大津市大萱6交差点の幼児と保育士が死傷した事故は防げなかったのか?【AJAJ菰田潔会長による検証】

■日本自動車ジャーナリスト協会「菰田潔」会長が大津事故を検証

・痛ましい事故が減ること、なくなることは可能か?

残念なことだが、最近痛ましい交通事故のニュースが続いている。日本で多い歩行者が犠牲になるパターンだ。それも幼児が亡くなる事故が続くと誰しも胸が痛くなる。

大津の事故は右折車と直進車の事故に巻き込まれるように、歩道で信号待ちしていた幼児と保育士が死傷した。

それぞれの立場から事故を回避できなかったのかを検証してみよう。

・「前をよく見ないで右折」恐ろしいことだ

右折車の立場から事故を防ぐためにどうすればよかったのか?

警察の発表によると右折車のドライバーは、「前をよく見ていなかった。ぶつかって気がついた」と言っているそうだ。つまり対向車が来ることを意識せずに直進走行からそのまま右折を始めたことになる。

もしこれが真実だとしたら恐ろしいことだ。右折と直進では直進が優先だから、右折車は待たなくてはならないところを行ってしまったということだ。このままなら一番責任が重い第一当事者なるだろう。やはり運転中は常に緊張感を持って安全運転しなくてはならない、ということしか言えない。

・直進車はブレーキをかけられなかったか?

直進車の立場ではどうだろう。

直進車のドライバーは青信号で進んでいたようだ。当然の権利として右折車がいてもこちらが優先だから待つ必要はないと考え、そのまま交差点を直進していった。ところが交差点の真ん中付近で対向車線から右折車が突然飛び出してきた、ように感じただろう。ブレーキをかける間もなくぶつかってしまいそうなので、とっさにハンドルを左に切った。しかし右折車の右側と直進車の右側がすれ違うようにぶつかってしまった。正確にどれくらいハンドルを左に切ったのかはわからないが、右折車とぶつかった衝撃も伴って直進車の進路は左の歩道に向かっていった。しかしこの段階で、歩道に乗り上げて奥まで行ってしまわないようにする方策はなかったのだろうか?

1つは急ブレーキだ。もし右折車が飛び出してきた瞬間に急ブレーキを踏み始められれば、時速60kmで走行していたとすると制動距離は13mくらいだからギリギリ歩道にかかるくらいで止まる可能性がある。とは言ってもブレーキペダルを踏むまでの反応時間が必要だから、飛び出してきた右折車をどこで発見したかによって間に合うかどうかは微妙である。反応時間は通常1秒と言われているが、時速60kmでは1秒間に16.7m進むから急ブレーキの制動距離13mを加えると約30mになり、完全に交差点を飛び出してしまう。

不思議なのが通常の右直事故と違って右折車の右側を擦るようにぶつかっているから、直進同士の対向車とぶつかったようなクルマの傷跡に見える。もしかしたら交差点の中央で右折したのではなく右折車は手前から斜めに曲がっていったということも考えられる。そうすると乗り上げた歩道に近いところでぶつかっているから、そこからブレーキをかけても止まる位置は歩道の上になる可能性は高い。

もう一つの回避方法はハンドル操作だ。もうブレーキをかけても間に合わないというケースではとっさにハンドルで避けようとする。今回もそのケースだろう。ここで大事なのは障害物(右折車)を避けるために左に切ったハンドルをそのままにすればクルマは左に向かってしまうから、また素早く右に切って戻さなくてはならないのだ。通常はこのような運転訓練を受けていないから、この危険回避ハンドルテクニックを一般ドライバーに要求するのは酷だろう。

直進車にとって対向の右折車が前に出てこない方法を考えなくてはならない。

ボディの色を目立つカラーにするという手もあるが、光の向きによって見え方が違うから難しい。少なくとも景色に溶け込んでしまうような色は不利である。

ヘッドライトオンは有効な手段だ。DRL(デイタイム・ランニング・ライト)はライトスイッチをAUTOにすれば昼間でもスモールランプを明るく光らせて自車の存在を目立つようにしてくれるが、日本でも装着車が増えてきている。これがない場合にはヘッドライトオンにしてロービームで走ると良いだろう。

雨の日には特に有効である。また太陽を背に浴びて走るときにも、対向車には逆光になるからヘッドライトオンが有効になる。

・スピードを落とすことも大事

もうひとつ大事なことがある。それは直進でも周りの状況をよく把握することが大事だ。今回の事故は、前方の歩道上に園児と保育士さんたちが見えていたら、クルマのスピードを少しでも落としておけばよかったと思う。

制動距離は速度の自乗に比例する。つまりスピードが2倍になれば制動距離は4倍、スピードが3倍になれば制動距離は9倍になる。スピードが上がるほど制動距離は飛躍的に伸び、スピードが下がると制動距離はうんと短くなるのだ。だからちょっとスピード落としただけでも最悪な結果へのリスクは大きく減るということだ。

・ガードレール等インフラ側の対策で防げなかったか?

今回の事故でガードレールが設置されていれば防げたのだろうか? タラレバなので明確にはわからないが、歩道に乗り上げた直進車がどこから歩道に乗り上げたのかが重要になる。この事故では縁石のところは通過していないのだ。つまり横断歩道のために縁石をなくしたところからクルマが入っているから、その横の縁石の場所にガードレールがあっても役に立たなかったことになる。

ではどうすれば良いのか?それは一段高くした通常の歩道にすれば良いと思う。そうすればクルマから歩道の上の歩行者(特に幼児)も見やすくなるし、車道から歩道にクルマで上がるためには段差を乗り越えなくてはならないから、歩車分離がしやすくなる。

今回の事例では、歩道を高くしても横断歩道のところがスロープになっていれば同じことのように思えるが、車椅子、乳母車、高齢者用乗り物のために横断歩道の半分の幅だけスロープにすればいい。そうすればクルマが突っ込んで来そうな方向は段差があるのでクルマでの侵入はある程度阻止できるのではないかと思う。

このような事故の安全対策は、一つでオールマイティなものはない。考えられることを地道にやっていくしか方法はない。

(文・イラスト:菰田 潔/写真:吉見幸夫2019年5月12日撮)