【自動車用語辞典:エンジン「フライホイール」】エンジンをスムーズに回す工夫。軽くするとレスポンスがアップ

■フライホイールの慣性力が回転低下を防ぐ

●クルマのレスポンスを左右する重要部品

フライホイールは、シンプルな構造ながらエンジンをスムーズに回すという基本的な役目を担いつつ、一方でクルマのレスポンスを左右する重要な部品です。

●なぜフライホイールは必要なのか?

4ストロークエンジンでは、次の4つの行程で構成され、4行程でエンジンは2回転します。

・燃料と空気をシリンダに吸入する「吸気行程」
・吸入した混合気を圧縮する「圧縮行程」
・圧縮した混合気に点火して、燃焼(爆発)する「燃焼行程」
・燃焼ガスをシリンダから排出する「排気行程」

この中で、ピストンを押し下げエンジンを回すトルク(仕事)が発生するのは、燃焼行程だけです。残りの3行程は、仕事はせず惰性(慣性)で回ります。このような間欠的なトルクの発生が、回転中のトルク変動や回転速度変動を引き起こします。

●フライホイールの原理

トルク変動の大きいエンジンをそのままクルマに搭載すると、クルマはガタガタでアイドルが不安定になりエンストしやすくなります。これを防止するのが、フライホイールの役目です。

フライホイールはクランクシャフトの後端に付ける重い円盤です。燃焼行程で発生したトルクは、クランクシャフトを回す回転力になり、回転を維持しようとします。ところが、次の排気・吸気・圧縮行程は、自力で回転できないので回転速度は低下します。特に、アイドルのような低速条件では、回転の落ち込んでいる時間が長いため、エンストしやすくなります。

ここでフライホイールが機能を発揮します。フライホイールがクランクシャフトにつられて回ることによって、フライホイールの回転の勢い(慣性力)が、回転低下を防ぐように働き回転を維持します。

フライホイールは、ちょうどコマ(独楽)と同じような働きをします。コマは径が大きく外周部が重いほど、安定して回ります。フライホイールも同じで、エンジンをスムーズに回転させるためにはフライホイールの径は大きく、円周部が重い方が効果的です。

●最適なフライホイールとは

フライホイールは、クルマが目標とする車両性能に応じて最適な設計をする必要があります。

慣性モーメントとエンジン回転速度の関係は、次のように表せます。

・回転させようとする力:エンジントルク(Nm) = 慣性モーメント(kgm2) × 角加速度(rad/sec2)

同一トルクで回転させる場合、慣性モーメントと角加速度(回転の上がりやすさ)は反比例の関係にあります。

フライホイールが重い(慣性モーメントが大)場合は、角加速度は小さくなりエンジン回転は安定します。言い換えると、レスポンスは悪化し、加速しづらく減速しづらくなります。逆にフライホイールを軽くするとレスポンスは良くなりますが、回転変動を抑えるという本来の効果が小さくなり、アイドルや低速時に回転が不安定になります。

モータースポーツに使うようなレース車輌ではレスポンスを重視して、できる限り軽量化を狙ったフライホイールを採用します。バランスを取りながら円盤に穴をあけたり、材質にクロームモリブデン鋼鉄やアルミ合金を使った軽量フライホイールが採用されています。

なおトルコン付きAT車では、トルコン自体が大きな慣性重量になりトルク変動を吸収するため、フライホイールは必要ありません。


エンジン技術が日々進化する中で、昔からずっと変わらない目立たない存在ですが、重要な役目を担っている貴重な部品です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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