80年代前半、ショップカーではない、いちオーナーのプライベートマシンで注目されていたクルマで1番に思い浮かぶのは、日本初300km/hオーバーを記録した「光永パンテーラ」ですね(1982年2月号掲載)。
そして、次に強く記憶に刻まれているのが、この「武田ポルシェ」ではないでしょうか。ワークスをも凌ぐ勢いを持つ、この武田ポルシェの全貌を見てみましょう。
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最高速チャレンジャー・3.4Lスーパースペシャルの怪物 武田ポルシェRSR3.4
メインジェットのセッティングミス、それでも272.21km/hをマーク
最高速にチャレンジした武田ポルシェは、ファクトリー製レーシングカーをも上回るスーパーチューン。ノンターボとしては、世界最高峰の実力を持つストリートカーだ。そのチューニングの全貌を明かそう。
ポルシェのレーシングエンジンといえば、現在(83年)はターボが主流であり、メカニカルチューンの、いわゆるRSR用ユニットは、WRCラリー用やマイナーイベントでわずかに使用されているだけとなっている。ワークスのメカチューン開発も、74年以降はほとんど行われていない。
911用の空冷水平対向ユニットは、64年に1991ccで登場して以来、数々の改良と排気量アップが行われてきたが、この間に2回の大きな変革がある。
最初は68年8月のBシリーズ911から行われた、クランクケースをはじめとする主要エンジンパーツのマグネシウム合金化であり、2度めが3.3Lターボが登場した77年8月のLシリーズからのエンジンの全面改良だ。
ここで注目したいのは、2.8L、3LなどのファクトリーRSRエンジンは、いずれも2度めの大変革以前に開発されたユニットであり、3.3Lターボから採用された数々の強化パーツは使用されていない、ということだ。
つまり、3L RSRユニットをベースに、現在(83年)の3.3Lターボ用パーツを流用すれば、74年当時のワークスを遥かに凌ぐメカチューンエンジンを作ることが可能なわけだ。
武田氏とチューンを担当したアウトバーン・モーターが目をつけたのも、まさにこの点で、3.4Lという排気量も、かつてワークスでは作ったことのない特殊なものとなっているのだ。
こうしたテクニックが多用できるのも、シリンダーとクランクケースが分離した空冷ユニットならでは。パーツさえ入手すれば、それこそ2Lから3.5Lまで自在にセッティングできる。
【基本パーツ】武田車のクランクケースは、ワークスRSRの95mmボアをより拡大するために、3.3Lターボ用を使用する。シリンダーは98mmボア。ドイツのマックス・モリッツ製で、シリコンを含むライナーなしのアルミ合金製。これに、鉄メッキしたアルミ製ピストンを組み合わせる。
これに対してクランクは特製のレース用鍛造が使われている。詳細は明らかに出来ないが、3.3Lターボ用の74.4mmよりもさらにロングストロークで、これにより排気量は3424ccになっている。
【細部パーツ】ヘッド、カムなどは、3L・RSR用。49/41.5mmのバルブ径ヘッドはもちろんツインプラグで、わずかに面研されて、圧縮比を10.5から10.8へと上げている。ポート径はIN、EXともに43mmだ。カムは2Lレーシングエンジンのカレラ6からずっと使われているレーシング用で、IN12.2mm、EX11.6mmリフトの3L・RSRタイプ。
垂直型の空冷ファンと、駆動用プーリーファンの中央に内蔵するオルタネーターなどは小径のRSR用で、エンジンを取り囲む空冷シュラウドもすべてFRP製。
キャブレーションは古典的なウェーバー46IDSトリプルチョーク2連装。エンジン出力は350ps以上。しかも、メーカーでは8000rpm、100時間OK!という保障をしているという。ル・マンを4回走ってもオツリのくる耐久性だ。
【補器類】エキゾースト系はステンレスのRSR用で、タコ足は一度、エンジン前方に向けてのび、そこで集合した後にUターンしてメガホン形状になる。おそらく、排気系のこの取り回しに高回転ユニット(レブ8800rpm)にもかかわらず、ストリートでも使える中低速トルクの厚さがあるという、このエンジンの秘密が隠されているはずだ。武田車では、このメガホンにラリー用マフラーを組み合わせて使う、911R以来の手法をとる。出口径83φのデュアルという、排気効率の優れたものだ。
フライホイールは、3.3Lターボ用。電気系では8針のダブルイグニッションという、935用のシステムを使用。
クラッチはボール&ベッグのメタル。シングルを最高速用、ツインプレートをゼロヨン用に使い分けている。同じようにミッションも、最高速用が5速915型の4.400ファイナル。ゼロヨンでは同じ915型のクロスレシオ(1/2/4速)に4.429のrs2.7&3.0用ファイナルを組み合わせる。
このように、武田ポルシェは、単に巨額の費用をかけているというばかりでなく、入念な研究と経験をもとにして作られたユニットといえる。
次の目標はターボ。ノーマルですでに300ps。レースでの最高チューンは3.2L+ツインターボで、800psを軽く超える。
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プロのアドバイスとノウハウも積み込まれているとはいえ、ここまでのマシンをいちオーナーマシンとして作り上げるのは、そりゃいろいろないと出来上がりませんねぇ。ウラヤマシ〜でございます!
[OPTION 1983年6月号より]
(Play Back The OPTION by 永光やすの)