【自動車用語辞典:電動化技術「概説」】多様な電動車の特徴とメリット・デメリット

■EVとHEV、PHEVに大別できる

●20年で目覚ましく進化した電動化技術

「地球温暖化対応のCO2削減」と、「化石燃料依存からの脱却」のアプローチとして、EVやPHEV、HEVなど電動車が期待され、この20年の進化には目覚ましいものがあります。多様化する電動化技術、EV、PHEV、HEVなどの基本技術について、解説していきます。

●地球温暖化

地球の温度上昇については、2050年までに2℃上昇(1990年比)するという予測があります。地球の平均温度が上がると、生態系の変化や海面上昇による沿岸地域の消滅、食物の生産性の低下、洪水や暴風雨被害の増加などが引き起こされます。

地球温暖化の原因は、CO2やメタン、フロンガスなど、断熱効果の高い温室効果ガスの増加です。この地球温暖化防止の観点から、各国で厳しい燃費/CO2規制が設定されており、自動車には高い燃費低減が要求されています。

●電動車の歴史

電気自動車は、1886年にベンツがガソリン3輪車を完成する前、1873年にイギリスで実用化されました。しかし、1900年頃には、進化したガソリン車が主流となり、課題の多かったEVは姿を消しました。

1970年代には、オイルショックや公害問題によってEVが注目されました。1990年にはCARB(カリフォルニア大気資源局)の「ゼロエミッション(ZEV)規制」によって開発が加速しましたが、やはり航続距離や充電時間、コストの課題が解決できず、普及には至りませんでした。

●ゼロエミッション規制

ゼロエミッション規制とは、自動車メーカーに対して、有害ガスを排出しないEVを一定台数以上販売しなければならないという規制です。1998年に、カリフォルニア州の自動車の2%をEVにするという内容で発効されました。

1990年代に入って電池、モーターなどの要素技術が飛躍的に進み、1997年、ついにトヨタのプリウスHEVが発売され、本格的な電動化時代がスタートしました。

●電動車の種類

1) 電気自動車(EV)

外部電力源で充電した電池の電気エネルギーで、モーター走行します。
構造はシンプルで、電池とその充放電を制御するコントローラー、モーターとインバーター、車載充電器などで構成され、エンジン車で必要な変速機や吸排気系などが不要です。

1回の満充電で走行できる航続距離は、電池容量に依存するため、大量の電池を搭載する必要があり、コストが高いことが最大の課題です。

2)ハイブリッド車(HEV)

エンジンとモーターを動力源として、運転状況に応じて両者を効率よく使い分けます。比較的大容量の電池とモーターで積極的に電気エネルギーを使うフル(ストロング)HEVと、小容量の電池とモーターを発進時や低速走行に限定的に使うマイルドHEVがあります。

システムとしては、次の3方式があります。

  • パラレル方式
    エンジンとモーターを駆動力として使い分けますが、あくまでエンジンが主役でモーターは補助的な役割です。
  • シリーズ方式
    エンジンは、電池の発電専用として使い、エンジンで充電した電池で全域モーターで走行します。
  • シリーズ・パラレル方式
    パラレルとシリーズの良いとこ取りのシステム。エンジンの出力を発電用と駆動用に使い分け、エンジンとモーターの駆動力を合成して走行します。

それぞれ一長一短があり、効率が良いのはトヨタプリウスが採用しているシリーズ・パラレル方式ですが、構成が複雑でコストが高くなってしまいます。

3)プラグインハイブリッド車(PHEV)

HEV車にプラグイン外部充電機能を追加して、EV走行距離を大幅に伸ばすことを目的としたシステムです。別の言い方をすると、EVの電池容量切れを解消するため、充電用のエンジンを搭載したシステムです。

EVとHEVの中間的な特性で、最終目標のEVまでのつなぎ役のシステムかもしれません。日常的な走行では、EVとして使えるためHEVよりも経済的です。


本章では、多種多様な電動車(EV、HEV、PHEV)のそれぞれの特徴とメリット・デメリットの詳細について、個々に解説していきます。なお、FCV(燃料電池車)も電動車に分類されますが、別章で解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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