5ナンバーサイズは、もはや税制とはまったく無縁になってしまった昨今ですが、クルマ選びにおいて全幅を気にするユーザーはまだ多数派といえるでしょう。
全幅にまつわるエピソードといえば、約半世紀に渡るカローラの歴史をさかのぼってみると、とても興味深いデータがあります。
1966年に生まれた初代カローラの全幅は1485mm。現在の軽自動車よりわずかに大きい全幅でした。
その後はモデルチェンジごとに、数mm~数十mm単位で、小刻みに拡幅していきます。数字の流れでみると、1485→1505→1570→1610→1635→1655→1680→1690→1695mmと、僅かずつ、しかし確実に成長してきたのです。
しかしその“成長”にも、現行カローラ・アクシオをもって終止符が打たれました。初めて、先代の全幅をキープしたまま登場したのです。
これは、ひとつの転換点ともいえます。考えてみれば、道路法で決まっている公道を走行できる自動車の幅の制限は「2.5m」。これ以上は特殊車両の扱いですから、すべての乗用車はこの範囲に収まる必要があります。さらに言えば道路の幅も、最大でも3.5m(1車線)なのは変わりません。
すべてに制約があるなかで、自動車だけが肥大していくわけにはいかないのです。
サイズアップの最大の背景は、クルマ特有の消費形態にありました。可処分所得が右肩上がりに増えていった時代なら、自身のライフステージに合ったクルマへと順次ステップアップしていくのが普通でした。
しかし、先行きの見えにくい時代に突入し、「いつかはクラウン」のような、人生と愛車がリンクしながらステージアップしていく姿は過去のものになりました。
一部ハイエンドな方々を除き、多くの人々にとっては、「身の丈」に合ったクルマ選びが求められています。
ここであらためて、ボディの「幅」にこだわって、セダン選びをしてみたいと思います。
トヨタ・カローラアクシオ
販売台数ではプリウスファミリーに水を空けられていますが、“ニッポンのセダン”といえばカローラ。前述のとおり、1700mm以内にきっちり収まる1695mmの全幅です。
これは、モデルチェンジのたびに、歴代カローラを乗り換えているオーナーへの配慮です。一説には、3割以上がカローラ→カローラの乗り換えというデータもあるとか。高齢化も進んでいるため、ボディサイズを大きくすることができない事情もあるそうです。
海外仕様のカローラはサイズもスタイルも、輸出先の嗜好により細かく作りわけています。
日産ラティオ
かつてのカローラ vs サニーという対決は、現在は「アクシオ vs ラティオ」となります。年配ユーザーにとっては、変わってしまった車名に一縷の寂しさを感じるところでもあります。ラティオの全幅はカローラと同じ1695mm。エンジンは1.2リッターで、カローラよりひと足早くダウンサイジングしています。
スバル・インプレッサG4
XVの販売が絶好調、すっかり影が薄くなってしまったセダンがインプレッサG4です。インプレッサといえばセダンのイメージを払拭してしまったのは、クルマ作りと広告展開のスキのない戦略の成果です。全幅は1740mmありながら、ベーシックグレードは1.6リッター。ダウンサイジングのトレンドを取り入れています。
ホンダ・アコードハイブリッド
レジェンドなき今、ホンダの最上級セダンはアコードになりました。そのせいか、全幅は1850mmとワイド。全長もそれに合わせ4915mmと、迫力のあるサイズです。これだけのサイズでありながらリッター30kmの低燃費ですから、見栄とエコを両立しています。価格もギリギリ300万円台に収まっており、「売れない」理由をことごとく排除し、ヒットを狙っています。
スズキ・キザシ
スズキのキザシも紹介しておきましょう。先日、覆面パトカーとして大量配備が決まったばかりのスズキ・キザシ。お察しのとおり一般向けにはほとんど売れていないクルマですから、見かけたら面パトと思って間違いないでしょう。このキザシ、サイズのわりに全幅は堂々の1820mmもあります。サイズ的には、クラウンやレクサスISよりも幅広なんです。ヨーロッパ・北米を意識して車両安定性を高めるため、トレッドを広く確保したことが要因だとか。
こうして見てくると、国産20数車のセダンのうちで、全幅1700mmのクルマはアクシオとラティオのわずか2車のみ。エンジンのダウンサイジングは進んでも、全幅のダウンサイジングはこれから、といった印象ですね。
クルマ選びの際に忘れないでほしいのは、ドアミラーを含めた実質の全幅をチェックしておくのと、小回り性能については、カタログの「最小回転半径」やタイヤサイズもチェックするのも忘れないでくださいね。
(畑澤清志)