スバルの日本専用車WRX S4は「動的質感」を象徴する力作

 

スバルの考える「動的質感」の向上においてキーワードとなっているのが『過渡領域』です。ドライバーの操作と動き出すまでが過渡領域。ここでの応答性は、そのままドライバーの期待値につながります。

仮に、過渡領域が穏やかであれば、ドライバーはその延長線上にある挙動を期待しますが、過渡領域を過ぎてからの挙動が大きく変化するようでは、期待値とのギャップが大きくなり、仮に絶対的な性能(数値)としては優れていても、動的質感においてはマイナスという評価になるといいいます。  

subaruWRX_S4_007

たとえばエンジン。ピーク値で何馬力あったとしても、その出方が唐突であれば扱いづらく、ドライバーが性能を引き出すのに苦労しかねません。だからといって絶対的なパワーが足りないというのも、また動的質感においてはマイナス点となりましょう。

その点において、現行スバル・ラインナップにおいて、WRX S4の直噴ターボFA20 DITとリニアトロニックCVTの組み合わせは、ひとつの理想にあるといえます。たしかにWRX STIのEJ20ターボはパワフルさにおいて実際のスペック以上に力強いものですが、マウントの硬さに起因するのか、出力特性によるものなのか、アクセルのオン/オフによる挙動変化が大きく、限界域を多用するスポール走行には合っている面もありますが、市街地走行ではけっして過渡領域の振るまいに満足できるとはいえません。

一方、WRX S4のパワートレインは、CVTとの組み合わせがブーストのドロップも防いでくれますし、オン/オフでのシェイクも少なく、マイルドでパワフルな仕上げとなっています。今回、パイロンで区切ったクローズコースで全開することもできましたが、オーバーシュートでのブースト圧は151kPaとフルブーストまで使い切ることができました。ちなみに、同じコースをWRX STIで走ると、最大ブーストは130~140kPa。ギア比のちがいもありますが、パワフルなエンジンを使い切る難しさも感じさせられたのです。

こうしたエンジン特性からも、おそらくスバルの目指しているであろう動的質感の向上は、WRX S4の示す方向ではないかと感じさせられます。

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
続きを見る
閉じる