすることをすすめておく。今までGT-Rに興味なかったヒトもぜひ試して欲しいと思う。
(国沢光宏)