80~90年代の日本車からグッドデザインを振り返るシリーズ。第36回は省資源と走りを両立させた、新時代のFFライトウエイトスポーツに太鼓判です。
省エネ・節約が叫ばれる1983年、2度目のF1参戦を果たしたホンダは超省資源の50マイルカーを標榜。小さく、軽く、そして高性能なコンパクトを新時代のスポーツとして捉え、まったく新しい乗り物として送り出したのがバラードスポーツCR-Xです。
「エアロライナーシェイプ」と名付けた全長わずか3675mmのボディは、省資源とスポーツを両立する超空力スタイル。サッシュレスドアによりフラッシュサーフェス化は徹底され、ガラスとボディの段差は3mmに収まります。
セダンに準じるフロントは、低ボンネットを生かすセミリトラクタブルライト。シビックファミリーでありながら独自の表情を獲得。一方、コーダトロンカ風のリアパネルは弾丸ボディを形成し、横長のブラックガーニッシュが低さとワイド感を醸し出します。
余計なラインを廃したサイド面は、赤いラインを引いたグレーとのツートンカラーが新しい質感を表現。リアベントガラスは、絞り込みにより3次元曲面ガラスを採用し、後ろ姿にもクオリティ感を与えます。
インテリアは、ラップラウンドタイプのスラントパネルが低さと開放感を表現。F1をイメージするトライアングルメーターパネルが機能性を演出します。バケットシートのチェック柄は、当時のホンダのカジュアルなセンスを感じさせるもの。
切り落とされたリアのコンパクトボディは、60年代のアルファロメオを彷彿させます。けれども、そもそもはコミューターから発想したというスタイルは、スポーツカーのまったく新しい表現として生まれました。
それは、後にビートを送り出す実にホンダらしい柔軟で豊かな企画でした。何より、並行開発のワンダーシビックであれほど斬新なスタイルを打ち出しつつ、同時にまったく異なる個性を創出するデザイナー陣に圧倒されるのです。
●主要諸元 ホンダ バラードスポーツCR-X 1.5i(5MT)
形式 E-AF
全長3675mm×全幅1625mm×全高1290mm
車両重量 800kg
ホイールベース 2200mm
エンジン 1488cc 直列4気筒SOHC12バルブ
出力 110ps/5800rpm 13.8kg-m/4500rpm
(すぎもと たかよし)