いよいよシンガポールGP決勝! 大興奮!! 私の「押しドラ」はアロンソに決めました

いよいよフォーメーションラップが始まると、観客からの歓声や指笛が鳴り響き、それをかき消すように色とりどりのマシンが咆哮をあげながら目の前を駆け抜けていきます。全車コースを一周し、スターティンググリッドにつくと、すぐにシグナルがひとつずつ点灯しはじめました。1、2、3、4、5・・・ブラックアウト! 20台のマシンが一匹の大きな蛇のようにざわっとのたうちます。

トップのハミルトンは全車を率いてまっすぐ1コーナーをめがけて飛び込びました。2番手のマックス・フェルスタッペンがほんのわずかに遅れたのか、3番手のセバスチャン・ベッテルがあっと言う間にマックスを捕らえ、1コーナーで噛み付こうとします。それをすんでのところで回避するマックス、しかしベッテルは背後にぴったりと張り付いたまま。次の瞬間、ベッテルはスリップを使いマックスの横に飛び出して、サイドバイサイドに。2台は火花を散らしながら次のコーナーに飛び込みます。ブレーキ勝負で上回ったベッテルがほんの少し前に出て、アウトからマックスを鮮やかに抜き去りました。

と、この直後にセイフティカー導入のサインが。トップ集団が激しい争いをしていた後ろで、中段グループにいたフォースインディアのセルジオ・ペレスとエステバン・オコンがなんと同チーム内で接触。オコンがはじき出され壁に激突し、リタイアを余儀なくされてしまったのです。

スタートから1分も経たないうちの出来事。息つく間もないとはこのことでしょうか…。オコンのマシンの回収が終わるまでセイフティカーランは続きます。しばらく経ったとき、フェンスの向こう側をヘルメットを抱えながら歩く人影を見つけました。クラッシュでリタイアになってしまったオコンです。観客からはあたたかい声援が送られ、並々ならない心境であるはずのオコンも手を振って応えてくれました。

セイフティカーが入ったため、各チームは一度だけタイヤ交換を行うワンストップ作戦に出ました。シンガポールGPではハイパーソフト、ウルトラソフト、ソフトの3種類のタイヤが指定されており(ドライ時)、順に「グリップ力が高いが劣化しやすいタイヤ」から、「グリップ力は落ちるが劣化しにくいタイヤ」となります。これらをどうマネジメントするかも重要な勝利への鍵です。

Q3まで進んだチームは、決勝スタート時にはQ2で最速タイムを出したタイヤを使用しなければならず、上位10チームは必然的にこのユーズドのハイパーソフトタイヤを履くことになります。ワンストップで行くには、次のタイヤは後半も走りきれるウルトラソフトかソフトのいずれか…。ピットアウトする各車が何色のタイヤを履いているか見るだけでも、チームごとの作戦が見え隠れして面白いです。上位チームはフェラーリのベッテルとレッドブルのリカルドがウルトラソフトに、その他のドライバーはハミルトンを筆頭にソフトタイヤへと履き替えました。

先ほど壮絶な2位争いをしていたベッテルとマックスは、レッドブルチームの迅速なピット作業もあって、ピットアウト後にマックスが辛うじて前へ出て2位に浮上。ここからベッテルはマックスに抑えられ続け、ウルトラソフトタイヤの性能が徐々に落ち、ソフトタイヤを履くマックスに引き離されてしまいます。F1では0.1秒、いやもっと一瞬の出来事でも勝敗が分かれてしまうことをまざまざと見せつけられました。

ハミルトンはソフトに履き替えてからも抜群の安定感かつ驚異的な速さで周回を重ねていきます。メルセデスの堅実さと強さを象徴するようなシルバーのボディがハミルトンにはよく似合います。レースは最後までわからない、そう思いますが、ハミルトンが目の前を通るたび彼の1位を確信してしまう自分がいます。

シンガポールGPはオーバーテイクが難しいコースなので、一旦レースが落ち着くとそこからの順位変動は少ないのです。そんなひと段落した空気のなか、気になって毎周目で追ってしまうマシンがひとつありました。オレンジ色のマクラーレン、#14のフェルナンド・アロンソです。

なぜか「彼はものすごくいい走りをしている」と直感で分かります。不思議なのですが、レースに詳しくない私でも、走っているマシンを見続けていると、だんだんその挙動や雰囲気だけで「凄み」のようなものが嗅ぎ分けられるようになるらしいです。

11位から7位まで浮上したアロンソは、ほとんどまわりにマシンがいない単独状態で走っています。それでも毎周毎周ベストを塗り替えているような、そして絶対塗り替えてやるといわんばかりの気迫を感じました。「アロンソ、なんてかっこいいんだ……」、その気持ちを自覚した瞬間、急に私はアロンソのファンになってしまいました。

来シーズンはF1の舞台を降りると発表しているアロンソですが、これからもドライバーとして応援しようと心に決めました。

のちほど日本へ帰ってから調べたところ、ソフトタイヤでのファステストはハミルトンで、なんとマックスを抑えて2位を飾ったのはアロンソだったといいます。マシン性能に大きな差があるなか、メルセデスに次ぐタイムを出したアロンソをますます好きになってしまいました。

これだけ目の前でひとりひとりのドライバーの命を賭した究極の戦いを見ていると、彼らのすべてを見せてもらっている感覚になります。だからこそファンも心から感情移入してしまうのでしょう。

シンガポールの夜空にチェッカーフラッグがはためきます。堂々のチャンピオンを飾ったハミルトンを祝福するように、コースサイドから盛大な花火があがりました。大きく花開く花火の音と、高らかなエンジン音が入り混じります。最高の瞬間です。ここにいるすべての人が、ドライバーもメカニックもエンジニアもオーガナイザーもファンも関係なく、ひとつのイベントに熱狂できることに感動していました。

また絶対この場所に戻ってこよう。飛行機に乗り込み、遠ざかるシンガポールの眩い街並みを見ながらも、その思いは消えませんでした。

(伊藤 梓)