これはギラギラデザインじゃない!? チーフデザイナーが語るデリカD:5のプレステージ性とは?

アッと驚くビッグマイナーチェンジを敢行し、間もなくデビュー予定のデリカD:5。ライバルに摺り寄ったかのような激変には、一体どのような意図があったのか。今回は、その考え方を中心に担当デザイナー氏の声を聞いてみました。

── 最初に言ってしまうと、僕は機能的な現行型のスタイルをとても評価しているのですが、デザイン部にはこれまでどんな声が届いていたのですか?

「そう言っていただけると嬉しいのですが、実は発表当初は結構賛否があったんです。それまでのスペースギアなどに比べると妙に四角く、かつ背が低くて乗用車的だという声ですね。もちろん、担当した私自身は実用的なモノフォルムボディとして自信を持っていましたが(笑)」

── それは意外でした。で、それこそ賛否渦巻く新型ですが(笑)、まず今回も謳われている「ダイナミック・シールド」について、そもそもの経緯を教えてください

「5年前に着任した國本恒博デザイン本部長が、これからは三菱のヘリテージを生かしたスタイリングを推し進めたいと表明しました。そこで、パジェロのバンパーやランエボのジェットファイターグリルなどをモチーフに「機能をカタチに」を標榜、プロテクト感のある表現を提示したのです」

── 最近、この手のデザインフィロソフィ的なものがチョットした流行ですけど、現場にはどうしても必要なものなんでしょうか?

「はい、必要ですね。やはり、メーカーのデザイン部は大所帯で各々がいろいろな考えを持っていますから、束ねるというか、思考のベクトルを揃えるという点からもあった方がいい」

── では、今回のマイナーチェンジの造形上のコンセプトを教えてください

「「Tough to be Gentle」です。この10年間でSUVも多様化が進みました。現行型は道具的な表現を提示しましたが、いまはインテリアを含めて快適性も求められている。新型は歩行者衝突要件もあってオーバーハングを伸ばしフードも上げたのですが、この厚い顔を利用することでプレステージ性を表現したわけです」

── ジェントルというより、単に人気のトヨタ・アルファードやベルファイアに近づけたように見えますが……

「いえ、そういう意識はなかったですね。まあ、プレステージ性が上がったという点ではライバルに並んだと思いますが。実は、フロントランプは最初からもっと上部にしたかったんですが、諸要件でできなかった。今回は、開発の過程で縦型のランプを提案したデザイナーがいまして、これで行こうと」

── デザインの過程では、このギラギラ方向以外の案はなかったのですか?

「試作モデルまで作ったのはもう1案あったのですが、基本は同じ方向でしたね。やはり10年ぶりのモデルチェンジとして、まずはしっかり「変化」を伝える必要がある。その点、デリカは大きな変化を繰り返す宿命なのかもしれませんね(笑)」

── その新型ですが、三菱ファンの大半が否定的だという声も聞きます。この賛否について、担当デザイナーとしてはどう捉えていますか?

「ファンの声の真偽はわかりませんが(笑)、そもそも私たちは「ギラギラデザイン」とは思ってないんです。たしかに写真では結構派手なんですけど、実車を見ると皆さん納得していただける。私は初代ミラージュの機能的な美しさが好きなのですが、今回も意味のあるデザインを心掛けています。まあ、とにかく実車を見て欲しい。それに尽きますね」

── たしかに写真と実車のイメージが違うことは珍しくありません。新型はまだ発売前ですから、今後の評価に注目したいと思います。本日はありがとうございました。

[語る人]

三菱自動車工業株式会社
デザイン本部 プロダクトデザイン部
プログラムデザインダイレクター
松延 浩昭 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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