自伝的・爺ぃの独り言・07 星島 浩 <NボックスとNボックス+>

【MONDAY TALK by 星島浩】 Nボックス人気は正月休み中に茨城で販売店の人だかりを見て予測できたが、試乗して即、感心したのは「使い勝手」だ。6月には派生車種=Nボックス+(プラス)も加わった。軽に新たな個性が誕生した。

 ホンダは1972年にステップバンを発売したのに、営業的には成功しなかった。が、約20年前にスズキがワゴンRを出したときには、ステップバンの真似だとケチつけながらも、悔しがっていた。

 軽自動車を爆発的に普及させたのは1967年のホンダN360だった。が、生産の主力をシビックにシフトし、いち早く北米進出を図ったものだからワゴンRのスズキばかりか、追随したムーヴのダイハツにも水を開けられ、販売店から「なぜホンダは軽で売れ筋のハイトワゴンを出さないのか」と、長らく不満の声が挙がっていた。

 フィット絶好調時点で軽乗用車に力を注ぐべきかどうか迷いながら、ホンダの決意はプラットフォーム見直しだ。後席フロアの余裕を競ってきた現況を、思い切りラゲッジスペース拡大と使い勝手向上で新たな個性と需要開拓にと、発想を切り替えた。

 角張った背高で、軽規格で「これ以上、望めまい」と想わせる全身キャビン・パッケージは、従来ハイトワゴンではあり得ない前輪位置で納得する—-バンパー両端からフェンダーが立ち上がっている!

 ホイールベースが長いのは当然。前部にエンジンを載せない三菱iの2550mmを例外にすれば、Nボックスの2520mmは抜群。後輪位置は本来ぎりぎり最後部にあって他車と大差ないが、新プラットフォームは前輪を70mmも前に配した。トランスアクスル位置を想えば、超短いオーバーハング内に収めるにはエンジン前後寸法短縮が決め手になる。DOHCに改め、ターボ付きもあるから大変だったろう。

 リヤサイドのスライドドア採用にも、あえて後席乗降性や足許の広さを訴求せず。むしろ後席位置を前に出して、背後の荷物室拡大と、従来にない使い勝手を開発した。前後席とも着座位置は高め。ややアップライトに座らせることで、膝あたりの余裕を確保している。

 前後に短いもののボンネット位置が高め。所謂ベルトラインも高いので地上1mでの全周確認が難しく、苦しまぎれに? 特異なサイドアンダーミラーを左Aピラー脇の室内側に備えた。

 当初、なにが映っているのかと首を傾げたら、ドアミラー裏に設けた鏡面との合わせ技でボディ左前方の下側を確認させていた。

 

 それより感心したのは、片側後席を倒してテールゲートを開けると、ハンドルを持った状態で自転車を積み込めること。ローディングハイトが低いのだ。最寄りの駅まで自転車で通う孫娘が、降り出した雨に困る場面を想えば、私だって喜んで迎えに行く。自転車を載せられるクルマは少なくないが、これほど積み下ろしが楽な例は世界一。Nボックス+はフロア面の傾斜など、さらに使い勝手を向上させた。

 センタータンクならではの居住空間や後席足許の余裕はいうまでもない。でも、アシストグリップを見て分かる、ここまで天井を高くしなくてもよかったろう。ただ、ライフが当面継続生産されるものの、同じプラットフォームをセダン型で生かすには、通常より着座位置を高める必要がありそう。再びパッケージングが話題になるかもしれぬ。

 操舵力が全域で軽く、背が高いものの全機種VSC標準装備で旋回性に不安を覚えることはなく、実用燃費もNAエンジンで16km/Lが期待できよう。ただ走りの快さはターボ仕様にとどめを刺す。つい最近、常磐道でわがインサイトを軽く追い抜いていくNボックスがいた。

 Nボックス+は後輪荷重に対応して、骨組みやサスペンションに手を入れ、タイヤも14インチ版に統一。スロープデバイスを加えると総じて大人1名分重くなったので、燃費は植えるだろうが、静粛性と乗り心地が向上。できればターボ四駆で独自の存在感を主張したい。

 ブランド別ではダイハツがスズキを上回り、OEM分を加えた総台数ではスズキが上。ここにホンダが割って入る。Nボックスと同+で月産2万台ともなると、今年から来年にかけ、軽乗用車三つ巴の販売合戦が激しさを増す気配だ。Nを冠したからには、N360同様の「殴り込み」にも期待したい—-セダン名はN660かしら。★