先日、パリはシャルル・ド・ゴール空港で超音速旅客機コンコルドを見ました。といっても現役ではなく、オブジェです。
音速を超える速度で人を運んでくれ、世界中で有名になったコンコルドですが、現役でなくなっているのにはワケがありました。
音速を超えて飛ぶ際に発生する衝撃音「ソニックブーム」が問題なのです。
ソニックブームは要するに大きな音なんですが、場合によっては地上にあるモノ、窓ガラスなんかを壊したりもしちゃうそうです。
そんなモノを壊しちゃう飛行機を飛ばすわけにはいかず、2003年以来、事実上「使えないもの」になっているようです。
しかし、単なる興味だけでも音より早く飛べる乗り物に乗ってみたいと思うし、多少料金が高くても早く移動したという需要は必ずあるはずです。
そうした中、日本の技術力でソニックブームを抑えれば超音速旅客機は再び必要とされるのではないか、という発想から、JAXAでは低ソニックブームの研究が行われてきました。
そして、まもなく低ソニックブームを実現すると思われる機体形状の実験機による実験が行われるそうです。
その機体を制作したのはあのスバルの富士重工業。富士重ではB787の機体の一部「中央翼」を制作したり、航空宇宙分野も大きな部門となっています。
その製造技術を見込んでJAXAから依頼を受けたわけです。
低ソニックブームとするための具体的くふうは、機体をまっすぐに作らず、波を打ったようにすること、後端部を四角くすることなどだそうです。
一見すると、空気抵抗には悪影響を及ぼしそうな飛行機作りのセオリーの逆のような手法で、ソニックブームを小さくすることができるそうなんです。
といっても、実際に目の当たりにしたその実験機は、スルリとしたロケットのような無機質なイメージより、イルカやカモメなど何か理由があって進化してきたと思わせる有機的な形状がなかなかカッコよく感じられます。この機体を造るのに富士重工業が選ばれたわけです。
それで、この機体を音速を超えて飛ばし、その時のソニックブームを計測するわけですが、この機体にエンジンはありません。超音速機で引っ張るわけでもありません。じゃあどうやって音速を超えるの?
なんと、気球で上空3万mまで引っ張り上げ、そこから自由落下! 落ちて行く間に音速を超え、地面に到着するんだそうです。
実際にはただ真っ直ぐ落ちるのではなく、音速を超えたら自律航法によりマッハ1.3、経路角50度で滑空させてソニックブームの波形を計測するのです。
この実験、プロジェクト名をD-SEND#2と呼ばれ、D-SEND#1ではロケット型の機体で既により基礎的なソニックブームの計測が行われました。今回は飛行機型の機体でさらに実現に近付いた実験と進化しているのです。
実験は2013年の7〜8月にスウェーデンのエスレンジ実験場(広さは100×70kmほど)で、気球のオペレーションはスウェーデン宇宙公社が行います、計測が終わった機体は回収せずそのままだそうです。
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この実験で将来何を実現しようとしているかと言えば、乗客数36-50人で全席ビジネスクラス、マッハ1.6で飛ぶ小型超音速旅客機が成り立つのでは、と考えられています。
国を挙げた次世代技術のプロジェクト、ぜひ成功させていただきたいですね。
(小林和久)