シャープでスリムなボディは美しいのか? 新型RAV4のデザイン開発に見る「新しさの創出」を考察する

●新型RAVのデザインテーマ「クロスオクタゴン」は成功なのか?

「デフォルメされたミニカー」などと揶揄されていたものの、乗用車ベースの初代RAV4は非常に優れたスタイルでした。バギーから発想した曲面ボディの独自性をはじめ、PP素材を前面に出したカジュアルさが秀逸でした。

2代目以降は海外市場を強く意識、先代ではついに北米でのベストセラー車の栄冠を手に。だから、新型がDセグメントへ成長したのはホンダのCR-V同様に自然な流れです。では、そのサイズはともかく、新型のスタイリングはどうでしょうか?

新型のデザインコンセプトは「Adventure & Refined」。つまり、力強さと都会的な洗練さとの融合。2〜4代目の豊かなボリューム感に対し、新型はよりスリムでシャープな面構成に。1855mmという全幅の割にスッキリして見えるのはそのお陰で、さらなる肥大化を避けたことに好感を抱きます。

ただ、残念なのはボディ全体に感じるガチャガチャ感。

たとえばフロントフェイス。キーンルック的な薄いランプの下に残された広大な敷地面積には、巨大なアッパーグリルやらアンダーグリル、同じく妙にデカい左右のフォグランプベゼルで顔中が穴だらけです。さらに「アドベンチャー」シリーズは、各要素をリフトアップさせたことでガチャつき感が100倍アップ!

一方、ボディ全体には「クロスオクタゴン」という造形テーマが掲げられました。これは図のとおりふたつの八角形を組み合わせる発想で、ボディのムダな角を削ると同時に、キャビンとボディの結合に力強さが出るというアイデア。初期案がどれもイマイチな中、若手から出された新発想にデザインは一気に進んだそうです。

なるほど、フロントウインドがカウルに「差し込む」あたりは面白いのですが、ふたつの立体を組み合わせることで、リアピラーからフェンダーへのラインとメインのキャラクターラインが交錯するなど、とにかく多くのラインや複雑な面が入り組んでいます。

若手の新しい発想で視界が開けたという説明は「お話」としては面白いのですが、カーデザインにはそうした「妙案」や「新発想」がなければいけないのか、筆者はそこに疑問を感じます。

これは、レクサスUXが掲げた「ヒューマン・センター・シルエット」にも似ていて、実際のカタチがどうという前に理屈の方が先行してしまう。逆に言えば、理屈に合っていれば「いいデザイン」だという風潮に違和感を持ってしまうのです。

もちろん、初代のバギーのように、プロダクトデザインにはしっかりしたコンセプトが必須です。しかし、それは理屈と言うよりも、デザイナーが思考するあるべきイメージ、美しさを追求するための手掛かりのようなものではないでしょうか。

新型RAV4は「J-factor」「キーンルック」といったトヨタの上位のデザインフィロソフィに加え、開発車に「クロスオクタゴン」というテーマを設定したことで、より美しくスタイリッシュにという、根本的なデザインの本質をどこかに置き忘れてしまったような気がするのです。

そうそう、ツートンカラーのボディなど「ボルボXC40とそっくり」という話や記事が頻出しているそうですが、それはまったくの見当違い。両社にとってまったく迷惑な話でしょうね。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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