歴代を徹底検証して見えた「らしさ」── 20年間を生き抜くセンチュリーのデザインとは?

新型センチュリーが好評です。日常的に接する機会が少ないこの高級車が多くの自動車ファンに支持される理由とは? 今回はデザイン面から迫るべく、担当デザイナー氏に話を聞きました。

── まずボディ全体からお聞きします。今回の現代化にあたって、プロポーション自体を変化させる必要はありましたか?

「変化させることが目的ではなくて、後席に乗られる方を中心に考えてプロポーションを「深化」させたということですね。具体的には、歴代の水平姿勢によるエレガントな佇まいを守りつつ、後席優先を感じさせるように、やや後ろ下がりのトルソー(胴体)にウエッジ調のキャビンを載せ、しなやかな動感を表現しています」

── フロントフェイスについてお伺いします。上下に厚みを持つ顔の中で、ライトやグリルを上部にまとめました。たとえば、クラウンのように縦方向に延ばさなかったのはなぜでしょう?

「それは、センチュリーのヘリテージを継承するためですね。堂々としながらも、威圧感を感じさせない奥ゆかしい表情を継承することが、センチュリーとしてもっともふさわしいと考えたわけです」

── そのグリルですが、現代的な「格子」のデザインとはどのようなものだと考えましたか?

「グリルは、先代から輪郭を継承しつつ前後二重構造にすることで、遠目のシンプルさと近目の精緻さを両立、時代の進化を表現しました。縦格子の奥にある七宝柄は縁起がよいとされる「吉祥文様」で、このクルマに乗られる方への思いを込めています」

── サイド面に移ります。キャラクターラインの上面を凹面としたり、ホイールアーチの張り出しを控えめにした意図は?

「まず、ショルダー面とサイド面を明確に分けながら「几帳面」という手法を取り入れ、精度感を表現してボディの前後の伸びやかさを強調させる意図です。また、ホイールアーチについてはタイヤを主張させるのではなく、ボディの張りや伸びやかさを大切にしたかったので、あえて張り出しを抑えているんですね」

── 重厚感を出すために、たとえばプレスドアを使うような提案はありませんでしたか?

「いえ、当初からサッシュドアで考えていました。今回は窓枠を額縁と捉えたイメージで表現したかったので、そのためにはアルミサッシュがいちばんふさわしいと考えたんです」

── 次にリアです。ノッチ部分はリアピラーの面をそのままトランク上面に流すのではなく、逆にノッチのラインをリアピラーに差し込んだのはなぜでしょう? また、リアランプのモチーフである「和の光り」とは?

「ノッチのラインを延ばすことで、サイドから見たトランクの厚さを軽減でき、同時に伸びやかさを付与することができるんですね。リアランプは、線発光の集合体とすることで、繊細さとともに後続車に刺激を与えないやさしい光を実現しています」

── 最後の質問です。今回は21年ぶりのモデルチェンジですが、20年間を生き延びるデザインとは一体どんなものだと考えていますか?

「今回のモデルテェンジは「式年遷宮」というコンセプトでデザインしました。歴代を徹底的に再検証することで「センチュリーらしさ」を見出し、それをボディに入れ込むことで、時代や流行に左右されないデザインができたと考えています」

── 歴代の検証やヘリテージは欧州高級車の開発に通じる考え方です。もしかしたら、ここに日本車デザインのヒントが隠されているのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

[語る人]
トヨタ自動車東日本株式会社
デザイン部 第2デザイン室 3グループ
ゼネラルマネージャー 高橋 潤 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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