【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判】スタイルにも源流対策を投影した超日本的高級セダン。第43回・トヨタ セルシオ(初代)

●ドイツの自動車メーカーにも影響を与えた初代・セルシオの正統派デザイン

80~90年代日本車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。今回は、目に見えない奥ゆかしさや感性を磨き上げることで日本を表現した、超高性能ラグジュアリー・セダンに太鼓判です。

バブル景気の勢いに乗り、クラウンの上級クラスとなるレクサスブランドを立ち上げ、北米など海外へ進出したトヨタ。そのトップモデルであるLSシリーズの国内版として投入されたのが、1989年発表の「初代セルシオ」です。

基本コンセプトは「ワールド・ワイドに通用するハイパフォーマンス・ラグジュアリーカー」。欧州勢の後追いではなく、合理性をあえて表に出さないことが日本らしさと仮定。きめ細やかな感性を表現したスタイルは極めて正当派で、奇をてらったところがまったくありません。

ウエッジを抑え、空力追求も大きくアピールしない水平基調のボディは、しかし丹念に磨き込まれた高質さを提示。端正に切り込まれたプレスドアとともに、パネルには徹底された面一化が施され、柔らかな中にもカッチリとした重厚感が漂います。

極細のキャラクターラインが引かれるシンプルなボディサイドは、下半身のウレタン樹脂カバーが程良いアクセントに。大きくラウンドしたリアガラスとフェンダーのつながりも極めてスムーズで、引っ掛かりや強引さは見当たりません。

サイドに回り込んだ厚いランプと、同じく横長のサイドマーカーやスリットを効かせたバンパーにより、正攻法でありながら独特の個性を得たフロントフェイス。同じく、横長の大型リアランプは日本車らしさと高級感を巧みにブレンドします。

ステッチのピッチはもちろん、ミシンの針までこだわった本革シートを採用したインテリアは、ボディ同様正統派のレイアウトながら極めて高い質感を醸成。ひとつひとつに高い質感を持つスイッチ類が、日本的な上質さを生み出します。

北米に長期間滞在したデザイナー達は、現地の文化を知ることで逆に日本らしさの本質を検証。たとえば東大寺の仁王像に美しさやエレガントさ、永遠を見出したといいます。

自己主張が欠如しているとされるスタイルは、しかし80年代のカローラなどが持つ高バランスのシンプルボディを極限まで磨き込み、その「源流対策」から生まれる個性を目指したといえそうです。

●主要諸元 トヨタ セルシオ C仕様 Fパッケージ(4AT)
型式 EーUCF11
全長4995mm×全幅1820mm×全高1400mm
車両重量 1790kg
ホイールベース 2815mm
エンジン 3968cc V型8気筒DOHC
出力 260ps/5400rpm 36.0kg-m/4600rpm(ネット値)

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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