【自動車用語辞典:電動化技術「インホイールモーターEV」】ホイールの中にモーターを配置して車輪を独立制御

■コストやモーターの小型・軽量化が技術的課題

●まだ開発段階の有望な技術

現在普及が進んでいるEV(電気自動車)のその先にある将来有望な技術として、インホイールモーターEVがあります。各駆動輪のホイールの内部にモーターを配置し、2輪または4輪を独立して制御するシステムです。

現在はまだ開発段階ですが、インホイールモーターのメリットとデメリット、課題について、解説していきます。

●インホイールモーターとは

通常のEVでは、エンジン車のエンジンの位置にモーターが配置され、駆動力はドライブシャフトを介してタイヤに伝えられます。

インホイールモーターでは、駆動輪のホイールの内部にモーターを配置して直接タイヤを駆動させるシステムです。直接駆動ではなく、ホイール近傍にモーターを配置して短いドライブシャフトを介してタイヤを駆動させるシステムも、インホイールモーターに含まれます。

駆動方式としては、モーターがホイールに直結しているダイレクトドライブ方式と、減速機を介してトルクを増幅するギアリダクション方式があります。
ダイレクトドライブ方式が理想的ですが、搭載スペースには限りがあるので高トルクの大きなモーターを搭載するのは困難です。限られたスペースでモーター本体を大きくすることなくトルクを上げるには回転数を上げ、減速機を付ける方がより現実的です。

●インホイールモーターのメリット

インホイールモーターには、多くのメリットがあります。

・各駆動輪のそれぞれに最適な駆動力を発生させることができるため、適正な駆動輪独立制御によって操作性、安全性が向上します。

・タイヤを直接(または、ほぼ直接)駆動するのでレスポンスが向上し、伝達ロスが軽減するため駆動効率が向上します。

・デフやドライブシャフト、エンジンが不要なので軽量化でき、クルマのスタイルや車室などのレイアウトの自由度も増します。

・タイヤの切れ角が大きくとれるので、平行移動など方向転換が自由にできます。

●インホイールモーターのデメリット

実用化に向けては、以下の課題を解決する必要があります。

・搭載スペースと重量の制約の中で、高効率高出力のモーターが求められます。

・モーター本体に直接路面からの衝撃が伝わるため、モーターには高い耐久信頼性が必要です。

・モーター搭載位置が低いため、浸水対策や石などの跳ね返り対策が必要で、またブレーキと隣接するため熱対策も必要です。

●インホイールモーターの開発例

NTNは、2018年4月にインホイールモーターシステムと車両制御技術に関して、中国の新興自動車メーカー長春富晟汽車創新技術(FSAT)とライセンス契約を締結したと発表しました。FSATは、このインホイールモーターを使ったEVを2019年から量産する計画です。

駆動方式は、インホイールモーター2基を使った前輪駆動で最高出力は35kW x2、最大トルクは704Nm x 2、最高速度150km/hと予想されています。
減速機付きで小型軽量化を図り、空冷にすることで全体を簡素化しています。また、マクファーソンストラット方式サスペンションのレイアウトでの組付けが可能で、足回りにEV専用の設計を必要としない大きな特徴があります。


今後実用化が期待されている将来有望なインホイールモーターですが、コストや小型軽量化などを含めてまだ技術課題は多いのが現状です。

やはり従来型EV同様、電池性能の向上やモーターの小型高出力化とともに、インホイールモーターシステムの実用化は進んでいくと考えられます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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