〈MondayTalk星島浩/自伝的爺ぃの独り言41〉 今ごろ3シリーズではなく、640iを話題にするには訳がある。
そもそもスポーツクーペとして独自の存在感を主張してきたBMW6シリーズが4ドアに改まると聞き、俄に乗ってみたくなった、その名もグランクーペ—-些か古い話だが、町内のBMW東京にも、まだ展示されていない昨年、梅雨の晴れ間に箱根ターンパイクを楽しんだ。
最もゴージャスなBMWとして日本市場で本命視される4.4L・V8搭載の650iは発売が遅れたが、今なおシルキーシックス=直6ファンは少なくないし、270万円の価格差からも640iが魅力的に映る。因みに640i=985万円。650iは1257万円に跳ね上がる。
BMW 6 Series Gran Coupe
なるほどグラン! 写真で見るよりずっと大きい—-むろん5シリーズの延長上ではなく7シリーズの兄弟分。5m超の全長5010mmやホイールベース2970mmも大きいが、やはり全幅1895mmに戸惑う。全高は1390mm。ガラスルーフが付いていた。
近づいて驚いたのは純白インテリアだ。前後シートはもちろんドア内張り、インパネ下側など柔らかな感触のホワイトレザーで、シフトレバー周りも白い。さすがに天井とピラー、インパネ上面が窓写りを嫌ったブラウン—-思い出したのは、友人所有のカルマンギア。四国は松山から1週間の新婚旅行で走ってきたのがホワイトインテリア。昔話で恐縮だが、確かカスタムビルダー=カルマンはBMWとも親しい間柄にある。
先代2ドアと比べ、後席乗降性向上は言うまでもない。どだいリヤサイドドアの開口形状なら今もBMWが世界一だ。私がよく言う、頭部出し入れ性に優れるほか、車内から開けていく際、見当が付く位置よりドアエッジが外に張り出さず、隣の車や壁などにぶつける心配がない。1400mmを割る全高にして、この後席乗降性は大いに称えるべし。
加えてホイールベース延長効果が足許に余裕をもたらしていた。運転手付きで乗るなら別だが、これなら7シリーズに負けないラグジュアリーな車格&存在感があり、6シリーズならではのスポーツ性能が大きなプラス。
ラゲッジスペースは浅めだが、分割可倒リヤシートを使えば、スキーやサーフボードなど長尺物も積み込み可能。
運転席はゆったり。感触はソフトだが、ホールド性は確か。ヘッドアップ・ディスフレイが小さく写るのは、10インチを超える横長ナビとの相関かもしれない。計器視認性や各部操作性にも問題はなかった。
V8は当然だが、640iの3L直6も同じくツインターボ。3気筒ずつ括れば排気干渉がない分、過給効果に優れ、アクセルを踏み加えると即、トルクが膨れあがる。もちろん8速ATとの組合せだ。
当初アイドリングストップ付きを疑ったら、3秒以上、停車が続くとエンジンが止まる。2秒がいいか3秒がいいかは微妙な処だが。
アップダウンとコーナリングを評価できる腕はなくなったが、走り始めて即、気づいたのは重めの操舵力。ベンツと異なる小径ハンドルには驚かないものの、駐車操作から100km/h走行まで全域で重い。ギヤ比も小さいようで、まことクイックな反応を示す。
BMW独特の後輪舵角制御の働きを駐車操作と高速コーナリングの両面で実感。些かバネは硬めながら、路面当たりが軟らかく乗り心地も良好の部類。ブレーキ踏力と制動能力&制動フィーリングにも感心してクルマを降りた。やはり4ドアが良し—-今ごろ慌てているのはベンツCLSかしら。
ところで、古い話を加えるのが爺ぃの独り言。
思い出すのは初代モデル。欧米車に強い同業ジャーナリスト=山口京一さんにミュンヘンのBMW本社に連れて行ってもらった。
初代520がマイナーチェンジする直前の1976年。共用プラットフォームに手を加え、アルミ材を多用した軽量2ドアクーペボディに3.3L180馬力を積み、対米を意識した3速AT仕様を事前試走する幸運に恵まれ、イタリアに近いアウトバーンを走らせた。トンネルの入り口が小さく見えたくらいだから、かなりの高速走行だったろうネ。
試乗後、ボブ・ラッツ社長とお話しできたのも望外の喜び。
ラッツ社長はアメリカ海兵隊の空軍パイロットを経て欧州GM=オペル社からBMW社長に就任。夜間、赤表示に変わる計器が社長発案のコクピット感覚と知って納得する。その後、真似するクルマが増えたっけ。
社長と山口さんが早口で話す内容は一部しか理解できなかったが、私が付き合っていたBMWレース用エンジンチューナー「ケン・マツウラ—-」の話を差し挟むや「あ、知ってる」と。即座にモータースポーツ担当のヨッヘン・ニーアパッシュさんを喚び、F2、ひいてはF1エンジン、M1レース構想に話題が展開していった。
ご存じ。BMWを退かれたボブ・ラッツさんはフォード副社長に続いてクライスラー社長、GM副会長を歴任。フォードでは世間がアッと驚く初代エクスプローラーを企画なさるなど、単なる経営者ではない、「クルマのわかる人」として高い評価を得た方だ。ベンツではない、VWやアウディでもない、BMWの個性的存在感はボブ・ラッツ社長時代に培われた。★