祝!CR-Z・GT参戦連動企画!? 「最後のタイプR」ことシビック・タイプRのエンジンがレギュラーガソリン仕様ベースだった理由とは?

えー、CR-ZがGT300クラスに参戦するということで、これはこれで大変めでたいのです。

だがしかし! 

「スーパーGTに参戦するのはいいことだけど、『タイプR』の復活も頼むよー!」というのがホンダファンとしては率直な感想なのでは? 「なんならN BOX タイプRでもいいぞ」と言う声が聞こえてきます(空耳)。

そこでここではあえて「最後のタイプR」こと、FD2シビックタイプRをフィーチャーしてみます。あ、厳密には「シビック・タイプRユーロ(FN2)」が最後ですが、あれは彼の地(イギリスをはじめとしたヨーロッパ)ではゴルフのGTIのような超オールマイティカーという認識ですので、「サーキットベスト」が合い言葉の「純タイプR」とはまったく別モノなんですよ。だってFN2は全然実用できますもん。FD2のように後席に座った人が15分で吐いたりはしませんから(偏見)。

さてそのFD2ですが、おそらく開発陣営もわかっていたのでしょう。「これでしばらくタイプRは作れないぞ」と。

だから、各部門が思いっきり無茶してます。

たとえばシートなんですが、これ、タイプR伝統のレカロではないんですね。

これを開発責任者は「レカロはとってもいいシートだけど、ライセンス料は高い。自社でもいいシートが開発できるから、その分を他に回したい」といった発言をしています。

FD2型シビック・タイプRのシートは「あえて」伝統のレカロではなく自社製でした。

ではその分をどこに回したか。

それはブレンボのキャリパーであり、専用開発のタイヤであり、FD2のために作られたK20Aエンジンです。

そう、FD2シビック・タイプRというと、直前のタイプRであるDC5インテグラ・タイプRと同型式のK20Aエンジン搭載車であることから誤解されがちなのですが、実はインテとはまったく違う系統のブロックをベースに開発がなされたモデルなのです。

具体的にはFD2シビック・タイプR用のエンジンブロックはDC5用とはまったく違う、CL系アコード用に採用されていたブロック、つまりレギュラーガソリン仕様のアコード系K20Aをベースとしているのです。

ではアコード系K20Aの特徴とは何でしょう。

それは、ホンダがなぜかどんなクルマのエンジンでも追求してしまう「どんな車種であれエンジン出力で負けるな!」精神です。

いや、精神だけではパワーは出ないので解説をすると、アコード系K20Aエンジンは出力向上のために圧縮比を9・8と当時(2002年)としてはかなり高めにとっています。

しかし、そのままではレギュラーガソリンではノッキングが発生しますので、それに耐えうるブロックにする必要があります。

このため、アコード系K20Aは対ノッキング性を考えてブロック各部の剛性が挙げられていたのです。結果、ひと昔前ならスポーツエンジンといっていい155psを発生していました。レギュラーガスで。

また、性能面からの要望のみならず「アコードという車格(ホンダの中では上級)」を考えて、エンジンからの振動をなるべく減らしたいという欲求からも、エンジンブロックは非常に強く設計されていました(一方、インテR系K20Aは徹底的な軽量化と先鋭化を図って各部が極限まで削り取られたブロックだったのです)。

ここにFD2型シビック・タイプRスタッフは目をつけます。「アコード系エンジンベースなら高圧縮をかけ、かなり追い込んだ仕様でもいける」と。

ただし、実際にタイプR用として開発をする際にセレクトしたのは同じアコード系K20Aの中でも220psの高出力を誇る「ユーロR」用エンジンでした。これはハイオクガソリン仕様ですが、ベースは前述の頑健・レギュラー仕様K20Aです。

シビック・タイプR用エンジンとして選択されたのは、元々がレギュラーガス使用発祥の「ユーロR」用エンジンだった。

ところがこのユーロR用エンジンは、やはり「アコードという車格」をキープするために振動を低減するバランサーシャフトを備えています。もちろんシビックR開発陣はそのシャフトを速効で捨てました。振動なんてどうでもいいのです。速ければ。

これは「ユーロR」用K20A。バランサーシャフト付きで高級感あるエンジンフィールが特徴だった。

そうして、吸排気の究極ともいえるリファイン(エキマニ形状を優先させるために、邪魔となる電動パワステユニットを取り去って専用の油圧式に変えてます)とともに、11.5という超高圧縮を与えて完成したのが「最後のタイプR」ことFD2シビック・タイプRのエンジンなのです。

エキマニ配管を優先してパワステまで専用設計したK20Aユニット&補機類。

さてここで少し補足をすると、実はDC5インテグラ・タイプRのK20Aエンジンも圧縮比は11.5です。しかも最高出力やトルクもほとんど同じです(シビックはインテより5馬力高いが、トルクはほぼ同じ21kgm)。

しかしながら、このインテRとシビックRを乗り比べれば誰でもすぐにわかるのですが、シビックRのK20Aエンジンは全域でトルクが上乗せされていて、もはや「暴力的」といった加速をします。実際、最高トルク発生回転数はインテRの7000rpmに対して、シビックRでは6100rpmと大幅に低められています。これは極限の出力競争をしているエンジンにおいては大きな差です。

こうして最後のタイプRことFD2型シビック・タイプRは、目標であった筑波2000でのインテRラップタイム抜きという目標を見事達成するのです。4ドアで、しかもインテRより80kgも重いボディで。

最後のRことシビック・タイプRが目標としたインテグラ・タイプR。ちなみにインテRの名誉のために付け加えておくと、インテR用K20Aは純タイプR史上で初めてともいえる「ウルトラスムーズ&パワフル」な特性を持っていました。

無茶しますね、ホンダは。でも、だからこそ惚れちゃいます。

つうわけで、そんな「無茶で最後のタイプR」、そして「無茶を極めた無限RR」、さらには「無茶になっちゃった(すげえチューンド)欧州タイプR(タイプRユーロ)」を紹介するDVDを貼ってこの企画を締めたいと思いまーす。無茶なエンジン音が聞こえますよ。

(クリッカー編集部)