80〜90年代の日本車からグッドデザインを振り返るシリーズ。第5回は、時代を先取りしたパーソナルセダンに太鼓判です。
ローレルともスカイラインとも違う、まったく新しい小型上級セダンを作りたい。1988年、遊び心を表現するべく起用した、井上陽水のユニークなCMとともに登場したのが初代セフィーロです。
ソフト・シェイプなボディは、前年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカー、ARC-Xで打ち出したテーマ。従来の「大きく見せる」造形から一転した、当時の日産の勢いを感じる表現です。
フロントは全面を樹脂パネルでカバー、特徴的なプロジェクターランプを収めつつ独自の表情としました。これはダーク調でまとめたリアパネルも一緒で、シンプルなボディと同一化させた意欲的な発想です。
ボディ全体は柔らかな形状ですが、プレスドアによるピラー表現は力強く、決して貧弱なイメージはありません。シンプルなサイド面は、短いモールとプレスライン1本という最小限の材料で、絶妙のアクセントを生んでいます。
インテリアでは、インパネもまたシンプルな面で構成され、骨太感を兼ね備えました。また「ダンディ」と名付けたファブリックは非常に高い質感を持ち、肩口まで生地で覆ったドア内張りとともに豊かな空間を演出。
採用案につながるキースケッチを描いたのは、後にアウディで活躍した和田智氏。上辺の表現ではなく、シンプルで本質的なデザインを標榜する氏の発想は、まったく新しいセダンという企画にマッチしたようです。
現在では、欧州勢を筆頭に4ドアクーペと称されるスタイリッシュなセダンが市場に溢れていますが、80年代後半には時代を先取りした国産セダンが誕生していました。時代を問わず、クルマの開発において高い「志」がいかに大切なのかを物語っているようです。
●主要諸元 日産セフィーロ(4AT・HICAS-Ⅱ)
型式 E-A31
全長4690mm×全幅1695mm×全高1375mm
車両重量 1350kg
ホイールベース 2670mm
エンジン 1998cc 6気筒DOHC24バルブターボ(RB20DET)
出力 205ps/6400rpm 27.0kg-m/3200rpm
(すぎもと たかよし)