自伝的・爺ぃの独り言・12 <シトロエンDS5と初代DS>

【MONDAY TALK by 星島浩】

 今夏8月、シトロエンがDS5を発売。これでC3、C4、C5に対応するプレミアム版DSシリーズが顔を揃えた。シトロエンには、よりビッグなC6もあるが、就任直後にオランド大統領が公用車に指名したため、一躍、DS5が旗艦位置に就いた。

 

 全長4535㎜、全幅1870㎜、全高1510㎜—-スタイリングを単に5ドアハッチバックと称したのでは身も蓋もない。ルーフは長めだが、後半を低く抑えてクーペに近づけた空力ボディで、日本車ならプリウスを長く低く、ずっとワイドにした。上級車格感を具える。

 え? と目を疑うのはエンジン。C5と基本的に同じ1600ccターボだけのいわゆるダウンサイズ版。中身はおよそBMW技術で、DS3、DS4も同じ、ただしDS5はC5同様アイシン製6速ATを組み合わせた。

 

 もっとも大統領公用車はディーゼルHV四駆。前輪をエンジン、後輪をモーター駆動する。元々ディーゼル技術に強いプジョーゆえ、輸入されたら大きな話題を招くに違いないが、ポスト新長期並みのユーロ6規制発効後となると2年先かしら—-ルマン24時間にディーゼルHVプロトタイプで勝って、アウディの鼻を明かさなきゃ。

 

 ところで試乗は7月初旬の御殿場周辺。DS5ならではのプレミアム感覚は快適なインテリア空間とゴージャスな装備に認める。外装も凝っていて、ヘッドライトからAピラー根元に向けたサーベルラインが目を惹く。リヤサイドドアの形状と開け方は凝り過ぎの感なきにしもあらず。ホンダ車にも似たドアがあったっけ。

 試乗は約450万円の最高機種—-折しもユーロ安。DS3、DS4を含め、同級ドイツ車に比べると「安い」が第一感。凝った造りの本革シート仕様で、豪勢なオーバーヘッドコンソールを挟んだ前席側2枚&後席側1枚のスモークガラスルーフ、際立つ計器類などなど。ナビを別にしても450万円なら満足だろう。ドイツ車では得られない。

 パリ郊外ヴィリジに建つシトロエン・デザインセンターで、内装材や縫製見本が多数並んでいたのを思い出す。西陣織りもあったョ。

 

 全長はC5より短いものの、運転席に座ると、やはり全幅1870㎜を大きく感じる。箱根のワインディング路で気になったほどだから、道幅が狭い都市部では、より神経を遣うかもしれぬ。夜間はハンドルを大きめに切るとヘッドランプが向きを変える。が、それよりスモールランプが印象的。フランスの都心部はスモールしか点灯させない。

 スポーティな操縦性はDS3に敵わないが、しっかりした足と両立させた乗り心地の良さは文句なし。ミシュランタイヤが「円い」ことを改めて実感する。室内が静かな点も、やはりDS勢では抜群。後席足許が広く、ヘッドルームの余裕も案ずるに及ばなかった。一見、浅めの荷室も幅と奥行き、ボード下の使い勝手などに感心させられる。

 結論を言うなら、DS5はフランス中流階級をターゲットとする、粋でラグジュアリーなシトロエンらしいモデルだ。

             

 一緒に乗った平均80歳の3老が、懐旧談を賑わせたのは当然。

 私がDSを知ったのはアルバイト時代。バリサロンをAuto car誌が報じた。前衛スタイリングしかり。詳しくは解らないものの、技術的な中身に強烈なインパクトを覚え「このぶんなら自動車を仕事に選んでも食っていけるかもしれない」と直感したのがDS19だ。

 ただし村山の機械試験所への陸送を含む、モーターファン・ロードテストに参加できたのは1968年春。内外装に手を入れ、エンジン排気量も拡大したモデルチェンジ版=DS21パラスだった。

 

 今でも「前衛的」で通用するスタイリングもさりながら、オール油圧メカに圧倒される。まずは最低地上高90㎜だった車体が、エンジン始動で、むくむくと150㎜あたりに立ち上がり、エンジンを止めて立ち去ろうとするや、再び90㎜のシャコタンに。サスペンションは前輪ウィッシュボーン、後輪トレーリングアームで、各輪ごとに設けた窒素ガス室に働かせる油圧を制御する=ハイドロ・ニューマチックだ。

 

 パワーステアリングにもびっくり。駐車操作でハンドルを大きく切った状態で降りたら、じわじわ車輪が直進方向に戻っていく。

 ヘッドライトが操舵に連動して向きを変えるのにも仰天—-ただし当時の日本では許されず、正式輸入車は「改悪」を余儀なくされたと。

 ステアリングポストを手前に曲げてグリップリムを取り付けたスポークレスが稀有なら、操舵力が軽い上、ロックtoロック1回転のクイックレシオにも驚く。直進性に優れたFF車ならばこそだ。

 

 ブレーキも変わっていた。お椀を伏せたような半球形のペダルというより大型ボタンカップリングで、軽く足を載せたらじわっと、強く踏めば急制動がかかるが、意外に違和感を覚えなかった。制動を実感するのは前輪のみ。およそリヤブレーキを働かせていない。

 要するに「走る・曲がる・止まる」機能をおおかた前輪に任せているわけで、シトロエン2CVしか知らない私には衝撃的試乗だった。

 

 動力性能には驚かず。車両重量1540㎏。コラムチェンジの4速セミオートマチックはいいが、アップシフトの都度、ニュートラル位置で一服する時間が気になる。エンジンブレーキは効かせやすかった。

 走っていて高級車を実感したのは静粛性と制振性だ。なにせカーペット厚みが60㎜もあり、足許からの音、振動を遮断。オール本革張りのシートや内装にも感心。残念ながら価格をメモしていないのは、たぶん決定前だったと思われる。以来45年経過。それでも鮮明な記憶が残る訳はDS21パラスの類い稀な存在感にほかならない。

 

 往事はシトロエン、プジョーとも輸入代理店がコロコロ変わって定着せず、サービス工場の所在も明確ではないなど、オーナードライバーがDS21を選ぶには覚悟が要った—-今は著しく好転したけどネ。★

 

※ 毎週月曜日アップの「自伝的・爺ぃの独り言」ですが、10/8(月)はシステムの都合によりお休みさせていただきました。引き続き今号(10/15号)より連載させていただきますので、よろしくお願いいたします。大変ご迷惑おかけしたしましたことを、お詫び申し上げます。